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第三話

100PVを越えました。

たくさんの方に見ていただけていて、嬉しい限りです。

アルバートは、男の前に湯を出した。


「飲むといい。温かいものを飲めば落ち着く。」




結局二人はもう二度と犯罪に手を染めるような馬鹿な真似はしないように男に誓わせた後で、男を許して解放した。

しかし、男は腰が抜けたらしく歩けなかったのだ。

二人は特に危険は感じられないこの男を、落ち着くまで少しの間面倒を見てやろうと考えた。


こうして襲った人間と襲われて返り討ちにした人間が一緒に焚火のそばで休憩するという奇妙な構図が完成している。



セグと名乗ったその男は、この森を抜けたところにある町で暮らしていると言った。


「うちの町は……っつーか領は税が重くてな……。

弟も妹もいるし、いくら働いても金は税で持ってかれる一方だ。妹はまだ幼いし、弟が長いこと患ってるんだが、金がないから医者にも診てもらえない。日に日に弱っていってる……。

今朝、血を吐いた弟を見て、何が何でも金を手に入れなければと思って……気付けばあんなことをしていた。」



セグは顔を歪めた。

アルバートはそんなセグの顔を無表情でじっと見つめる。

フィルは一つ大きなため息を吐いた。


「セグさん。分からないでもないです。取った行動も、心情も。」


セグは驚いて顔を上げた。

世間的には決して許されるはずのない行為を肯定されたのだから。


「数年前のことです……。俺は家族を侮辱されたことに腹を立て、気付けば侮辱した人を半殺しにしていました。」


苦笑しながら、少し辛そうにそう言うフィル。

セグの顔は驚愕に染まる。

アルバートも微かに驚きを滲ませていた。



「何をしてでも大切にしたい者がいる。すると、時に人は曇った視界で間違った手段を選んでしまう。」


フィルは言った。


「曇った視界は晴れたでしょう……?晴れた視界には、どんな顔をした弟さんと妹さんが見えますか?」


自分の為にそんなことをしないでくれと願う弟と妹が、容易に想像できる。


「それ……は……。」


セグは、顔を歪める。きつく目を閉じ、頭を下げた。



重苦しい沈黙が辺りを包んだ。



「……未遂だ。」





アルバートがぼそりと呟くように言った。


顔を上げたセグの目にはうっすら涙がうかんでいる。




「セグ……弟を治したいなら、隣の領のガルアの町に移り住め。

女の医者がいる。腕は確かだ。それに、その医者の兄が、人手が足りないと言っていた。掛かる金は働きながら返せばいい。」




隣の領とはいえ、セグの暮らす、今三人がいる森を出たところにある町はその隣の領に最も近い。

ガルアに着くには歩いてだいたい半日。

幼い子供を連れて歩いても、朝早く出れば夕方には確実に着く。

病気だとしても、一日は持ちこたえられるだろう。



「……そうなると、当面の資金として町にあるという貴方の家は売ることになるでしょうね。でも、家族には代えられないでしょう?」


セグは迷うことなく頷く。


フィルは柔らかな笑みをうかべていた。

アルバートも少しだけ笑った。

もう、二人ともセグを責めてはいなかった。



「ありがとう!この恩は必ず返すと誓います!」


セグは頭を地に擦りつけて礼を述べた。










「結局町まで来てしまいましたね……。」


「予定外だが、日程が早まるのは問題ない。」


二人が山の中で野宿していたのは、宿に泊まるより金の節約になるからだ。


王都まではかなり遠い。


何が起こるかわからないため、金は出来るだけ節約するに限る。


セグが客間と毛布を提供してくれたので、有り難く使わせてもらっている今。


「結果オーライ、ってやつですね。」

「そうだな。」



木の根でボコボコの地面よりは寝心地のよい固い床で、フィルとアルバートは毛布に包まって眠りについた。





「本当に何から何までありがとう。」


「こちらこそ、宿を提供してもらった。礼を言う。」



セグはまだ幼い妹と共に家の前まで見送りに来た。

フィルはセグの妹の頭を撫でてやる。


「無理せず、がんばってください。」


「うん!」



朗らかに笑うセグの妹。

その体は痩せていた。







「……寄り道をしてもいいか。」


フィルとアルバートは町を抜けようとしていた。

ところが、アルバートは立ち止まってそう言った。

すれ違う町人を見て、僅かに眉間にシワを寄せている。




皆が痩せた体で懸命に働いている。

子供達も、親を手伝って駆け回る。





「……行きに来た時は夜だったから気付かなかった。だが、今、気付いたからには見過ごせない。」


フィルは困ったように頬を掻いた。


「アルバート殿……貴方、いつか財産全部騙し取られそうで心配です。」


アルバートは明後日の方向を向いて、少し恥ずかしそうに言う。


「……部下だった奴に貯蓄半分を持って行かれたな。」


まさかの経験済み。

フィルは一瞬きょとんとした顔をして、それから声を出すのこそ抑えているものの肩を震わせて笑いはじめた。


「……声を出しても、怒ったりはしない。」


「すみませ……まさか…ホントに……ふふっ……あはっ……」


ひとしきり笑ったフィルは、目尻に溜まった涙を拭った。


「本当に行きますか?隣なのでたまに会ったりすることもなくはなかったんですが……めちゃくちゃ腹立つ坊ちゃんですよ。」


心底嫌そうに言うフィル。

アルバートは頷く。


「知っている。何回か城で喧嘩を吹っ掛けられた。」


「……わかりました、行きましょう。」




決まった。

シバきに行こう。

ここの愚物領主を。




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