006話 魔王になってくださいますか?
キキちゃんを触手束縛から解放するのに数分を要した。
理由は触手が俺のいうこと聞かなかったからだ…
黒髪少女が、『まりょく、あげなければきえるよ?』『まりょくで、せいぎょするんだよ?』などと言っていた…おそらく、触手は《魔力》なるものを供給し続けることによって形を維持し、またそれを操ることによって制御出来るのだろう。
しかし、俺はそもそも《魔力》というものがどうやって排出されているのか知らんし、無論、操り方など知っている訳も無い。
端的に言うと、制御出来ない肉欲の赴くままに動く触手を生み出した訳ですよ、はい。
最終的に黒髪少女がキキちゃんを救い出す為に自身の触手を生み出し、俺の触手VS黒髪少女の触手な状態となった。その際、組んず解れつの触手による触手の為の触手プレイが発生したのだけど…俺はその情景を、表現すべき言葉を知らないため割愛する。
結果だけ言えば、黒髪少女の触手の圧勝だった。
かなり初期の段階で俺の触手からキキちゃんを奪い返した黒触手(黒髪少女の触手)は、その変幻自在の動きをもって俺の触手を弄び、最終的に触手の根っ子にあった魔法陣を破壊し、俺の触手を消し去ったのだ。
成る程、出て来た魔法陣を破壊されても消えるらしい。
それにしても黒触手いいなー。
俺の触手より幾分小振りだけど、その速さと柔軟性は俺の触手より遥か上を行っている。そしてなにより術者の言うことを聞く良い子…嗚呼、欲しいなあの子。
解放されたキキちゃんは呆然としていた。
俺はというと、キキちゃんの姿を見て動きを止めていた。
乱れた服はまるで、事後!!
シュンとした耳が愛らしい、愛らし過ぎる!!
触手の粘液がねっとり付いた身体は、はてしなくエロい!!
おれは、俺はその姿に魅入っていたのだ。
素晴らしい、素晴らしいぞ触手!! 二次的効果も見込めるとは…最高じゃないか!!
「なに…みてるんですか?ねぇ?」
意識を取り戻したキキちゃんが睨んで来た。
あ…マジで怒ってますね。
はい、すいません。
■
キキちゃんは、触手によってヌルヌルになった服を脱ぎ、黒髪少女が何処からか持って来たタオルで軽く身体を拭ってらっしゃる…
俺はというと、例の触手部屋の方に追い出され、部屋の前で待機を命じられている。
着崩れの音に耳を澄ませるが、如何せん、壁が厚過ぎて音もクソも聞こえやしない。
聞き耳は立てるものの、別に覗きに行こうなどとは思わない。
理由は、これ以上なにか仕出かし、フラグが修復不能となるのを忌避しているからだ。
しばらくして、部屋から出て来た黒髪少女が、入って良いと伝えに来た。
俺は彼女の後ろに続くが…未だ、彼女があの黒ボールと同一人物である事が釈然としない。
まぁ、人化した姿がロリ娘だったのは良いのだ。理由は、もしロリ娘でなかったら、喘ぎ声を上げた時点で襲っている自信があるからだ。
実際、キキちゃんにリアル触手束縛を見せてもらったときも、理性が飛びそうだった…
部屋に入ると、今まで来ていたレザーアーマーではなく、動き易そうな白いシャツを着たキキちゃんがソファに座っているのが目に入った。
シャツはかなり大きめのサイズらしく、袖で手が隠れてしまっているし、着丈に至っては膝くらいまでの長さまで…!? 馬鹿な、下半身履いてないようにみえるだと!!
一瞬、周囲を見渡すと、部屋の一角に干されたキキちゃんのレザーアーマーがあった。
無論、ズボンも一緒に干されている…
つまり…履いてないのか? いや、流石になにか履いてるだろ…いや、でも…
キキちゃんは俺がそんなこと考えていると露知らず。姿を一瞥して頬を膨らました。
頬を膨らませ不機嫌な様は愛らしさを増長しており、押し倒したい衝動に駆られる…
…ヤバいな、理性を取り戻せよ俺…
動きを封じられた俺と、怒っている姿のキキちゃん…それをオロオロと眺めていた黒髪少女が、恐る恐る声を発した。
「えっと、えっと、えっと……」
うん、何を言えば良いのか解らないらしい。愛いヤツめ。
俺は黒髪少女の頭を一撫ですると、キキちゃんの前に正座した。
心の中の煩悩さんには少し休んでいて頂こう。
「……なにをやっているのですか?」
俺の姿を一瞥し、一瞬ビックリした表情を浮かべた後、キキちゃんが声を発した。
「まぁ、あれだ、正座だよ正座。
自分の誠意を見せる為には、正座こそ相応しいと思うのだよ俺は。
……え〜と、それでだな、触手で襲って本当にごめん!!」
そのままの姿勢から土下座にシフト。もう一度言おう、日本人の必殺謝罪法《土下座》である。
この世界に来てから初めて合った人であるキキちゃんに、同意無しの触手プレイを強行しようとしたのだ。如何なる理由があろうと、それはマズイ。腹を切ってでも、許しを請うつもりでいた。
キキちゃんは俺の突然の行動に、今度は心配そうな視線を向けて来る。
「な、なにをしているのですか!? 頭を上げてください!!
シンジ様が変態さんなのは、最初の自己紹介で知ってましたし、変態的な行動に関しては別に怒っていませんから。私、怒ってないですから!!
いきなり襲われて、凄くカチンときましたけど…そんなに怒ってないですから!!!」
そうか…怒ってないのか…
ん? いや、怒っているのかそれは?
俺が身体を起き上がらせると、キキちゃんもこちらを見て溜め息を吐いた。
「…で、聞きたいのですけど。シンジ様は本当に……その、魔導…あ、魔法を操れないのですか?
後…もしかして、この世界の知識も全然ないのですか?」
「最初からそう言ってると思うのだが…」
コレには苦笑いである。
この言葉にキキちゃんは頭を抱えてらっしゃる。
「…じゃあ、なんで、一応に魔法が使えているのですか?
なんでさっきも触手を呼び出せたんですか?」
「さぁ? 全く身に覚えの無い事だが、何故か使える気がしてな。
多分、異世界トリップもののお約束の《チート能力》だとは思うが…恥ずかしい事に、俺は《チート》を与えてくださる神に会った訳でも、自分で《チート》を選んで来た訳でもないから。自分の能力がどういうもので、どんな影響があるのか皆目見当がついていない」
「ちーと?? 《スキル》…いや、《固有スキル》のことですか?
シンジ様は《固有スキル》をお持ちなのですか!?」
目を丸くし、驚いた口調のキキちゃん。
ふむ、なんでそこまで驚くのだろうか?
俺が悩んでいると、黒髪少女が口を開いた。
「そういえば、まおうさまも、ちーと使ってたよ?」
「え!? それは先代の魔王様も《固有スキル》の持ち主だったと言う事ですか!?」
「う…うん、たぶん、その、えーと…ごめんなさい!!」
あ、物陰に隠れた…
キキちゃんも『しまった…』とか言ってるし…
それから、キキちゃんは何事か考えた後、ワザとらしい咳を1つ。
「ゴホン!…えーとですね、今までシンジ様と私の間でちょっとした認識の差があったようですね。
その差をここで埋めたいと思うのですが…それでいいですか、シンジ様?」
成る程、話し合いか受けて立とう。
何事も、会話パートから入るのが常識だ。
「それでは最初に…
確認ですが、シンジ様はこの世界について何も…コレっぽっちも知らないのですね?」
「ああ、さっきも言ったがそうだな」
「…次に、どうしてこの世界に召喚されたのかも、自覚が無いのですか?」
「ああ、全くの無自覚だ」
「……では、なんで私が《 迷宮の心臓》を探しているのか解っているですか?」
「いや、全く」
何度か問答を繰り返した後、キキちゃんは俯いてしまった。
ふむ、落ち込ませてしまったかな?…と、心配だったが、杞憂だったようだ。
数分俯いた後、顔を上げたキキちゃんは晴れ晴れとした表情だった。
「では、最後に………魔王になってくださいますか?」
それは、本来ならば、最初にされるべき質問であり、こんなムードもくそも無い所でする事では無い。
俺は自分が魔王として召喚されたのだと言う事は知っていたが、俺は一言も自分から『魔王になる』とは言っていなかったのだ…
彼女がどうして今頃になってこんな質問をしてくるのか考える…
おそらく彼女も薄々感付いてた答えの質問だった筈だ。
それをわざわざ聞いて来た…それは、ちゃんとした意思確認をしたいということの筈だ。
ならば、誠意には誠意で答えねばなるまい。
俺はなんでキキちゃんに付いて来たのだろう? そこから考える。
キキちゃんが美少女だったのが一番の要因だな、うん。ソレ以外に理由は無い。
そんな適当な理由で付いて来ていたのだ。しかし、ソレで良いと思う
人が物事を決める最大の理由何て、そんなもので良いと考えているのだ。
好きなものがあるから、そっちの道を歩く。
可愛い子がいるから、あの席に座りたい。
助けたいと思ったから、助ける。
夢があるから、その進路に進みたい…
例えが適当すぎるな。
まぁ、そんなもので良いと思う。理屈では無いのだ。
だとするならば、俺の答えは決まっている。
「キキちゃんみたいな可愛い娘が仲間でいてくれるなら、俺は魔王になるよ」
名 前:黒峰真治
ジョブ:魔王
年 齢:18歳
性 別:男性
異 名:紳士、変態魔王
スキル:NO DATA
魔 法:《雷電》《魔除けの魔法陣》《魔除けの結界【B級】》《 狂乱の宴》…