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007話 不慮の事故ですよ?

「………そうですか、なら決まりですね。

 私は、シンジ様の臣下として、命の限り働きましょう」


 満足そうな表情で頷いたキキちゃんは、頭を垂れた。

 その瞳が使命を帯びたカッコイイ視線だったのが印象的だった。

 しかし、なんかこう、臣下の誓いをたてる場面としては、俺が正座しているのはかなりオカシイ気がするが…まぁ、それもまた良いだろう。正座しているのは俺の意志だしな。


「とはいえ、そもそも魔王とはなにをすればいいのだ?

 RPGの魔王のごとく、城に引き蘢り勇者が来るのを待つのが仕事なのか?

 それとも、どこぞの姫でも攫ってくれば良いのだろうか?

 まさか、エロゲの魔王のごとく、肉欲の赴くままに行動するのが仕事なのか!?

 だとしたら、第一階層から最終階層まで触手部屋で埋め尽くされたダンジョンをご所望する。

 安心してくれキキたん、俺はそこの黒髪少女と共に立派な触手の城を作ってみせる」


 そう聞くと、キキちゃんの使命に燃えていた瞳の炎が消えるのが解った。

 あーあ、なんだこの残念感…なんだ、この、全部台無しみたいな空気は?


「…そうですよね。シンジ様はそういう人ですよね、はぁ…」


 あ、なんか、出逢ってから一日も経っていないキキちゃんが俺のことを完璧に理解したような表情をしている。諦め感が滲み出てるな…

 やっぱりアレだな、こんな短時間で意思疎通出来るとか…俺達、運命の二人なんだと思うよ?

 急に疲れた表情を浮かべたキキちゃんは、溜め息を吐いてから語り出した。


「…まず、触手云々はともかく、ご自分の《迷宮》なり《城》なりを持つ事が先決です。その為に探していたのが《 迷宮の心臓ダンジョン・コア》なのですが…それについては後ほど。

 次に、シンジ様の名を世に知らしめる必要があります。

 シンジ様は紛うことなき本物の魔王ですが、悲しいことに世は群雄割拠の様相ですからね…

 『俺様が魔王だぞぉー』…と、叫んでも『馬鹿が一人で騒いでる』程度にしか思われないです。実際、そんな変な人は町を歩けば2、3人見かけますしね。みんな、冷ややかな目で見てますが…

 そんな悲しい結末を避ける為にも、どうにかしてシンジ様を魔王と認めてもらう必要があります。

 コレと、魔王になった後については、後日お話をしましょう」

 

 そうか…今の俺は魔王の前に《自称》が付くのだな。

 そして、端から見れば騒いでる馬鹿にしか見えないと…

 

「救い様が無いな!!」


 叫んでしまっていた。



「で、最初に戻るのですが。

 私達には拠点が必要です。別に、《城》や《迷宮》でなくてもよいのですが…まぁ、魔王である以上、それ相応の拠点を持つべきだと思うのです。

 その為の《 迷宮の心臓ダンジョン・コア》です。コアさえあれば、結構、お手軽に《迷宮》を作る事が出来ますからね。

 で、それを見つける為にココに来た訳ですが…

 彼女に確認した所、この城にはやはり《 迷宮の心臓ダンジョン・コア》があるそうなのです」


 俺が平常を取り戻したのを見計らいキキちゃんは語り出した。

 おそらく、俺が部屋の外に出ている間に確認したのだろうな。

 彼女…と言われ反応した黒髪少女は、慌てた様子で物陰から姿を現し、躓いて盛大に転けた。

 

「……ぎゃふ!?」


 俺は直に、転けた黒髪少女を抱き起こした。

 鼻を打つけたのか、両手で鼻を抑える仕草は地味に可愛い。

 涙目で変な声を発している彼女をじっくり観察する。ふむ、妹の小さいときを思いだすな。

 …改めて見ると本当に人間の子供のようだった。


 俺の視線に気付いた黒髪少女は慌てて立ち上がり、礼を述べてくれる。良い子だ。


「あ、ありがと、ございます」

 

 ふむ、やはり可愛い。

 改めて言うが、俺にはロリ属性は無い。

 ……と、思ってる。


「……で、ですね、その子いわく、私たちの動かした先代魔王様の像があるじゃないですか?

 その内部に隠されている…らしいのですよね」


 言い難そうに言うキキちゃん…

 俺も絶句だな、もう、◯もっこりネタは終わりだと思ってたのに…残念だ。



 今一度、地上に舞い戻り◯もっこりの石像を確認する。

 キキちゃんは、あの履いてるのか解らない格好で来ている。着るなら着るで、もう少し恥じらいが欲しい所ではある。今回は黒髪少女も一緒だ、なんだかんだで懐いてしまったのかもしれない。

 俺は、○もっこりを再度見回した。うん、どうみても○もっこりだ。


 これの何処に、《 迷宮の心臓ダンジョン・コア》とやらがあるのだろうか?

 俺がその疑問を口に出そうとしたとき、黒髪少女は迷わず、◯もっこりの◯もっこりたる所以の部位に手を突っ込んだ…

 勿論、キキちゃんと俺は唖然…一体、この子なにしようというの!?


 しばらくして黒髪少女は…


「う、とれない、しかたない…えい」


 バキ…


 無慈悲にもその稲荷をもぎ取ったのだ。

 恐ろしい……恐ろしい子!!

 おまたが寒くなってしまった、結構来るモノがあるな…数日は夢に見るやもしれない。


 そして、その戦利品を何事も無かったかの様な顔で持ち帰って来る。

 

「はい、もってきたよ」


 もぎ取ってきたよ…の間違いでは無かろうか?

 キキちゃんはその緑の苔まみれのお稲荷さん…玉を複雑そうな顔で受け取った。


「……ありがとうです、確認させていただきます」

「ん…」


 キキちゃんは玉に付着した苔を丁寧にとる作業を始めた。黒髪少女もその様子を覗いている。

 見る見るうちに苔は取れて行くが、それに伴いキキちゃんの表情が真剣な物に変わって行くのが解った。

 数分後には、あの苔まみれだった玉が、見違える様に美しい漆黒の宝玉に変わっていた。

 ほぉ…これには素直に感嘆である。

 キキちゃんも最終的には驚きの表情を浮かべてらっしゃる。


「本当にあった、凄く綺麗です…」

「ほんと、きれい」


 二人が、ポツリとそう呟いたのが聞こえた。

 うむ、やはり女の子に宝石は合うね…

 そう思いながら、フラッと、視線を違う方向に向けソレが居る事に気がついた。


 体長は俺と同じくらい。両手に大きな赤黒い鎌を持った、見た目は俺も良く知る肉食の昆虫…

 そう、でっかいカマキリがキキちゃんと黒髪少女の後ろに迫っていたのだ。

 やばい…そう、思った時には既に魔法を発動させてる暇はなかった。

 カマキリの野郎がその鎌を二人に向け振り上げたのだ。


 それで、服が破けるだけなら良い。

 しかし、そんなことにはならないだろう…


 咄嗟に走り二人を押し飛ばす。

 呆気にとられる二人の視線が網膜に焼き付いた。

 そして、俺に向かって鎌が振り下ろされた。



 間一髪…というか、なんというか。

 俺の顔面すれすれを通過した鎌は、何も無い床に突き刺さった。

 あっぶねぇー、死ぬ所だぞコレ?

 

 安堵の息を吐くが、カマキリさんは休ませてくれないらしい。直に片方の鎌を振り上げた。

 転げながら移動し、振り下ろされた鎌を躱す。心が休まる気がしない…

 カマキリが俺を追いつめようと動き出したとき、それが俺の耳に届いた。魔法の詠唱である。


「疾風の刃を刻め!!《風刃ウインド・カッター》!!」


 術者はキキちゃん、低い姿勢から手を前に突き出し、掌に魔法陣を浮かべている。

 この時、履いてるか確認。履いてた。

 魔法陣は、一瞬、緑色の光を放ち、次の瞬間には疾風の斬撃となって吹き出した。

 斬撃は、カマキリの身体に申し訳程度の傷を付け、吹き止む。

 カマキリの注意がキキちゃんに向いた。


 ヤバい、キキちゃんがやられる…

 俺は駆け出そうとしたが、もう一人の存在が目に映った。

 しかし、もう一人の存在はカマキリにとって不運だった。


「…はい、でてきて!!」


 黒髪少女が何事か呟いた後に、その背後に紫色の光を発する魔法陣が現れた。

 そして、そこから這い出る様に伸びる触手が七本…結構、大きいのが出て来た。

 

 素早く飛び出した数本がカマキリを捕らえようと動くが、カマキリも触手を鎌を振り下ろす。しかし、触手はその動きを読んでいたらしく、器用に鎌ごと巻き付いた。

 次の瞬間には触手に拘束された哀れなカマキリが一匹…

 

「はい、おしまい♪」


 少女がそう呟くのと同時に触手は力を強め、哀れカマキリ…触手に握りつぶされてしまった。

 何度見ても、素晴らしい触手捌き…感服ですな。

 キキちゃんは驚いたらしく、唖然とした声を発する。

 

「D級が平均の《殺人蟷螂キラー・マンティス》を一瞬で…凄いです」


 ふむ、どうやら凄いらしい。

 やってること、結構えげつないけどな…

 まぁ、これで片付いたか…と、思ったのだけど…


 ゾロゾロゾロ…


 気がつけば、何処からともなくカマキリ共が大量にやって来ました。その数、11体…

 キキちゃんは絶望の色を浮かべ、黒髪少女は触手で牽制する…

 キキちゃんの悲鳴が轟いた。


「なんで、結界がある筈なのに魔物が入ってるんですか!!!」


 ふむ、まったくわからない。

 しかし、突破しなければなるまい…仕方ないな、威力高過ぎだから使いたく無いけど…


 俺は片手をカマキリ共に向けて、頭の中でアレを思い浮かべる。

 そう、何故か詠唱無しで放てるアレを…


 俺の様子を不思議に見ていたキキちゃんは、何かに感付いたのか黒髪少女の頭を抱え身を低くする。

 ふむ、やはり考えている事が伝わっている、以心伝心だね♪


 カマキリの一匹が鎌を振り上げた瞬間。

 俺の掌に魔法陣が現れ。刹那。強烈な雷光が迸った。


 高威力かつ、高出力…

 化け物蛇の頭を一瞬で破壊した俺の最強業《雷電サンダー・ボルト》…

 一瞬の静寂と、煙の後、俺は敵の消滅を確認する。


 流石に、あの蛇よりはるかに小さいカマキリは跡形も残らなかったらしい…化け物じみた威力だよ、本当。

 そして、あることに気がつき、流石に顔が青くなった。

 どうやら、その威力は、カマキリ共を一瞬で消し去っただけでなく、崩れ去りそうな欠陥を抱えたこの城にも止めを刺したようだった。空いちゃったのだ、壁に大きな穴が…揺れているのだ、天井が…


 それを目撃したのは俺だけでなかったらしく…


「に、逃げるです……」


 咄嗟に、地下室の入り口に飛び込んだ俺とキキちゃん、そして黒髪少女…

 本当その、ギリギリの瞬間に天井が崩れた。

 


 

名 前:黒峰真治

ジョブ:自称魔王

年 齢:18歳

性 別:男性

異 名:紳士、自称変態魔王

スキル:NO DATA

魔 法:《雷電》《魔除けの魔法陣》《魔除けの結界【B級】》《 狂乱の宴ヌルウネ・パーティー》…

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