第四話
300PV突破です。嬉しい限り!涙ちょちょぎれます\(^ー^)/
「突然申し訳ありません、領主様に取り次ぎをお願いしたいのですが。」
フィルが領主の大きな屋敷の前で門番に営業スマイルで頼んでいた。
その隣には無表情のアルバート。
門番には怪しい二人組にしか見えなかったらしく、疑うような目線を二人に送る。
「俺の見た目をそのまま領主様に伝えてください。」
訝りながらも確認を取りに行った門番は、数分後に戻ってきた。
案内役の侍女も一緒だ。
「どうぞこちらへ。」
そう言った侍女は、痩せてこそいなかったが、暗い目をしていた。
「フィル殿、ようこそおいでくださいました。」
一切心の篭らない挨拶と共に頭を下げる領主。
そのやる気のなさそうな様子からは、上に立つ者の風格なんて微塵も感じられない。
「どうも。」
フィルはやんわりと微笑みながら軽く頭を下げる。
領主は僅かに顔に不機嫌さを滲ませた。
「……表面だけの挨拶はここまでにしましょう。」
そして、すぐさま嫌悪が浮かんだ。
「帰れ。何をしに来た、化け物に平民風情がこの私の前にノコノコと……身をわきまえろ。」
明らかに二人を見下していた。
以前喧嘩を売られたアルバートも、顔と名前は認識されていたらしい。
空気が張り詰める。
そんな中でもフィルは笑顔を崩さず、言葉を返す。
「まだ懲りてないようですね……貴方こそ御自分の身を弁えたらいかがでしょうか、ボンクラ領主。」
さらり、と。
なんでもないような口調で、容赦なく言葉の暴力を叩き付けた。
尚も笑顔のまま、唖然として、そして怒りで顔を歪ませた領主に次々と言葉を吐き出す。
「ロクに仕事も出来やしないボンクラのクセに態度とプライドばかり大きいのは相変わらずで……全く何様なんだか。
存在価値は残飯以下ですね……っていうか比べられた残飯がかわいそうです。」
初め、目に見えてここの領主に怒りを抱いていたのはアルバートだった。
だが、アルバートが口を開くまでもない。
一方飄々として見えていたその雰囲気より随分と腹を立てていたらしいフィル。
言葉の暴力をフルに使用して相手を叩きのめす。
アルバートの中からは領主に対する怒りなど最早消え去っていた。ただひたすらに精神攻撃を受けるその姿を、苦々しく思う程に憐れに感じる。
「どうせ私腹を肥やすために税を重くしているんでしょう?
今年は雨があまり降らず作物が育っていないことを貴方はご存知なんですか?
貴方からしてみれば知ったことか、みたいな感じだと思いますけどね、たとえば麦いくら乾燥に強いとはいえ2ヶ月ほとんど雨が降らなきゃそりゃあ出来も悪くなりますよ。
そんなことどこの領主だって知っていて、対応して税を下げています。
……ところで、貴方は何か対応をされましたか?今の生活を続けたいが為に、直訴に来た者を追い返していたのでは?」
ぐうの音もでないボンクラ領主。
忌ま忌ましそうな表情でフィルを睨んでいるだけだ。
「……私は正論を言っているだけです。そんな恨みを篭めた目で見ないでください。」
「……フィル、もうその辺にしておけ……哀れだ。」
遂にアルバートがストップを掛けた。
「このくらいでは足りませんが……やめときましょうか、ねぇ領主様。」
その言葉は領主の怒りの火に、更に油を注いだ。
「馬鹿にしやがって……!」
奇妙な叫び声。
何かと思えば、領主はフィルに飛び掛かったのだ。
「……そこで取る行動がさすがボンクラ領主って感じです、ねっ。」
落ち着いたままのフィル。
見た目は弱そうなフィルに、いくらボンクラとは言え貴族の子で、武術は嗜んでいるはずの領主が襲い掛かったことで、アルバートは咄嗟にフィルを庇おうとして。
「……!?」
何かに手を取られて阻まれた。
透き通りそうに青い、ふにふにしていて、つるりとした表面を持った太い紐状のそれ。
「化け物っ……このっ……化け……物風情がぁっ!私を愚弄するなぁぁぁ!!離せ、離せ!」
領主はがんじからめ。
アルバートを留めた物と同じ物が、もがく領主にしっかり巻き付いている。
「……化け物が、貴方に劣っているとは限りません。」
フィルの左腕の肘から先は、幾つもの触手が生える異形と化していた。
「今までの領主としてあるまじき領民に対する態度、そしてアルバート殿を侮辱したこと……どうか反省を。」