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015話 誰と誰が知り合いかなんて解らないですよ?

 少し時間を遡る。

 そう、酒場の前でキキちゃんが悲痛な叫びを発した頃だ。


 俺も少なからず動揺していたのだが…

 一人、状況を理解出来ておらず、蚊帳の外だったグレイブさんが呟いた。


『なにか、盗まれたましたか?』


 その声がやけに呑気に聞こえたものだから、少し苛ついてしまった。

 多分それは、キキちゃんが凄い青い顔をしてて、尻尾も耳も元気無く垂れ下がっていたからだと思う。

 …語弊がありそうだから付け加えるが、別にクロちゃんを心配してない訳でない。

 クロちゃん程の触手使いなら滅多なことが無い限り大丈夫だと思うからだ。

 だからこそ、キキちゃんの様子の方が気がかりだったのだ。大丈夫だろうか?

 モフモフしたら機嫌直してくれるだろうか?


 …ふむ、俺も柄にも無く焦っているようだ…焦りは、禁物だな。モフモフまでは、徐々に少しずつ好感度を上げなければならない。

 一回深呼吸して心を落ち着ける。

 そして、グレイブさんに状況を説明する。


「…ああ、キキちゃんのローブが盗まれたんだ。

 ローブの下には俺達の仲間のクロちゃんが隠れていてな、そのクロちゃんごと盗まれてしまったらしい。

 まぁ、クロちゃんなら滅多なことが無い限り大丈夫だと思うが…ローブ、ローブがなぁーーー

 …………あばよくば、俺が盗んで夜中にクンカクンカしたかったのに…嗚呼、クッソ、全くけしからん犯人だ!! 犯人を絶対に捕まえてローブを…クロちゃんを助け出さなくてはいけない!!

 だからグレイブさんも力を貸してくれ!!」


 ふむ、途中で私怨が混じってしまった…まぁ、いいか。状況は伝わった筈…キキちゃんの視線が痛い、グレイブさんは首をひねっているし…

 キキちゃんさん? 無言の突っ込みも良いですが、その…言葉で突っ込み入れてくれると助かります。じゃないと、視線だけでも喜ぶ様になっちゃいますよ? …もう、なってますけど。

 俺の説明では要領を得られなかったグレイブさんに、キキちゃんが補足をする。


「クロちゃんというのはですね。そのぉ……シンジ様の《使い魔ファミリア》といいますか、ファミリア候補といいますか…なんというか、表現する事の難しい魔物の女の子なのです。

 えーと、多分、グレイブさんも見れば驚いて切り掛かる程の魔物の娘です…

 でも、魔人化出来る程の知性はあるし、あの性格なら滅多なことがない限り危険度はないと思うので、安心してください!!

 シンジ様の言う様に、クロちゃんなら滅多なことが無い限り大丈夫だと思うのですが…置き引き犯の方が心配だったりするので早く見つけたいです」


 話を聞き終えたグレイブさんは、大きく頷き、甲冑を揺らし歩き出した。


『しばし、この場で待たれよ。

 知り合いがこの村に来ていたのでソイツを呼んで来る。おそらく役に立つ男だ。

 …それにしても、シンジ殿は《召喚士サモナー》か《魔物使いビーストテイマー》であるのか?

 魔人となれる魔物を従えているとは…流石は魔王を目指すお方であるな!!!』


 と、言って笑いながら何処かに去って行った。

 ふむ、なにか勘違いされてる気がする。

 キキちゃんと顔を見合わせると、キキちゃんも困った様な顔をした。


「えっと…《召喚士サモナー》とはこの間私が行った様に、召喚魔法を用いて簡易的な主従契約を結んだ精霊なり魔物なりを使役する者達のことです。

 次に《魔物使いビーストテイマー》は、魔物と強固な主従契約を結び、その魔物を使役する者達のことです。

 後、似た様な者達に《精霊使いシャーマン》や《死霊使いネクロマンサー》などが居たりしますが、これらはまた別の機会にお話ししますね」


 そこまで言って、キキちゃんは大きな溜め息を吐いた。

 そして、また話し始める。少し顔色が良くなったようだ。

 沈んでる姿も可愛いけど、やっぱり普段の方が断然可愛い。


「グレイブさんは、シンジ様のことを《召喚士サモナー》か《魔物使いビーストテイマー》だと思っている様ですね…誤解では無いですが、今度ちゃんと説明しましょう。これから私の同僚となる訳ですし。

 ……先程は、少し取り乱していました、申し訳ないです。

 シンジ様の言う様に、クロちゃんならよっぽどのことが無い限り無事でしょうし。

 本当に、クロちゃんを盗んだ置き引き犯の命が心配ですね」


 最後の方では笑みまで見せてくれた。

 ふむ、もう大丈夫そうだな、よかった。

 もしかしたら、キキちゃんは、自分のミスに打たれ弱い娘かもしれないな。

 俺もキキちゃんに笑い返した。


「まぁ、普通、自分の物が盗まれたら取り乱すだろうし、いきなり友達が行方不明になったら心配もするだろう。別に気にすることは無いぜ? それが普通だろう?」


 まぁ…日本での俺の友達には碌なヤツは居なかったからな、アイツ等が行方不明になっても俺は心配する事は無さそうである。

 だから先程のは、あくまで世間一般としての意見である。

 無論、そこには俺も含まれていない。自分が、少々頭のネジが飛んでる高校生だという自覚があるからだ。

 間違っても普通の高校生などと名乗れない。烏滸がましい。


 あ、ついでに聞いておこう。確認せねばならんことがあった。


「そう言えばキキちゃん? 《 迷宮の心臓ダンジョン・コア》は無事かい?」


 そう、あの死ぬ思いで手に入れたアイテムだ。

 一応、あそこにも住人(?)が居るしな。気になっていた。

 俺が聞くとキキちゃんは意味有りげな笑みを浮かべた。


「大丈夫ですよ? ちゃんと、肌身離さず持ってますから」


 俺の言葉に苦笑を浮かべた。

 何処に持ってるんだよ…といった野暮な突っ込みは入れない。

 勝手に何処に持っているのか妄想させて頂こう。



 グレイブさんが連れて来たのは、この村にきた当初、俺にシルバーアクセを進めて来た牛頭の男であった。

 牛頭の男は俺の顔を見て和やかに微笑んだ(だから、牛の表情変化なんて解らないのだけど)。


「よう!! 誰かと思えば兄ちゃんじゃねぇか。

 どうだ? 彼女さんに小遣いを貰えたかぁ?

 まったく、グレイブの知り合いが困ってると聞いて来てみれば…

 俺が唾を付けた客と知り合いだったとはなぁ…世の中狭いもんだぜ、なぁ?」


 アレ、唾を付けられてたんだ…良いカモに思われたのかね?

 まぁ、本当に、今日初めて出会った二人が偶然知り合いとか…凄い確率ではある。本当に世界とは狭いのかもしれないな、出逢いは何処にだって転がっている。

 そんなことを思っていると牛頭さんが右手を差し出して来た、俺はその手を握り返す。

 と、その瞬間、両手で握られた。え…何? ちょっと、怖い…


「…改めて、自己紹介だ。

 俺の名前は《リオス》。ゴブリン商会に所属する商人だ。

 さっきは安いアクセサリを売っていたが、本業は高価な能力付与や加護の付いたアクセサリを専門に売っている。魔国王都にはちゃんと店を構えてるんだぜ? 立ち寄る機会があったら彼女さんと一緒に是非来てみてくれ。結婚用のリングも取り扱ってんだぜ?

 あ、前に見せた魔力加護の付いたヤツは本業での売れ残りな。

 本業で売れない失敗作なんかを、この村で捌かせてもらってる。

 いやぁ、兄ちゃんは本当に運がいい。グレイブの知り合いなら今度はもっと安くして…」

 

『リオス…真面目にしろ』


 グレイブさんの低くて渋い声が響く。

 その声を聞いて、リオスと名乗った商人は不承不承といった様子で手を話した。

 実は、喋ってる間、徐々に握る力が増していたのだ…最後の方は結構痛かった。鼻息も荒かった。怖かった…勘弁してくれ、俺にBLの趣味は今の所無い。あったとしても、最初の相手が牛頭のゴリマッチョは嫌だ。


「そうだった、そうだった。

 何? 酒場の置き引き犯だっけ? ああ、多分それ、換金所のオヤジが自慢げに話してたヤツだな。

 俺は、あのオヤジに多少借りを作っていてもいいのだが…

 まぁ、他でもないグレイブの頼みだしなぁー

 兄ちゃんも絡んでるようだし、仕方ねぇ、盗品の隠し場所程度なら教えてやんよ」


「え…それ、いいんですか!?」


 つい、口に出てしまった。

 俺以外にもキキちゃんが驚いている。

 もっと、こう、時間の掛かるものだと思っていたのだ。

 俺の言葉にリオスは笑って答えた。


「ああ、良いってことよ!!

 オヤジには俺から伝えとくしな。

 なぁに、オヤジはそういうヤツ等を何人か抱えてるんだ、一人ぐらい居なくなってもきにしねぇよ。

 それでグレイブに貸しが作れるなら安いもんだぜ。

 それでも思う所があるならな、兄ちゃん?

 今度、俺の店でなにか買っていってくれや。安くしとくぜ?」


 嗚呼、うん、グレイブさんの言う通り確かに役に立ったけど。

 変なのに目を付けられちゃったな…



 そして今に至る。

 リオスに聞いた場所に行って見ると、何やら悲鳴が響いたものだから急いで駆けつけたのだ。

 来る途中、草が邪魔臭かったから、練習がてら触手でなぎ倒した。

 その際、キキちゃんにはグレイブさんの後ろに隠れてもらった。また肉欲のまま動かれても困るしな。

 キキちゃんに迫りそうになった触手はグレイブさんが対処してくれた。驚くことにグレイブさんは俺の触手を倒すことは出来ないまでも、その暴走を抑えることは出来るようだ。


 そのおかげで、触手は制御出来ないまでも、草木を押し倒してくれたのだけど…

 本当にグレイブさん強いな、カッコイイ……今は、どうでもいいな。


 そしてクロちゃんを発見した時には、置き引き犯の命が空前の灯火だった。

 そう、クロちゃんが触手を召喚していたのである。急いで俺は、クロちゃんの触手を押さえつけたのだ…そう、触手リベンジである。

 肉欲のまま動く俺の触手は、前回の報復と言わんばかりにクロちゃんの触手に向かって行った。


 前回負けた俺の触手は、今回は良い勝負をしている。

 見た感じ五分五分の戦い…白熱の試合が予想された。

…なんと、まだ続きます。

 次回、触手リベンジ戦です。

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