002話 ふむ、フラグを建てる為に頑張ろうか?
ふむ、死にかけた。
こんなに走ったのは中学の頃の体育際以来だな。
さて、撒けただろうか?
現在、俺とキキちゃんは10mは超しそうな程の大きさの大木の、これまた異常にデカい洞の中に隠れている。本当に広く、人が二人入ってもまだスペースに余裕がある。
キキちゃんは、物凄い表情でグロッキーだ。
汗だくなので、汗フェチの人には溜まらないね♪
「…なにやら、寒気がしたのですが(ジロ」
女の子に出逢ってから、俺を見る目のデフォがジト目になるまでの最短タイム更新したかもしれない。
キキちゃんは、気怠そうにローブを脱いだ。
それを無造作に投げ捨てると、腰からペンの様な物を取り出し壁に何やら書き始める。
一件、無秩序に書かれて行く落書きのようなものであるが…
数分で円形の魔法陣に仕上がった。
「ん?…あれ? 間違えたのですかね?」
しかし、魔法陣が書かれたもののなにも起きる気配がない。
キキちゃん…なにやってるんですかね?
先程書いた魔法陣を眺め、焦った様子でまた書き始めるキキちゃん。
2つ目の魔法陣が完成。その瞬間、書かれた円から青白い光が放たれた。
む、これが魔法と言うやつですかな…興味深い。
「よし、今度は成功ですね」
満足そうな表情でキキちゃんはペンをしまった。
不思議そうに見る俺の視線に気付いたのか、直にジト目に戻ったが。
うん、この娘はジト目より素の方が可愛いな。
「たんなる魔物避けです。そんなに珍しく無いですよ、見ないでくれます?」
魔物避け…って、おい。
十分に珍しいのですが…
そんな俺の表情に、キキちゃんが訝しむような視線を向けて来た。
「もしかして、シンジ様の世界には魔法が無いんですか?」
「残念ながら、俺の世界には魔法は無いな。
30歳まで童貞だったら、使える様になるなんて伝承には残ってるけど…伝承だしね。
それが、どうかしたかい?」
キキちゃんの顔が青かった。
そして、次の瞬簡に突然キレた。
「なんで、なんで魔導を司る化身が魔法を使えないんですかっ!!」
知らんがな…
まぁ、でも、怒ったキキちゃんも可愛い。
■
「あれは…《翠蛇》と呼ばれる魔物です。
通常の危険度はE級らしいですけど、あの大きさなら危険度C級ぐらいですかね…
あ…ちなみにこの森の魔物の危険度は平均でD級らしいです。
D級は、並の冒険者数人掛かりの強さらしいですよ?
C級って、どれぐらい強いんですかね? アハハハ…」
またも、レイプ目だ。
かなり虚ろになっている。震えも凄いな…大丈夫だろうか?
キキちゃんは体育座りで頭を抱えている。
「…来るのはね。良かったんですよ?
あれです、最高クラスの護符を持ってましたから…自分から接触しない以上、襲われる事無い筈なんです。
…まぁ、最悪襲われても魔導の化身である魔王に守ってもらおうと思ってたんですよね。でも、出て来たのがコレだし…
嗚呼、こんなことなら普通に護衛連れてくれば良かった…」
あー、かなり鬱になっているらしい。
大丈夫だろうか? ブツブツ語られる言葉にも徐々に覇気が無くなって来ている。
「大丈夫か? 俺に出来る事があるなら何でも言ってくれ」
俺の声に顔を上げると、自嘲的な笑みを浮かべた。
「解ってるんですよ? シンジ様は悪く無いんです。
一番最初に。この世界に現れた魔王様の一の臣下になる為に、欲を見た私が悪いんです。
シンジ様は全く悪くないんですよね。わかってます」
嗚呼、なんというか、あれだな…
リアル美少女の鬱モードは結構来るモノがあるな…
胸が締め付けられる思いだ。
俺は…俺は彼女を助ける事が出来ないのだろうか?
『シャアアアア………………シャアアアア………』
「ひぃ!!…」
グリーンスネークが近付く音が響く。
何処かで読んだのだが、蛇が音を出すのは警告音の意味が強いらしい。
蛇とは臆病な生物なのだ。こちらから何もしない限り、何も起こらない筈なのだ。
まぁ、今回は俺の過失なのだが…
キキちゃんが今にも立ち上がって逃げそうな雰囲気だったので、咄嗟に止めた。
「あまり動かない方がいい。音を立てると気付かれる恐れがある…」
キキちゃんは動きを止め、俺を涙目で見上げて来る。
「動かないと逃げれないじゃないですか!!」
「身を潜めてやり過ごしたほうが良い」
そんな問答をしているときだった、先程、キキちゃんがしまったペンがゆっくりと落下した。
カラン、カラン…
ペンの落ちた音が、乾いた音が反響する。
何処かで聞いた事がある、蛇は地面の音の振動を敏感に感じ取ることが出来るらしい。
いやな気配を感じた、まさに蛇に睨まれたカエル…だな。
視線を移した先に、彼女が脱ぎ捨てたローブの下にお札の様なモノが見えた。
あれが件の護符だろうか?
…なら、せめて彼女だけでも…
まぁ、いいよな…
エロゲ紳士が女の子為に頑張っても良いよな?
俺は、キキちゃんの腰から剣を抜き取り外に向けて駆け出した。
■
外に出ると直にヤツを見つける事が出来た。
まだ少し遠い、10m程前にヤツの鎌首が見えた。
恐ろしい双眼は、確実に俺を捕らえているようで。その奥に憤怒が見える気がした。
「おいおい、踏まれたくらいでキレるなよ。器が知れるぞ?」
まだ、距離はあるが、この程度の間合いなら一瞬で詰められるだろう。
なら直に逃げてやる、逃げてやるさ。
剣は戦う為に持って来た訳では無い、投げる為に持って来たのだ。
少しずつ近付いて来る蛇に、俺は思いっきり剣を投げつけた。
これほどの巨体なら外す事は無いだろう、と思ったからだ。
しかし、悲しいかな、ヤツにはかすりもしなかったが…
まぁ、ヤツの意識は完全に俺へと向いた僥倖である。
「さぁて、デートのお時間だ…」
俺が駆け出すのと同じ瞬間、後ろから声が響いた。
「な、なにやってるんですか!!
はやく、こっちに来てください」
俺はその声が消える様に大きな声を発する。
「おーい!! コッチ来いよ、悪臭やろう!!
歯磨きしないからそんな口臭なんだよ、くそが!!」
それの効果があったのか無かったのか…
蛇は俺の方に、向かって進んで来た、ようしそうだこっちに来い。
走る、全速力で。
走る、死ぬ気で。
名案など無い。
なんのプランも無い。
ただ、キキちゃんから遠ざける為に走る…
…あれ?
ある程度、走った所で異変に気付いた。
追って来る気配が途中で途切れたのだ。
何事かとおもって振り返ると…
ヤツが…ヤツが大口を開け、その口の前に魔法陣が浮かんでいる…
コレは…まさか…魔法じゃないっすか♪
わぁ、すっげ、魔物も魔法使うんだぁ…
次の瞬間には魔法によって生成された雷撃が…俺へと放たれた。
嗚呼、俺、死んだかも。
■
雷属性の魔法《雷電》…
それが高威力で放たれる瞬間をキキ・モラは呆然と眺めていた。
飛び出して行ったシンジを追いかけ、走って来た彼女は肩で息を発し、その光景を目の当たりにしたのだ。
なんでですか?…
そう、思う所が多かった。
彼は私なんかより遥かに冷静だった、だのに、どうしてこんな無謀な行動に出たんですか?
彼は言った、やり過ごした方が良いと…
なら、何故、貴男は飛び出して行ったのです!?
こうなる事が…解っていたのでは無いのですか?
絶望が身体を支配する。
棒立ちになった彼女に注がれる視線が1つ…
《翠蛇》がその鎌首をもたげ、私を見下ろしていた。
殺されて…たまるか!!
「炎よ、塵と共に踊れ!! 《篝火》!!」
私が放ったのは炎の魔法…イグニスは、炎を発生させる魔法。使い勝手が良く、多くの人間が扱うことの出来る魔法ですが、極めれば高位の魔物にも有効的なダメージを与える事が出来ます。無論、私のはそこまで高威力では無いですが…
炎は《翠蛇》を包みましたが、ヤツは前身から魔力を発し炎をかき消した…物凄い威力ですね…
怖じ気づきそうになる自分を押さえつけ、次の魔法に移る…
「我が敵に灼熱の一矢を放て!! ファイヤーあ…がは!!」
詠唱が終わる前に、《翠蛇》に身体を締め付けられた。
怖じ気づいた身体では避ける事が出来なかったのだ。
近付く死期に、冷や汗がでる。
怖い…怖過ぎです…
自分が絞め殺されるビジョンが頭を過った…
嗚呼、駄目ですね、本当に駄目です…
魔王の臣下を目指すのなら、最後くらい潔く行けたらよかったのに。
涙で視界がぼやける中、凄い衝撃と共にそれが迸った…
肉、血、体液…それら全てが落ちて来る。焼けこげる様な臭いが辺りに充満した。
一瞬前、爆ぜたのだ…巨大な蛇の首が一瞬で、跡形も無く粉々に…
締め付けが解け、自由になった私にソイツは声をかけて来た。
「…あ、無事なようだな、良かった。俺はまぁ、死にかけたけどな。
なんかよく解らんが、魔法とやらが使える様になったらしい。これ、凄い威力だな。
もう少し、威力を抑えても良いとおもうけどな…これじゃ、服ビリビリにする前に女の子が焦げちまう」
そんのことを呟きながら現れた彼、シンジ様は…
全くの無傷でした。
名 前:黒峰真治
ジョブ:魔王
年 齢:18歳
性 別:男性
異 名:紳士、変態
スキル:NO DATA
魔 法:《雷電》《魔除けの魔法陣》…