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第七話

600PV突破です。

ありがとうございます。

仕方ない。


フィルはそう繰り返した。


しかしその度に胸はザラザラとした不快さに襲われ、キュウッと絞まるような感覚に囚われる。

眉尻が下がりそうになるのを堪えた。フィルは微笑み続けた。



「そのお話を聞いてやっと分かりました……父は、知らせを持って来たアルバート殿と一緒に俺を団長のところへ逃がした。

つまりは、俺を団長に匿っていただこうとしていたんですね?」


「えぇ。おそらくは。」



公爵の答えで、やっとパズルのピースがはまった。事実が見えた。

フィルとアルバート、どちらも何も分からぬまま旅をしていた意味がそれだった。


フィルは黙る。

何かを考えていた。


「……フィル?」

アルバートが、どうかしたのかと目で尋ねていた。

フィルはその目を見つめ返し、

「……俺を匿っていただくことは、お断りしようと思っています。」


静かに告げた。


「何故?確実に生きていける道なのに。」


そう尋ねる公爵は、全て分かっているように見える。

暗にアルバートに説明しろ、と言っているらしかった。


「ただでさえ、忙しいアルバート殿を駆り出してしまった上に、さらに迷惑になる訳にはいきません。」


「本当は?」


公爵は顔色一つ変えず、フィルの『言い訳』をバッサリ否定した。


「どういう意味でしょう……?」


フィルはとぼける。

公爵はクスリと笑った。


「嘘がとてもうまいのね……。でも、私の目はごまかせないわ。フェニックス血筋の人間の目は真偽を見抜くの。」


「……そうですか。」


フィルは嘘であることを否定しなかった。

先程の言葉が、ただの綺麗事を並べただけの表向きの理由だったと肯定したも同然だ。


「あなたは自分を守るための嘘をついている。……その嘘は決して正しいとは言えないけれど、それに守られた心はとても綺麗だわ。

でなければ、その細い体に負担を掛けて迷子を肩車したりはしないもの。

でも、ここまで連れて来てくれた、あなたをいつも真っ直ぐ見てくれている相手に嘘をつき続けるのは、失礼ではないかしら。」


フィルの目が見開かれた。


まだまだ若いし、相手の事を思いやる余裕がないから気付けなかったでしょう?

公爵はそう言って、フィルの頭を撫でる。


フィルの顔から微笑みが消え、眉尻は耐え切れず下がる。

情けないフィルの顔を見て、公爵はあらあらと困った表情をみせた。


「あなたは嘘をつく人間にしては心が綺麗すぎるのよ……。真偽が分かってしまう私と、あなたに真っ直ぐ向かってきてくれる彼……この二人だけなら、真実を明かしてしまってもいいと思わない?」


ね?

公爵の言葉に、フィルは目を閉じた。


「王宮……いわば敵の巣窟に飛び込んでビクビクしながら一時生きながらえるくらいなら、周囲に危険を及ぼすぐらいなら、危険性は増しても自力で何とかしたほうがマシかと思っています。」



ゆっくりと目を開いて、フィルは『真実』を零し始めた。



「私の本当の名前は、フィルメリア……クラーケンと人間、両方の血を引いていて、人間でも怪物でもどちらでもありません。」


次々と真実が吐き出される。


「異形の子というだけで風当たりが強いのに、異形の『女』では更に蔑まれるのではと危ぶんだ母に身を守る為の男装、暗器・剣の扱いと体術を教えられ、父には触手の使い方を教えられました。

そして自身で愛称であったフィルと名乗る事を決め、世の中一般大多数の人に嫌われない考え方や、敵となりうる人を武力以外の方法で圧する術も覚えました。腹の探り合いに負けないため、簡単には人を信用しなくなりました。

……すみませんでした、アルバート殿。

出会ってから2ヶ月、貴方はいつだって私に誠実でいてくださったのに。私は貴方に真実を明かさず、信用していなかったも同然。

貴方が、私を異端だからと蔑むような方ではないと知っていたのに、どこかで恐れて……。

大変失礼なことをしていたと、公爵様の言葉で気付きました。」

頭を深々と下げたフィルをアルバートはじっと見て、言った。


「……頼りにされていないことは知っていた。」


そして、口の端に僅かに笑みを浮かべる。


「一度性別を尋ねた時、お前は不審者を理由にはぐらかした。

触手も、見て驚きはしたが、お前は何も言わなかった。

どちらも言いたくないなら言わなくても問題はなかったし、自分から言うまで待とうと思っていた。

俺としては悪い奴じゃないってことだけ分かっていれば十分だったしな。お前が頼らなくても、お前が困れば俺は勝手に手を差し延べる。」



やはり、アルバートはどこまでもお人よしだった。



「何でも出来るお前ならば、確かに匿わなくても生きていけるかもな……しかし、それは追っ手から逃げながらの暮らしになる。

それならば、多少なりとも俺や団長の庇護のある、安心感のあるところで暮らした方がいい。上手くやれば、逃げずとも堂々と歩けるようになるかもしれない。

女であることなど、関係ない。俺がお前を守ると約束しよう。」



この2ヶ月間、いつだってそうだった。


フィルはアルバートの誰にでも向けられる優しさに巻き込まれてしまえば逃げられないのだ。


その優しさが自分に向けられた今。

やはり、拒むことができなかった。




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