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第十五話 「文化祭その2」

 春也は教室に戻ると直ぐに夜森のもとに向かった。


「夜森、あの店には先約いたらしくて発注はできそうにないから、別の店にしてくれって、先生に言われたんだがどうする?」


 学級委員である彼女は長いポニーテールをなびかせ、質素な眼鏡の奥から突き刺すような視線で、春也を睨んだ。


「そう……わかったわ。他の店を明日までに探しておくから今日のところは装飾を手伝ってくれないかしら」


 春也は、小さく頷いてその場を立ち去った。それを見届けた夜森は、手元の書類に目を向けた。


「やっぱり、あの委員長だけは苦手なんだよなあ」


 後ろ髪を掻きつつ、雅人の席の周りで装飾品を折り紙や段ボールなどの端材で作っている三人の側に、春也は腰を下ろした。


「あはは、確かに春也とは気が合いそうにないかもね」

「そうかもしれませんが、根はいい子なのですよ?」


 雅人と亜紀乃は、春也が座るのを確認するなり、手を止めて持っていた中途半端に折り込んだ折り紙を机の上に置いた。


「もしかして、亜紀乃はあいつと仲がいいのか?」

「まあ、それなりにですわね」

「亜紀乃ちゃんは友達が多いなあー」

「いや、雅人だってそこそこ多い方だと思うんだが?」


 春也と亜紀乃が、同時に雅人に向けて半目で見つめる。

 やがて、痺れを切らしたのか雅人が、


「そ、そんなことないって! ほら、いつも一緒にいるのは君たちじゃないか」

「遠慮するなって」

「別に、ご謙遜なさらなくてもよろしいのですよ?」


 春也は左肩、亜紀乃は右肩に手を置き、一見は優しそうな瞳でじっと見つめる。


「も、もう! こんなことしてないで二人ともちゃんと仕事して!」

「わかりましたわ……」

「わかったよ……」


 二人は、雅人の両肩に置かれた手を退けて、しっかりと椅子に座りなおす。


「そういえば春也、先生に呼ばれたらしいけど何かあったの?」

「ああ、発注先に連絡できたみたいで、先約がいたらしくて、発注は見送りになった」

「え、連絡取れたの? あの電話番号で」


 驚いた雅人は、目を見開いた。


「俺もびっくりしてるけど、先生に確認したし、間違いない」

「うーん……ということは、どっちにしても変えなきゃいけなかったということになるのか」

「そだな」


 春也は三人がしている装飾品作りを手伝おうと段ボールとスティックのりに手を伸ばすと、ある違和感が襲ってきた。


「そういえば、宇宙は……」


 それまで無言で作業をしていたであろう人物が座る方へと視線を送る。


「……………………」

「……おい」


 春也は一言声をかけたが、返事はない。


「…………おい」


まだ返事はない。


「………………おい!」

「えっ、えっ!? なっ、なに」


 当の本人は、細かな作業に集中していたためか、おののき持っていたト音記号の形をした段ボールが宙に浮いた。


「なにって……もしかして、今まで何も聞いてなかったのか?」


 そうして彼女は、無言でこくんと頷いた。

呆れた顔でため息をつく春也は、事の成り行きを事細やかに説明した。


「……というわけだ。いつ委員長から連絡が入るかわからないから、すぐに動けるようにしておけよ?」

「うん、わかった」


 随分とあっさりした返事を返し、手元の小物に集中し始める。


「……それ、そんなに楽しいか?」

「うん、楽しいよ。すっごく」

「そうか……」


 春也も手伝おうと、山のように積まれた段ボールに手を伸ばしたとき、ふと雅人と亜紀乃に視線を送った。

 その先には口角を上げて笑う二人が、明らかに小馬鹿にしたような顔をしていた。


「……な、何笑ってんだよ」

「だって、ねえ」

「だって、ですわね」


 二人して見合わせて、ほくそ笑む。

 春也と宇宙が、二人には数日前まですれ違っていたとは思えない程に、仲睦まじくなっていたように見えたのだ。


「お、お前らも集中してやらないと、この山を消化できないんだから、しっかりやってくれ!」


 照れ隠しなのか、顔を覆うようにして作業に没頭するす春也。

 それを見て雅人と亜紀乃は、ニヤつきながら手を動かし始めた。

 二人の隙間からは台風一過の晴天のような清々しさが雅人の口許を緩ませた。


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