005話 触手を作ってみようか?
壁には美しい絵画が飾られ、床には緻密な模様の絨毯が敷かれている。棚に置かれた、壷や石像なんかも高価な物のようだ。部屋に置かれた家具類は全て重厚な…あまり言葉のボキャブラリィが無いから表現し難いが、成金の社長の自室にありそうな、金持ち然とした家具が置かれている。
他に家具の共通点をあげるとしたら、全て黒で統一されている事か? 良く言えばシックな…悪く言えば厨二な部屋である。
俺はその部屋に置かれたフカフカのソファ……やはりコレも黒……に身体を沈めながら、そんなことを考えていた。
ソファの前に置かれたローテーブルの上には黒い球体こと《暗黒魔獣》が自分に下される沙汰を震えながら待っていた。
この部屋は先程の触手部屋のさらに奥。この地下に隠された隠し部屋である。
この黒ボールいわく、先代魔王の自室らしい。
成る程、魔王は厨二だったわけだな。
そして黒ボールは、この部屋を守るよう魔王に頼まれ、ずっと守っていたとのこと…何処のハチ公だ?
「すごいですよ、シンジ様!!
ここにある物を売ればすごい大金が手に入ります!! 宝の山ですよ!!」
うん、キキちゃんはしゃいでるね。
尻尾を盛大に振ってまぁあ…
目が《¥》だよキキちゃん?
「おい、黒いの。このままじゃ、魔王の私物が売られちまうぞ? いいのか?」
俺の問いかけに黒ボールは…
『…うん、べつにいい。
まおうさまに、《もし、お前を倒すヤツが居たら。ここにある物好きにしても良いから♪》っていわれたから…べつにいい…だから、いのちだけは、いのちだけは』
あーあ、また震え出した…
一応、ボス的な立場だろお前…それで良いのか?
…まぁ、可愛いからいいか。
そして、先代魔王!! 以外と寛大な性格だな、おい!!
…む、そうじゃない、そうじゃない、俺にとっては魔王も魔王の財宝もどうでも良い。
問題なのは、コイツが触手の本体かどうかだ。
「ふむ、では話を変えよう。
お前は触手の本体なのか? あの触手はどうやって出した? 身体の何処に収納してある? あのイボイボは何の為に使う物なのだ言ってみろ? あれの射程はどれくらいあるのだ? 効果範囲は? やっぱり、アレをアレする目的で使っているのか? 今までの経験人数は?」
怒濤の質問攻めを開始する。
しかし、黒ボールはオロオロするだけで返答して来ない。どういうことだ?
『ほんたい? アレをアレ? けいけんにんずう???』
あ…頭に《?》が浮かんでいる。
しまった…少し自重するか…
深呼吸、深呼吸、す〜はぁー、す〜はぁー、ハァ、ハァ、ハァ…
「…悪い、興奮した。では、最初に質問、あの触手はどうやって出した?」
俺の質問に黒ボールは即答した。
『まほーで、だしたよ?』
まほー?…魔法だと!?
あの触手は魔法の産物だというのか!!
だとすると…俺にも出せると言うのか!?
「だ…出して見てくれるか? その…逞しいアレを…君の触手を見せてくれ!! ハァ、ハァ、ハァ…」
あ…少し離れた所で、壷を眺めていたキキちゃんが冷たい視線を向けてる…
まぁ、それすらも快楽に互換できるんだけどねっ!!
『……うん、わかった』
少し悩んだ後コクリと頷き、何やら呟き、唸り出した。
そして…
『はい、でてきて!!』
可愛らしくそう叫ぶと、黒ボールの真横に紫色の魔法陣が浮かび上がる。
それが妖しい紫色の光を発するのと同時に、魔法陣の真ん中からソレが現れ、ニョキニョキっと伸びて来た…そう、ソレは触手である、触手が生み出されたのだ!!
少し小振りで細いが…その色、艶、それは触手以外のなにものでもなかった。
『どう?これで、いい?……………なに!!なにをするの!?』
黒ボールの悲鳴が聞こえるが、俺には聞こえていない。聞こえない事にする。
俺は現れた触手を掴み、手触りとヌメリ度を確認。
うむ、先程の触手部屋で俺の胴に巻き付いたのと同じ物だ。間違いない。
くくく、そうか、魔法か魔法なのか!!
俺の手の中で触手が暴れ出す、昔、うなぎ掴みをした事があるが似た感じだな。
ハハハ、うなぎ掴みで一匹たりとも落とさなかった俺から逃れられると思ってか?
「んんあ!!…あ、ああん!!……あ、あ、やめて、こわれるぅう!!」
あ、喘ぎ声…だと!?
恐る恐る顔を上げると、ソコに居たのは黒ボールではなくて…
「やめて、くだひゃい…らんぼうに、しないで…」
そこに居たのは、真黒なドレスを身に纏った10歳くらいの少女…
その無造作に伸ばした髪は吸い込まれるような漆黒。
トロンとした金色の瞳は、俺のことをじっと見つめている。
えーと、おい、黒ボールは何処に行った?
俺が驚きで手を緩めると、触手はスッと抜け出し、光の粒子になって消えた。
少女は頬を膨らませ、両の手で身体を抱き、涙目でこちらを睨みつけて来る。
呆然とする俺の頭に、背後から空手チョップが落ちて来た。
振り向くと、鬼の様な怒気を含んだ笑みのキキちゃん…
え、なに、俺が悪いの?…
「ま、待ってくれ、キキたん!!
ま、前にも言ったとおもうけど、俺にはロリ属性と一部属性には耐性が無いと言うか、属性が無いと言うかさ。だからこの娘のように10歳くらいの子は射程圏外であって、俺のセンサーは全く反応しないんだよ!!
なんだったら、確認してくれても構わない。神に誓ってロリッ娘を襲う様なことはしない!!」
ズボンのベルトに手を掛け様としたとき、またチョップが落ちて来た。
「な、なに脱ごうとしてるんですか!!」
ごもっともです。
俺にもう一度チョップをかました後、キキちゃんはローテーブル上に座る黒髪少女を抱きかかえ、俺から遠ざかって行った。
「貴女、女の子だったですね…
なにか、変な事されませんでしたか? あれは、野獣ですので気を付けてくださいね?」
む、別に相手の同意が無ければなにもしないって。同意があればイロイロするけど…じゃなくて、俺はロリには反応しない!!
それにしても…
「キキたん、その子知ってるの?
あと、黒ボール何処に行ったか知らない?」
頭を摩りながら聞くと、キキちゃんは信じられない物でも見る様な視線で俺を見て来た。
そして、驚きの発言をする。
「なにを言っているのですか。先代の魔王様に自室の守護を任される程の魔物ですよ?
《魔人化》ぐらい出来るに決まってるじゃないですか!!」
初耳ですが?
■
《魔人化》とは…
この世界の魔物は一定の力を付けると、自分の身体を人の形に変化させ、《魔人》と呼ばれる存在に昇華することがあるという。それを《魔人化》とか言うらしい。
そして、この黒髪少女は、まったく信じられない事に先程の黒ボールが《魔人化》した姿だというのだ…
ふむ、興味深いな…
じっくり観察すると、黒ボールこと…黒髪少女は俺から隠れる様にキキちゃんの後ろに回った。
嫌われてんな、俺。
しかし、このままではあの触手を生み出す魔法のことが聞けないではないか!!
これでは、俺が使うことができな…アレ?
そこで俺は奇妙な事に気付いた。キキちゃんと黒髪少女が何事か喋っているが耳に入らない。
一大事だ、俺の記憶がオカシイのか疑いたくなる自体が発生していた。
否、あの緑色の蛇を《魔法》で倒した時にもっと違和感を感じるべきだったのだ。
そう、俺は《雷電》という魔法の使い方を知っている。
それで、あの蛇を瞬殺したのだ。まぁ、この際ソレは『隠された能力が目覚めただけ』で済ましても良い。
しかし、俺は記憶を探りもっと変な物まで覚えているのに気がついた。
一度、キキちゃんが書いた《魔除けの魔法陣》…俺はアレをペンさえあれば書ける気がするのだ。無論、あんな無駄に緻密で落書きの様な魔法陣を一回か二回みただけで記憶出来る程、俺は頭が良く無い筈だ。
それに、全く身に覚えのない、広大な魔法陣と触媒を必要とする結界の生み出し方を《何故か》知っている。…コレに関しては全く身に覚えの無い、謎だ、謎過ぎる。
まぁ、そんなことはそうでもいい。
異世界に召喚されてチートを手に入れたとでも思っておこう。
だが、極めつけは…俺、触手出せる様な気がするのだ。
これは、一大事だ、直にでも使いたい。
そう思い思考を巡らせる、そうすると頭の中に言葉が浮かんで来た。
なんだろうか? 謎だ、《雷撃》を使うときはこんなのはなかった。
しかし、自然と口が動く。なんなのだろう、これは?
「闇に蠢く混沌のうねりよ…
深淵の淵から波紋を広げ 光を蹂躙する足を象れ
光を遮る手を象れ 我が敵を捕らえる魔手を象れ…」
身体から力が抜け出る感覚がする。
あ、これ魔法の詠唱だ。
そう理解はしたものの、なにやら続きが浮かばない…何故だ?まるで続きが無い様な…
そうか!!この魔法には名前が無いのだ!!
そこに発想が辿り着き、厨二細胞をフル回転させネーミングを絞り出した。
「《 狂乱の宴》!!!」
次の瞬間、俺の背後に巨大な魔法陣が浮かび上がり、ソレが妖しく輝いたのと同時にソレが現れた。
生み出されたソレは高速で蠢き、その本能のままに柔肌を求め、キキちゃんに襲いかかった。
「な、、なにするんですか!!…や、やめて、ください!! はなして!」
…生きてて良かった。
まさか、まさか、生きてる間に触手束縛が見れるとは…
さ、さぁ、触手プレイに発展しようか?グへへ…
キキちゃんのゴミ虫を見る様な視線が俺を射抜いた。
さーせん…
名 前:黒峰真治
ジョブ:魔王
年 齢:18歳
性 別:男性
異 名:紳士、変態
スキル:NO DATA
魔 法:《雷電》《魔除けの魔法陣》《魔除けの結界【B級】》《 狂乱の宴》…