第六話
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フィルとアルバートはよく色々な事に首を突っ込み、もしくは巻き込まれてきた。
しかし、これはさすがに。
あまりに予想外だったのだ。
「迷子になったのが上位貴族のお嬢さんだったとはな……。」
「なんで一般市民の服着てたのかとかはさておき、分かった瞬間くらいは俺達低頭するべきでしたかね。」
エル。自らをそう言った少女の正式な名前は、エルティア=クロマ=タフィー=フェニックスというらしい。長い。
「娘を見つけていただいてありがとうございます。お礼がしたいので、是非ともうちにいらしてくださいませ。」
そう言うエルの母親に乗せられてたどり着いたのは、王都も程近く、地価も高いというのにやけに豪華な屋敷だった。
大きすぎて、見上げると首が痛い。
フィルのいたクラーケンの屋敷とは比べものにならない大きさだ。
客間に通されながら、二人はヒソヒソと話していた。
「この屋敷……どうやら、あのフェニックス公爵で間違いなさそうだな。5つの公爵家で唯一女性が公爵の……」
「えぇ…!?上位貴族どころかほぼ最高位じゃないですか!」
燃えるような赤毛に、青い瞳のエルの母親。
つまりは。
「……今からでも、地面にめり込むくらい低頭した方がいいですかね。」
エルの母親は、公爵だ。
「たまにはエルと市民に紛れて普通の親子みたいに楽しむのもいっかなぁ~って思ってたらはぐれちゃって、どうしようかと思ったわ。」
どうやら年甲斐もなくお転婆なようである。うふふと笑うその顔は少女のように若々しく、とても子供がいるようには見えない。
「お母さん、屋台見つけたらすぐにフラフラして行っちゃうんだもん。私が迷子になっちゃったのに気付くの遅いよ!」
「ごめんね~。」
親子立場が逆転している。
娘の方がしっかりしていそうだ。
父親もこれでは苦労しているだろう。
もはや公爵が迷子だったのではないかという疑惑すら二人の頭には浮かんでいた。
「で、話は変わるけれど。」
今までののほほんとした顔とは打って変わって、公爵は真剣な表情になる。
「どうしてクラーケン領のお子さんがこんなところにいるのかしら。逃げてきたの?
騎士団の団長は男爵と仲が良かった……両者の性格から考えて、団長の方が提案してひとまず第一部隊隊長に子供を保護させたのかしら。あなたに預ければ基本的には何があっても死にはしないし。」
「「!?」」
二人は目を見開いた。
本人達が知らない部分もあるが、おそらくはと薄々感じていたことをズバリ言い当てられたのだから。
公爵は怪しむそぶりをみせていない。それなのに見抜かれていたという事実は、公爵の観察力の高さを示していた。
こうなればフィルも否定する訳にはいかず、身分を明かす。
「……確かに俺はクラーケンの子です。しかし、逃げてきたのか、という疑問には、薄々考えてはいたことですが俺にもよく分かっていないのでお答えできません。」
「俺も、団長に命じられたことを遂行しているだけで詳細は知らない。だから、分からない。」
フィルもアルバートも公爵に怯まなかった。
しっかり公爵の目を見据え、質問を返す。
公爵は目から力を抜いて、ふっと笑った。
若いのにやるわねぇ……と呟いてから、説明を始めた。
「先日……クラーケン男爵はその力の衰弱から、爵位の返還、及び譲渡を申し出られました。それはあなたも知っていますね?」
「えぇ。父は老いから来る力の衰弱で人の姿となることが叶わなくなり、ずっと屋敷の玄関にぎゅうぎゅうの状態で詰まっていました。もう自分は外に出られないならいっそ俺に位を、と考えたらしくて。実質色々執り行っていたのは俺でしたから。」
フィルは否定しなかった。
その目は何処か悲しそうだった。
「父は『あと数ヶ月もすれば、母のところに行ける』……そう言っていました。
俺は父と居られる時間はそう多くはないと知っていながらも、父から俺への初めての命令を拒めなかった。優しい父で……初めてだったんです。『アルバート殿に付いて王都に行け』なんて命令口調。あんなに必死に言われたら、拒めませんよ……。」
「そう……。」
公爵は、痛ましげに美しい顔を歪めた。
そして、目を閉じ、告げる。
「クラーケン男爵は、その豊かな領地を狙う多くの貴族のバカな狸ジジィ共の声により爵位剥奪の後殺されることが、昨日の朝議で確実になったわ。その子は、身分剥奪よ。」
賛否は、貴族全体では大体半分半分だったらしい。
しかし、最終的には5人の公爵のうち3人が賛成したため、決定は成されたのだ。
「私は反対した。あの領地はクラーケン男爵だからこそ利益を得られる土地なんだと知っていたから。
でも、バカ共はそんなこと考えもせずに賛成したのよ。利益をもたらす地が自分のものになることばかり考えて。」
止められなかったわ、ごめんなさい。
そう苦々しげに言う彼女に、フィルはただ薄く微笑むだけだった。
「仕方ないですよ……。」
仕方ない。