第九話
翌朝、アルバートはどこかに出掛けていった。
残されたフィルはカリナの手伝いを申し出て、皿洗いをする。
カリナの夫が黙々と仕込みをしている厨房で、二人が喋りながら作業をする。
路地にある上に小さいとはいえ、王都の宿屋だ。洗い物もそれなりの量となっていた。
フィルが洗う皿をカリナが拭いて仕舞う。
昨日会ったばかりの二人だが、うまく連携はとれていた。
手際がいいだのこんな作業をすすんでやってくれる子はいないだのカリナに褒められながら、フィルはテンポよく皿を洗っていく。
「そういえば、最近の女の子には何が流行ってるんでしょうか?」
フィルがそう言った瞬間、カリナの目が輝いた。
「やっぱりアンタも女の子だね!」
小声で興奮したように叫ぶ。
カリナは嬉しそうに笑った。
「うちには息子はいるけど娘がいないから、流行りの型の服とか作って着せてやれる子がいたらいいなと思ってたんだ!よかったら後で型を取らせとくれ!」
「は、はぁ……。」
「他には、そうだねぇ……あ、最近出来た菓子の店!あの店の焼き菓子と紅茶で一服しようじゃないか。」
それから、とさらに色々並べるカリナ。
どうやら娘がいたらやりたかったことはたくさんあったらしい。
フィルは微笑んだ。
「喜んでご一緒させていただきます!」
洗い物を終えてからフィルはカリナの部屋に連れて行かれ、体中を採寸された。
デザインを幾つもスケッチブックに描いているカリナは本当に楽しそうで、フィルはカリナの描いたそれを眺めているだけで楽しかった。
「昔はね、旦那と出会うまでは、針子をやってたんだよ。腕のいい針子だって、有名だったんだ。」
懐かしそうに目を細め、スケッチブックに鉛筆を滑らせながらカリナはそう語った。
「出来上がり、楽しみにしててちょうだい。」
幾つも描いて、ようやく納得したデザインはどうやらフィルに見せるつもりはないらしい。カリナはスケッチブックを閉じた。
「本当は今からでもお茶しに行きたいところだけど……どうせなら、完成した服を着せてから一緒に行きたいし、次は一緒に刺繍でもしないかい?」
フィルの『年頃の女の子体験』はまだ続きそうだ。