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第十四話 「文化祭その1」

 六月二日。それは春也たちの通う高校の文化祭が行われる二週間前、つまり準備期間に入る日付だった。

 翠陵学園の文化祭、通称『清凌際』は一般公開を二日間かけて行うのが本番となり、一日目と二日目で各クラスが交代で出店したりするのが通例となっていた。


「えー、それでは何かやりたいことがある人は言ってください」


 学級委員長の号令でクラスの出し物を決める会議が始まった。教壇に立ち、各々がやりたいこと言っていく。その種類は様々でカフェやお化け屋敷などの定番なものからマイナーなものまでたくさんの意見が飛び交った。


「ねえ春也、文化祭って何をするの?」


 おそらく学校の行事の大半は詳しく知らないであろう宇宙が首を傾げて耳元で囁く。


「文化祭ってのはな、クラス単位で店を出したり、見て回ったりとかして楽しむものだ」

「ふーん。その割には浮かない顔してると思うけど?」

「仕方がない、友達が少ないからな」

「あっさり諦めるんだ」

「諦めではない。事実を言っただけだ」


 強がる春也を、そう? と、ニヤニヤしながら見ていた。


「そういえば、春也は何かやりたいことあるの?」

「いや、別にないな。そう言う宇宙はどうなんだ?」

「私も別になんでもいいかな。よくわかんないし」


 賑やかなクラスメイトをよそにこの二人だけは明らかなその他との温度差があった。

 そんな二人の雰囲気を感じ取ったのか雅人が振り向いた。


「君たちはもうちょっと楽しそうにしたらどうなの?」

「楽しそうにって言ってもなあ…………無理だな」

「そこまで断言する!?」


 脱力する雅人に春也はデジャブを感ぜざるを得なかった。


「もちろん、亜紀乃ちゃんはそんなことないよ……ね?」


 淡白な二人を後にして雅人は一つとなりの亜紀乃に助けを求める。


「ええ、楽しみですわ」

「っ! ……本当?」

「そんなつまらない嘘をつく人間ではないですわ」

「よ、よかったー!」


 少しだけ報われた雅人であった。


「じゃあ、亜紀乃は何かやりたい希望でもあるのか?」

「いいえ、特にございませんわ」

「あ、あれ? 盛り上がってるのって僕だけ?三人ともやる気ない?」

「「別にそういう訳じゃない」」

「別にそういう訳じゃありませんわ」


 見事にハモった三人を前にして諦める雅人であった。


「――それでは案も出揃ったとこで多数決にします。自分がやりたいところで一人一回ずつ手を挙げてください。同票だった場合は再投票という形にします」


 多数決で決めることになり、春也と宇宙は特にやりたいことがなかったので票が一番多そうなカフェに一票入れ、雅人と亜紀乃はクレープ屋さんに一票入れた。決してお化け屋敷に手を挙げることはなかった。



 結局、クラスではカフェをやることに決まった。カフェに決まるとすぐに担当の役割が割り当てられた。不運なことに春也と宇宙はお茶菓子の原料を仕入れる役になった。


「なんで俺がこんなことをしなくちゃいけないんだよ」

「しょうがないでしょ。くじ引きで決まったんだから」


 原料の仕入先と量について一度担任と話す必要があるため、二人は職員室へと向かっていた。


「でも私は春也と一緒でよかったよ」

「…………なんで?」

「だって春也たち以外よく知らないし、ほとんど話したことないし、ほら私って人見知りするし」

「……最後のは初めて聞いたんだが」

「てか、お前よくちやほやされなかったな」

「…………へ?」

「いやだからさ、普通は転校生ってだけで質問攻めとかあるじゃん? そういうのがお前にはなかったなって」

「それはほら、私が困るからジャミングしてるから……」

「うん? ジャミングって…………」

「ほらほら! 職員室に着いたよ!」


 また隠し事かと思い、まあいいかと安易に考える春也。

 春也は職員室のドアに手をかけ、そっと静かに開けた。


「「失礼しまーす」」


 二人揃って挨拶すると手前にある席から男性教師が立ち上がりこちらに寄って来た。


「鈴村と星波か、仕入れるものは決まったのか?」


 分厚い胸板と盛り上がった筋肉によって凄まじいほどの印象を植え付けられ、春也は少し怖気付いていた。


「り、量は決まってませんが」


 そう言って春也はクラスメイトから受け取った原料の名前が書いてあるメモをその教師に渡した。


「なるほど。で、仕入先は?」

「仕入先は…………」

「わかった。業者の方にはまず私が話をつけておく。詳しい原料については後日、君たちから発注してくれ」

「わかりました。失礼します」


 何事もなく終わり、春也と宇宙は職員室を後にする。


「結局お前は一言も喋らなかったな」

「まあまあ、初めてなんだから今回は見学ってことで」

「そういうものなのか」

「そういうものなの」


 職員室に行き、緊張から疲れたのか春也は背伸びをする。すると、階段を下りたところの角から雅人が走ってくるのが見えた。


「どうしたんだ?そんなに急いで」

「春也! メモはもう渡した?」

「もう渡したが」

「っ! あのメモは間違ってて、こっちが正しいメモらしい!」


 雅人は制服のポケットから小さな紙切れを差し出す。


「ってことはこのまま電話なんかしても…………」

「そうだよ! 多分、連絡とれなくて困っていると思う!」

「それはまずいな…………急いで先生のところに行ってくる! 宇宙、お前は先に戻っていてくれ」

「わかったよ、行ってらっしゃい」


 春也は雅人からメモを受け取り急いで職員室に戻る。

 勢いをつける事なく静かにドアに開け担任教諭を探す。そこには電話の目の前で考えごとをしている男性教師が立ち尽くしていた。


「先生! 実はあのメモには間違いがあって…………」

「ああ、鈴村か。業者に問い合わせてみた所どうやら先約がいたらしくて発注は無理だそうだ」

「本当はこっちが――ってあれ?」

「仕入先を変える必要があるようだから学級委員の夜森(やもり)にそう伝えてくれ」

「え……わ、わかりました」


 春也は、先生が連絡した宛先と新しく渡された連絡先が一致していることを確認し、ある種の違和感を覚えた。

 失礼しましたと、一言だけ添えて速やかに職員室を出た。


「なんか調子狂うなあ」


 と、つぶやいて自分の教室に戻った。




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