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第二話

「フィルを、よろしく頼みます。」

「お任せください。必ず無事王城に届けると誓います。」



目の前で交わされるその会話を、フィルは他人事のように聞いていた。

アルバートが少し後ろに下がる。

その行動は、次はフィルが父と話す番だと伝えていた。


「フィル……。アルバート殿について、自分の足で王城に行きなさい。」


甘えてはならない、と父は暗にそう言っていた。

触手がフィルの頭を撫でる。

フィルは頷いた。


「行ってきます。」


そして、父に背を向けた。

少し離れた場所にいるアルバートに視線を向け、先導してくれる彼のところまで小走りで行く。


「お待たせしました、行きましょう。よろしくお願いします。」

「ああ。行こう。」


王城までの長い道のりを、二人は連れ立って歩き始めた。

これから2ヶ月、二人は歩き続けるのだ。







一日目は森の中で野宿だった。

火を起こし、フィルが家から持ってきた日持ちのする魚の干物を焼く。


「随分手際が良いな。」

「ありがとうございます。まぁ慣れてますからね。」


うちは使用人を雇えませんでしたから、自力で色々やるしかなかったですし……。


と、フィルの口からは早くも懐かしむような言葉が漏れた。



「ほんの少しですが、アルバート殿の役に立つことがあってよかったです。」


にこり。

笑うフィルの顔は夜だというのに、日だまりのような暖かさだ。

見ている者の肩の力が自然と抜けるような。


アルバートは思わず、つられて微笑み、フィルの容姿をぼんやりと眺める。


首筋の辺りの長さの、薄い灰色のふわふわした癖の強い髪。

翡翠とサファイアが混じったような、碧く光る、幼さを残しつつも凜とした瞳。

やや血色が悪く見えるほどに白い肌。

中性的な顔。

男物の、動きやすさと機能性を重視しているのであろう、首元まできっちり覆い隠し、袖口と裾がゆったりとしている上着にズボン、ブーツ。

腰あたりを少したるませて帯を巻き、そこに細身の剣をぶら下げている。


「……ひとつ、確認をいいだろうか。」


「はい、なんですか?」


アルバートはフィルの肯定の返事を受けとって、尋ねた。


「性別を教えてくれ。言い方が悪くてすまないが、俺には男とも女とも取れない。」


フィルはわずかに顔を引き攣らせた。

すぐに顔を引き締めるが、どこか動揺が滲みでている。

息を深く吐いた。


「……その話は後ほど。」


フィルは左手を右手のゆったりとした袖口に手を突っ込む。


「俺の話す決意がつかず躊躇してしまい話すタイミングを逃しましたが、父が信用したアルバート殿には伝えておかなければならない話でしたね……。申し訳ありませんでした。

ただ、こんなところで誰とも知れぬ輩に聞かせるような話ではないので。」

一瞬だった。

カッという音がして、8メートルほど離れた場所にある木に銀色に鈍く光る短剣が刺さった。


「どなたですか?」


フィルが袖口から短剣を投げたのだ。


「金目当てなら……」


アルバートも、動き出していた。


「やめておいた方が賢明です。」


ぴたり、と。フィルが短剣を投げた木の陰にいた男に、音もなくアルバートの剣が突き付けられていた。

ゆっくりとフィルが近付く。


「貴方はこのような犯罪に手を染めるのに慣れてはいないようですね。

手練れの物盗りならば、相手の実力は見極められるはずです。」


フィルは男の顔を覗き込んだ。

怯えにより歪んでいたが、柔和な顔をした青年だった。


「アルバート殿、剣を下ろしてもらってもいいですか?」



もはや不審者ではないのだから。





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