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ズドンと真実突き止めました


「よし。全員集まったな」


甲板に座ったみんなをぐるりと見渡して私は口を開く。


「えーっと、トルトゥーガに行く前に食糧の確保のために…えーっと、どこっだっけ?エマ」


「グァダルーペです」


その言葉に、私は欠伸を噛みしめて頷く。


いろいろありすぎて今になって眠気が襲ってきたのだ。


「そう。そこによることになったから。んで、今夜はそこに上陸するからよろしく」


その言葉に、みんなが嬉しそうにがやがやと騒ぐ。


それはそうだろう。

彼らにとって初めての自分たちがいた島以外への上陸なのだ。


「えーっと。そこに町があれば、今夜はそこに泊まることになる。そこで、君たちに言っておくことがある」


私の言葉に、しんとその場が水を打ったように静かになる。


「私が船長を務めるこの海賊船、少し変わってるかもしれないけど幾つか掟を決めさせてもらうことにした」


それぞれに顔を見合わせる子供達。


「いいかー。耳の穴かっぽじってよく聞くように。一つ、無意味な殺生は禁止。一つ、一般人に迷惑はかけないようにすること。一つ、何よりも自分の命を大切にすること。以上。文句のある奴はいる?」




誰も口を開かない。


何となく戸惑ったような静けさが船を包む。


そんな中、一人が沈黙を破った。


「…海賊は奪って殺す。それが海のならず者と呼ばれる俺達で、その証があの海賊旗だ」


刀を抱えて片膝を立てて座っているロイドだった。


「もともと、俺達には金がない。一般人に迷惑をかけないようにするならどうやって食糧を調達すればいい?」


挑発するようなロイドの言葉に、私はにやりと笑って見せた。


「簡単簡単。“一般人”じゃなけりゃ、多少羽目を外したって構わないんじゃない?…例えば、強奪の限りを尽くしている悪どい海賊、とか」


その言葉に、みんなが息を飲む音が聞こえた。


「どうやら、私たちが行く…何とかって島には、先着のお客様がいらっしゃるみたいで。…そこで。腕に覚えのある奴は手をあげてもらえる?」


言えば、戸惑いながらもロイドとエマ、それにジョーとリュックが手をあげた。


チビは、何の話をしているのか分かっていないくせに手を上げようとしたからその頭をぱちんと叩いてやったら目をぱちくりさせていた。


「はい。じゃあ、ユグはチビを連れてちょっと船室に入っててくれる?」


そう言うと、ユグは黙って頷くとチビを抱え上げて船室に入って行った。


それを見届けてから、私は残った奴らの前に胡坐をかいて座る。




「…で、ぶっちゃけあんた達ってどれくらい強いの?」


聞くと、モノクルを押さえて口を開く。


「はっきり言って、一番強いのはロイドです。彼はあまり言いたくないみたいですが…」


「おい、エマ」


エマの言葉をロイドが遮ろうとするが、彼は肩をすくめて続ける。


「ロイドはもともとは騎士の家の生まれなので、剣に関しては一流です」


「へぇ、騎士ねえ」


驚いてロイドを見ると、彼はふてくされたようにそっぽを向いてしまった。


「まぁ、そんな彼がここにこうしているのもいろいろ事情がありますので。あと、私は医者の息子だったので、毒殺に関してはエキスパートです」


にっこりと満面の笑顔で言い切ったエマから、私が思わず身を引いたのは言うまでもない。


「俺達は特に特別なことはないけど、身が軽いから暗殺とか殺し合いもあの島で何度か生き抜いてきたぜ」


「ああ!ロイドやエマほどじゃねぇが、それなりに戦えるとは思うぜ!」


リュックとジョーの言葉に私は頷く。


「分かった。ちなみに、私は謙遜なしに言うと、銃に関しては一流だと思ってる。1キロ先の相手を正確に撃ちぬけるほど」


昔、一度狙撃銃を撃たせてもらったときのことだ。


「1キロ!?」


この言葉に、全員が驚いた。


だと思った。


マスケット銃を使ってるようじゃ銃の射撃距離はたかが知れている。


恐らく、私が考えている通りの時代ならば射撃距離がキロメートルを超すことは超常現象以外の何物でもないだろう。


「ピストルももちろん扱える。ってことで、今夜その海賊を襲撃する。覚悟はいい?」


聞けば、全員が頷く。


それを、私は第三者のようにどこか客観的に見ていた。


覚悟はいい?って、覚悟が出来てないのは、私だ。


今夜、人を撃つ。


もしかしたら殺さなくちゃいけないかもしれない。


どんなに相手が非道の数々を行ってきた海賊だと分かっていても、まだ踏ん切りがつかない私がいることを隠して私は笑った。




みんなを解散させてから、私は一人武器庫にいた。


ここにある銃は精度が低いうえに、銃弾を銃口から詰め込む方式の一回で一発しか撃てない非常に効率の悪い銃だ。


そのマスケット銃のうちのピストル式のものを私は武器庫に集められたガラクタと、工具でそれに細工をしていた。


幸運なことに、私は日本ではとある銃演武団体などに参加していたため、マスケット銃の扱いも、それの改良の仕方も教わったことがあった。


ついでに先込め式のものもリボルバー式にしながら、私は口を開く。



「ねぇ、ウンディーネ」



答えはなかったが、後ろに彼女が姿を現したのを気配で感じた。


「ここにある武器は、ほとんどが中世のものなんだけど、あそこの箱の中にだけ、軍隊でしか使えないような暗視スコープや狙撃用ライフルが入ってたんだよね」


後ろでウンディーネがびくっと肩を震わせたのが分かった。


「ねえ、教えてウンディーネ。私が今いる世界ってなんなの?」


銃を加工しながら振り返ると、目に涙を浮かべたウンディーネがいた。


「ご、めんなさい…!ばれたら…船長やめられちゃうかも…って思って…!言えなかったの…!」


肩を震わせるウンディーネを見て、私はピストルを床に置いてまっすぐウンディーネを見つめる。


「私、トラックにひかれたんだよね?日本の現代で。それで、死んじゃったんだよね?」


その言葉に、ウンディーネは戸惑いながらも、頷いた。


「本当に、ごめんなさい…!ちょうど、私、この子達の船長になれるような人を探してたの…!そしたらワルキューレからあなたのことを聞いて…子供を庇って死ねるような子なら…未来の人間なら、この子達を幸せに出来ると思って…」


「それで、死んだはずの私をここで生き返らせて、ついでに未来の武器も持ってきちゃったのね?…ってことは、ここは過去なの?」


その問いかけに、ウンディーネは頷く。


「18世紀の初頭…。でも、あなたを生き返らせたのは私じゃないの。さっき話したワルキューレがあなたの離れた魂を偶然捕まえていたから、私の魂と引き換えに譲ってもらったの…」


その言葉に、私は目を見開く。


「なんで、そこまでして…!」


「私達、ウンディーネは人間と恋をしたら魂が宿るのよ。でも、私の力じゃ、あの人を守ることが出来ないから…!私の魂よりも、皆を守ってくれると信じてあなたの魂に賭けたの」


「ウンディーネ…」


涙をこぼして肩をふるわせる彼女を私は抱きしめてよしよし、と頭を撫でた。

相変わらず、彼女の体に暖かさは感じられなかった。




「謝ることじゃないよ。おかげで、死んだはずだった私がもう一度新しい人生を歩めるんだもの。反対にお礼を言わなくっちゃ。あー…。でも、私ってこういうときに良い言葉が出てこないんだよね。まぁ、だから行動で返すことにするよ」


「?」


顔をあげたウンディーネに、私は笑って見せる。


「ウンディーネが賭けてくれた分、きっちり皆を幸せにしてみせる。何があっても、私があの子達を守るから」


「でも…!私は、あの子達の幸せだけを考えて、あなた自身が幸せになれることなんてこれっぽっちも考えてなかった…!こんな身勝手なお願い…!」


そう俯くウンディーネの頭を私はぱしんと叩く。


「お馬鹿。あのね、私は船長なの。あの子達の親みたいなもんになっちまったんだからさ。あいつらの幸せが、私の幸せだよ」


「ナチ…!ありがとう…」


笑ながら泣く、なんて器用なまねをするウンディーネに苦笑しながら、私ははたと気づく。


「…そういえば、ウンディーネって恋をしたから魂が宿ったんだよね?その相手って…まさか…」


この船に相手がいる…?


だから、ウンディーネはこんなにこの子達に執着している…ということは…


その言葉に、ウンディーネは照れたように笑う。


「うん。ナチが思ってるとおり…この船に乗ってるよ」


やっぱりぃいい!


「誰!?」


勢い込んで尋ねるが、ウンディーネは照れた表情のまま肩をすくめて姿を消してしまった。


「だって、恥ずかしいんだもん」



そんな一言を残して。




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