010話 正義の味方は?
《漆黒の樹海》、そのほぼ中心部にその村はある。
冒険者向けに作られたその小規模な村は結界で守られており、村の範囲にB級以下の魔物を近づけないらしい。その結界に一抹の不安がある…城でも同じ様なこと聞いてカマキリに襲われたしな。
その結界内に木造の建物が5棟程建っている。
5棟は、冒険者ギルド、魔導協会、商人組合と呼ばれるファンタジーのテンプレ的な組織の支部が1つずつ。残りの2つは、酒場が1つに、宿舎が1つといった所だ。他には、まばらに露天商が居る程度である。それでも、冒険者や傭兵といった風体の人が多く村に滞在しているため、活気があるように見える。
キキちゃんに聞いてみたものの、この村には決まった名前が無いらしい…ただ村と呼ばれているのだという。ちなみに、俺は密かにこの村を『どうぶつ◯森』と呼んでいる。理由は…
「お〜い、そこの兄ちゃん。彼女にアクセサリなんてどうだい? 安くしとくぜぇ」
村を2人で歩いていると(クロちゃんは黒ボールになって、キキちゃんのローブの下に隠れている)、シルバーアクセを露天に広げた筋骨隆々の牛頭の男が話しかけて来た。
どうやら俺に話しかけたらしいな。ふむ、キキちゃんが俺の彼女に見えたか…見る目あるな。
因みに、その牛頭の隣に露天を広げているのは仙人みたいな半魚人である。こちらは、干した魚の様なものを売っている。変な魚だ…チョウチンアンコウの仲間だろうか?
俺が露天の方向に行こうとした瞬間、キキちゃんに襟元を掴まれた。
「あまり持ち合わせも無いですので、無駄遣いはやめて欲しいです」
笑顔だった、怖い。
俺は牛頭に愛想笑いを浮かべその場で動きを止める。どうやら、俺達の会話が聞こえていたらしく、牛頭の店主は豪快に笑い飛ばす。
「おう!! 財布は彼女さんが握っていたか。どうだい? その男前の兄ちゃんに1つプレゼントってのは?
この中では、そうだな…コレがおすすめだ!! 魔力加護のついた上物だぞぉ!!」
そういって持ち出したのは、骸骨の意匠の施されたゴツゴツのネックレスである。
それを見たキキちゃんは苦笑いを浮かべ、『結構です』と即答した。
取り付く島も無い店主は、幾分、顔をガッカリさせて(とはいうが、牛頭の表情変化など解らないのだけど、なんとなくそう思った)、俺に視線を向ける。
「じゃあ、兄ちゃんが財布を握ったら贔屓にしてくんな!!」
そういうと他の客の呼び込みに戻った。
見かけによらず潔い店主だったようだ。
次に店主が話しかけたのは蜥蜴頭の男(?)である、流石どうぶつ◯森…なんでも居るな。
俺が『どうぶつ◯森』と呼んでいるのは、村の中に彼等の様な動物の頭に人間の身体をした外見の人を見かけるからだ。見ただけでも、牛、魚、蜥蜴、豚、といった頭の人が居る。見てて飽きない。
頭が動物以外にも、背中に翼の生えたもの、キキちゃんみたく猫や犬の耳をもったもの、エルフ耳の人、頭に角を生やした人、そして下半身馬の人とかも居る…流石に骸骨が歩いていたときはビックリしたが。
素晴らしい、ファンタジーの世界に着たと実感出来るな。
あ…無論、普通の人も居る。
■
昼間だというのに、酒場の一階は大盛況のようだった。
俺達はそんな酒場、二階窓際の一角に置かれたテーブルに向かい合って座っている。
二階は少し落ち着いた感じで、一階に比べれば静かな方…まぁ、十分、五月蝿いのだけど。
策越しに見える一階では、まだお天道様が高いと言うのに、酒を飲んではしゃぎまわる大きなお友達が酒場一杯に居た。
俺はこういう人達が嫌いでは無い、逆に好きな部類だ。人生には酒や女の子といったエネルギーになるものが必要だ。俺の場合それはエロ方面だが、この人達は酒なのだろう。そうだとしたら、ある意味、同士とも言えるオッサン達なのだ。
それにエロい事するにしても酒の力が必要なシュチュもある。
酒は人類の友達だと思う。
酒場の喧騒を眺めていると、長身のグラマラスなお姉さんが頼んでいた食事を運んで来た。
お姉さんの四肢に見蕩れていると、テーブルの下からキキちゃんが蹴り上げて来た。蹴りは俺のスネに命中…痛いけど…かいかん…
そんな様子を微笑んでみていたお姉さんは、テーブル上に頼んでいたランチセット(パンとスープと何かの肉をソテーにしたもののセット)を2セットと、水の入ったコップを2つ乗せ口を開いた。
「ご注文の、ランチセットです。
……ご注文は以上でお済みでしたでしょうか?
それでは、店内かなりヤロー共のせいで五月蝿いですが、ごゆっくりお寛ぎください」
途中でお姉さんの素が出たな。
お姉さんんが立ち去るのと同時に、キキちゃんはローブの下に声をかけた。
「もう大丈夫ですよ、出て来てください」
「うん、でも、ひといっぱい…もうすこし、ここにいる」
「では、私も少し熱いので、椅子の上にローブを置きますからそちらに移動して欲しいです」
「ん、わかった……ひと、こわい」
そんなやり取りの後、キキちゃんはローブを脱ぎ隣の椅子の上に畳んで置いた。
勿論、話していたのはクロちゃんだ。
クロちゃんは人が多い所が苦手ならしく、この村に入ってからずっとキキちゃんのローブの下に隠れていたのだ。キキちゃんにとって、屋内でもローブを脱げないため、いい迷惑である。
人化すれば良いと思うのだが、クロちゃんいわく『こわいものは、こわい…』とのこと。
キキちゃんは運ばれて来たコップの水を一気に飲み干し。
少し咳き込んだ後、咳払いをして話を始めた。
「コホン…では、今後の予定に付いて話し合いたいと思うです」
俺はパンを口に運びながら話を聞く。
そんな俺の態度を見て、キキちゃんは『先に食べるとか、ズルいです』と言って、パンに手を伸ばした。
しばしの食事タイム。
バカ旨のコッコ鳥を一匹食べたと言っても、まだ腹が減っていたのだ。仕方ない。
十数分後、俺は一通り食べ終えた。
肉のソテーは、結局、なんの肉か解らなかったのだが。コッコ鳥に比べ格は格段に落ちるが味は十分美味しかった。コッコ鳥と比べたらアカン。
ちなみにこのランチを選んだ理由は、俺達の隣のテーブルに座って一人黙々と飯を食べる、黒い甲冑の大男が同じセットを頼んでいたからだ。
メニューが読めなかった為、アレと同じものを…てな感じで頼んだ。生きてる間に言う機会が訪れるとは驚きである。注文を頼んだ後、『読めないのなら私に読ませて欲しかったです、もし変なのが出て来たらどうするんですか!!』と、キキちゃんに怒られた。良い思いでである。
キキちゃんが食べ終わるのを待つ。
うむ、美少女が美味しそうにご飯を食べる姿は絵になるな。
一杯食べる君が好き…何てな。
実際、女の子にしたらよく入る胃袋だと思う。
このランチの量、結構、多かったもの…
「……?、今、失礼なこと考えませんでした?」
「……会って一日ですよね?」
マジで以心伝心出来てませんか俺達…やはり、運命の人なのだな、うん。
キキちゃんも食べ終わり、話を再開する。
「それでは、今後の予定なのですが。
まず、《 迷宮の心臓》をより効率良く利用出来る場所を確保しなければならないです。このアイテムは発動させる場所の《魔導領域》によって、威力に影響を及ぼしますから」
また、知らない単語キターー
なんだよキャパシティーって。なんなんだよ、それ!!
ハテナマークが顔に浮かんでいたのか、キキちゃんが説明してくれる。
「《魔導領域》とは、その空間が持つことの出来る、特殊な魔力の量…といった所ですね。《 迷宮の心臓》はその《魔導領域》の値が高い空間の方がその効力を高く発揮出来るそうです。
…空間魔法は専門では無いので詳しく無いですが…母にはそう習いました」
「まったく、わからん」
俺がそう言うと、キキちゃんも自嘲気味に笑った。
「まぁ、仕方ないです。
私も、何十時間も習いましたがサッパリですから」
成る程、なら、俺が解らないのも無理ないか。
そう思いながら、一階を覗き込むと、先程のお姉さんが酔っぱらいに因縁を付けられていた。
そして、次の瞬間、怒声が店内に響き渡った。
「ああん!? この、糞アマ…もう一回言ってみろや!!!」
「兄貴、やっちゃいましょうゼ!! この女、俺達を舐めてやがる!!」
「へへへ、よく見りゃ、こっちも上物だぜぇ、なぁ、兄貴?…」
因縁を吹っかけた酔っぱらいは三人。全員男だ。
兄貴と呼ばれた男が、先程の大声の主の様だ。ガタイの良い色黒の大男。ザ・前衛職!!…て、感じの印象を受ける人である。おもむろに取り出した凶器は、デッカい剣。やはり前衛か…
その取り巻きは二人、一人はローブに身を包んだチビ、手には杖、小学生くらいの身長だ。もう一人は、頭に角を生やした軽薄そうな男、両手にナイフを構えている。
対するお姉さんは、泣きじゃくる茶髪の少女を抱き、三人を睨みつけていた。
「五月蝿いなアンタ等!!
聞こえなかったらしいからもう一度言うわ…出てけって言ってんのが聞こえネェーのか糞ヤロー!!
テメェ等の耳は糞穴か? やる事しか脳の無い、年中発情期の山猿がっ!!!」
…やはり、そっちが素ですか。お姉さん…
それにしても何故、誰も助けに行かないのだろうか?
「やれーやれー、ぶっ飛ばしてやれ姉ちゃん!!!」
「おい、糞ガキ共、姉ちゃん脱がせたら一杯奢ってやる頑張れや」
「っち、酒がまずくなる、店を変えるぞ」
「おーい、誰か、姉ちゃんが脱がされる方に賭けないかぁ?」
「おい、ケンカだってよこっちだこっち」……
うん、客は全員残さず駄目な人だったようだ。
野次馬根性だし過ぎだろ…
キキちゃんの顔を見ると、キキちゃんも困った顔で頷いた。
助けますかね…
俺が立ち上がるよりも先に、二階から飛び降りる影が会った。
『……貴様等、女子供を嬲るのはよせ』
飛び降りたのは、俺の隣に座っていた黒い全身甲冑の大男であった。




