第八話
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たくさんの方に見ていただいてるんだなぁと、しみじみ思います。
本当は、あの子をエルの護衛として、この屋敷で雇ってしまおうかと思っていたの。
でもね、あの子の心を見て、隣にいた彼の心を見て……。
『真と偽』『信と疑』『硬と柔』
きっと、あの二人はお互いに欠けた物を持っている。
だから、離すべきではないと思った。
「私は将来性のない狸ジジィ共なんかより、あなたを応援するわ。何か困ったことがあれば、いつでも頼りなさい。」
結局のところ、やはりフィルはアルバートと共に一度王宮に行くことになった。
アルバートの真摯な態度にほだされたのが、他にはないただ一つの理由だ。
公爵は支援を約束・さらには書面に起こしてくれた。
フィル一人を守るくらい、大丈夫。
そう公爵は言ったものの、やはり公爵の立場を考えるとこの書面は余程の時以外使ってはいけないものだろう。
「色々、ありがとうございます。」
「これは娘を助けてくれたお礼よ。そんなに畏まらないで……。また会いましょう。」
二人は公爵、エルに別れを告げ、もう程近い王都に向かった。
「やはり何と言うか、良くも悪くも都会ですね。」
フィルが王都に抱いた第一印象はそれだった。
大きな街道をちょっと逸れた路地裏を見てみると、途端に陰気な雰囲気がただようのだ。
一方、街道では建物が整然と並び、その間を人の群れが通る。露店の売り子の張りのある声が響き、とても明るい。
その中をもみくちゃにされながら歩くのは予想外に体力を奪われた。
「今日から一旦馴染みの宿に泊まって団長に連絡をとる。王宮の外で直接話をする必要があるそうだ。」
王宮に入るにしても、どういった形で王宮に入るかなど決めなければならないこともある。
アルバートは団長とあらかじめ王都に着いたら拠点となる宿、連絡をとるための手段を決めていたらしい。
アルバートは迷うことなく街道から少し逸れた、フィルいわく陰気な路地裏の小さな宿のにフィルを案内し、その扉を開けた。
どうやら1階は食堂のようだ。
「久しぶりだな……。」
アルバートがしみじみと呟く。
「前はここの用心棒みたいなものをしていた。ここの店主夫婦は優しい。安心しろ。」
エプロンを着けた恰幅のいい女性が厨房からエプロンで手を拭きながら大慌てで出てきた。
「その声、アルかい!?随分かっこよくなったじゃないか!!」
「ありがとう。久しぶり、カリナ。」
カリナに抱きしめられ、少し恥ずかしそうなアルバートの雰囲気は柔らかい。本当に落ち着いているのが見て取れる。
フィルはその様子を眺め、ふわりと笑った。
今まで見せた貼り付けた笑みとは違うそれに、初対面のカリナはおやまぁと目を丸くした。
「アンタ、女の子かい?アタシはてっきり男の子かと……。」
「……え?」
「その笑顔!どう見たって女の子だろうに。」
フィルは幼い頃から男装してきたおかげで、男らしさは少なからずあれど、女らしさとは無縁だ。
一目で女だと見抜かれたのは初めてだった。それゆえ、どう返事をすればいいのか戸惑う。
「事情がある。男として扱ってほしい。ただ、やはり女にしかない悩み事があるかもしれない……。」
「分かったよ、任せときな。」
カリナは明るくニッコリ笑う。
そして、今度はフィルをギュッと抱きしめた。
「アンタの名前は?」
「フィル……です。」
カリナは困ったように笑った。
「アンタ、女の子だろう?」
「……フィルメリアです。」
「そうかい。綺麗な名前だねぇ……。」
カリナには、母の暖かさがあった。
警戒心の強いフィルの心に易々と入り込み、温めた。
「長旅、疲れただろう。団長と落ち合う日までしばらく滞在するから、ここで疲れを癒せばいい。」
少し眠たげなアルバート。
気が抜けて、疲れが出たのだろう。
フィルも眠気を感じていた。
「ありがとうございます。」
「……カリナには娘がいない。話し相手になってくれると助かる。」
「俺に務まりますかね……。」
アルバートの言葉をきっかけにして、一時でもカリナを母と慕うただの少女になれることは楽しみだった。
自分の年頃の女の子がどんなことをしているのか、カリナさんを手伝いながら聞こう。
フィルはそう決めて眠りについた。