023話 追いかけるなんてフラグですよ!?
漆黒の樹海を抜けると、そこは見渡す限りの平原であった。
地平線の彼方まで続く広大な大地。当たり前だが、その光景の中にビルや電信柱などは1つもない。
遠くに見える山々、上空に浮かぶ大小様々な浮島、野を駆ける兎には角が生えていた…夕日に染まるその光景を見て、俺は改めて自分が異世界に来てたのだと実感した。
ちなみに兎は直ぐさま捕縛。現在進行形で俺がモフモフしております。
「シンジ様、見惚れてないでテントの準備を手伝って欲しいです。
後、《角兎》が可哀想なので、あまり虐めないでほしいです。
ですから、速やかに私に引き渡してください、こちらで保護しますから」
テントの準備をしていたキキちゃんが、俺の腕の中から逃れようと暴れる兎さんを凝視しながら、そんなことを言って来た。
ふむ、お兄さん知ってるんですよ?
キキちゃんが、この兎さんを撫で回している俺を、羨ましそうに見ていたことを…
そして、現在、凝視していることもね!!
兎さんは同じケモ耳属性だからか、キキちゃんに助けを求める様な声を発した。
『キュウゥー、キュゥー』
アレ? 兎って鳴き声こんなだっけ?
まぁいいや、《角兎》という種類らしい兎は、そんな可愛らしい鳴き声を発した。
その声に釣られて来たのか、人化した姿のクロちゃんが涎を垂らしながら現れた。
「しんじ、それ…ごはん?」
あれぇ〜オカシイなぁ〜
兎さんが、初めて俺に懐いて来たぞ?
おいおい、やめろってぇ、そんな震えながら俺に抱きついて来るなよぉ〜。
もう、可愛いヤツだな本当。
それにしても…
クロちゃんの兎さん食べる発言に、俺とキキちゃんは若干引きました。
■
ここの地名は《血骨平原》、終幕の地に広がる平原である。
かなり血腥い名前だが、地名の由来もそれに相応しく血腥い理由であった。
キキちゃんが教えてくれたのだが……その昔、この平原で先代魔王の腹心が、自ら捕らえた敵兵士の血と骨を使ってかなり前衛的なアートを、それこそ、この平原が血の赤に染まる程のサイズで作ったらしい、それが由来でこんな物騒な名前になったのだとか……因みにこの話しは、この世界では常識だと教えてくれた。
そんないわくのある場所だから…やはりというか…夜になるとアンデッド系の魔物が多く出没するらしい。
この世界のアンデッドがどんなものかは知らないが。アンデッド…と、聞いて一般的な日本人が思い浮かべるのは、やはりゾンビであろう。更にゾンビと聞いて連想するのは、某有名映画か、ゲームの方だな。
しかし、この場所にはショッピングモールも無ければ病院もホームセンターも無い。つまり、ゾンビパニック映画的には盛り上がりに欠ける所だな。俺が監督なら、大勢のゾンビがキキちゃんに群がる(エロい意味で)様なカットを入れたい、うん。
そんな下らないことを考えていたりするが、まぁ、実際にはゾンビになんざ出会わないことにこしたことが無い。…何故かって?
確かに今の俺は、いざとなれば、ゾンビぐらいなら《雷電》で瞬殺する自信がある。
が、しかし……もし、現れたゾンビの中に巨乳のお姉さんが紛れていたら? 美乳の美少女が潜んでいたら? 貧乳少女が隠れていたら? …俺はその娘達を吹き飛ばせる自信が無い。
そんな…そんな世界が生み出した最高の造形美たる乳を!!……俺は、たとえその持ち主がゾンビであったとしても壊すことなど出来るだろうか?
………無理だ。俺には無理だと思う。
それをキキちゃんに豪語したら…かなりキツい軽蔑の視線を頂きました。
まぁ、それは置いておくとして、ゾンビが歩き回る様な場所で寝るのはかなり危険なので、寝床の安全を確認する為に一度見回りをすることとなった。
なんでも場所によって出現数も変わるらしく、場所によっては全く出没しない所もあるらしい。
俺達の場合は、簡易的な結界を作り出す魔導具をグレイブさんが持っているらしく、ある程度出現数が少ない場所であれば安全に過ごせるとのこと。
まぁ、それでも、ゾンビの巣窟の様な場所では全く意味を成さないらしく、そんな場所でないか確認の必要があったのが、この見回りの理由である。
見回りは2グループに分かれて行われている。
トラブルメーカーな俺と、見張りのキキちゃん&先程捕縛した兎さんの《ウサギさんチーム》。
グレイブさんたった一人の《ブタさんチーム》である。
別にイジメでもなければ、巫山戯ているわけでもない。
まぁ、チーム名に関しては若干巫山戯ている。まぁ、俺の心の中だけでの命名であるため許して頂きたい。
実は、作業の効率化を目指して2グループに分かれることにしたものの、俺、キキちゃん、グレイブさん、クロちゃんでは、公平に分けると二人ずつで分かれることとなる。そうなると、テントには誰も残らないことになり、それはそれで危険であった。
なので苦肉の策として、元・守護者であるクロちゃんにテントの守りを任せ、旅のプロフェッショナルたるグレイブさんに単独で見回ってもらうこととなった。
見回る箇所は、テントを基点に半径100mぐらいの円の間である、それを半分に分けて見回る形だ。ちなみに、この距離は結界の有効範囲らしい。
俺は、注意深く周囲に気を配りながら兎さんをナデナデするキキちゃんを、数歩後ろでニヤニヤしながら眺めていた。
見張りと公言しているくせに兎さんに夢中とは…可愛いなキキちゃん♪
赤く染まる平原を俺とキキちゃんは歩く。
兎さんはキキちゃんがギュッと抱きしめており、逃げることも諦めらしく暴れるのを止めていた。
キキちゃんも可愛いけど、兎さんも可愛いなぁ…憮然とした表情が可愛いよ本当。不機嫌なのかな?
さて、キキちゃんを眺めながらゾンビが居ないか注意してるものの、それらしい影は全く見当たらない。
ここはもしかしたら、出て来ない場所なのかもしれないな…俺がそんなことを考えていたときだった。
俺の右足首をソレが掴んだのだ…恐る恐る下を見る…
そこにあったのは地面から生える腐った手。ソレが俺の右足首をガッシリと掴んで離そうとしない。
本当に、かなり強い力で掴まれている。俺の力では抜け出すのは無理そうである。
俺がキキちゃんに助けを求めようと前を向いた瞬間、俺の目の前の地面がモッコリと盛り上がり、それが姿を現した。
地面から現れたソレは巨大な人間の頭蓋骨だ。
しかし、ただのデカイ頭蓋骨では無い。全体に青白い炎を纏った頭蓋骨である。
そして、俺の足首を掴む者も地面から顔を覗かした。
そいつは右目を失った腐った死体…ゾンビである。
まじか…出会っちまったよ…
直に、我が愛しのキキちゃんの行方を探す。
………居た!!
キキちゃんと兎さんは、その…
俺の思い描いていた通りの状況に陥っていた。
まぁ、なんということでしょう、ゾンビ共7体に囲まれていたのです。
しかも、あえて選んだかの様に、ブクブクと太って身体が腐りきった醜い容姿のゾンビばかりに…
「……し、シンジ様!! ご無事ですか!!」
キキちゃんは俺の姿を認めると、叫び声をあげる。そしてその時、力を緩めたのか抱えていた兎さんがキキちゃんの腕の中から飛び出した。
そして、ゾンビに怯えて走り出す。
それを追いかけるキキちゃん…止めろ!! それは、フラグだ!!!
古今東西、急に飛び出した動物を追いかけて行った者は碌な目に遭わない。
たとえば、大事な大会の前にトラックに轢かれて死んでしまったりするのだ。まぁ、違うパターンも多々あるのだけど…まぁ、フラグには違いない。
俺はキキちゃんが飛び出す前に声をあげようとした…が、遅かった。
ゾンビの1体が、キキちゃんの腕をガッシリと掴んだのである。




