# 第8話 今後の計画
王宮の自室に戻ったかか志は、ベッドに腰を下ろした。
「……疲れたぁ。いや、長いだろ今日……」
そのまま後ろへ倒れ込み、天井を見上げる。
朝、目が覚めたら異世界だった――というだけでも十分おかしい。正確には、目が覚めるより先に召喚されていて、神様から説明を受けたと思ったら王宮へ送られた。国王と話をして、部屋を案内され、城下町を見て回り、そのまま冒険者ギルドへ行って登録。最後にはテンパール草原で薬草まで採っている。
「異世界初日って、もっとこう……何も分からなくて困るとかじゃないのか? 俺、もう普通に仕事して帰ってきてるじゃん……」
我ながら順応が早すぎる気もする。
もっとも、今日一日を思い返してみれば、悪いことばかりではなかった。冒険者として初めて受けた依頼は薬草採取。ヨルが付き添ってくれていたとはいえ、自分で薬草を探して、採って、ギルドへ持ち帰った。依頼は無事に完了し、報酬も受け取っている。
「……意外と何とかなるもんだな。まあ、薬草採るくらいなら俺でもできたし……」
もちろん、一回やっただけだ。冒険者が普段どんな仕事をしているのかも、自分に何ができるのかも、まだよく分かっていない。
それでも、少なくとも今日と同じような依頼ならできそうだった。依頼を受けて、終われば報酬をもらえる。
「…………」
そこで、かか志はふと身体を起こした。
改めて部屋を見る。王宮の一室。当然、宿代など払っていない。食事も出てくるし、生活に必要なものも今のところ国が用意してくれている。
「……待てよ。俺……今、完全に国のヒモじゃね?」
口に出した瞬間、妙に実感が湧いた。
「いや、仕方ないんだけどさ。俺が好きでこっち来たわけじゃないし。来たばっかりだし……」
誰に言い訳しているのか自分でも分からない。実際、困っているところをここまで面倒見てもらえているのだから、ありがたい話ではある。
だからといって、いつまでもこのままというのも違う気がする。
「……せめて、自分の生活費くらいは自分で稼ぎたいな」
元の世界では、自分で働いて生活していた。給料をもらい、家賃を払い、食費を払い、残った金でやりくりする。それが当たり前だった。
異世界へ来たからといって、その感覚まで急に変わるわけではない。
今日受け取った報酬を思い出す。あれを何回か稼げば、一日分くらいにはなるのだろうか。
「……ん? そもそも、一日いくらあれば生活できるんだ?」
知らない。
「宿……一泊いくらだ?」
城下町で宿屋はいくつか見た。見た覚えはあるが、料金まで確認した覚えはない。
食事はいくらなのか。冒険者は一日にどのくらい稼ぐのか。一人で暮らすなら、他に何が必要なのか。考え始めると、次々に分からないことが出てくる。
「こういうの、普通なら……」
無意識に手が動きかけて、止まった。
「……スマホないんだった。宿代調べるだけで人に聞かないといけないのか……地味にきついな」
地図もない。検索もできない。冒険者の平均収入を調べようにも、検索欄そのものが存在しない。
少し考えて、かか志は首を傾げた。
「……いや、ギルドで聞けばいいだけか」
答えは簡単だった。
再びベッドへ倒れ込む。
「じゃあ明日、またギルド行って……初心者でもできそうなの探して……そのついでに聞けばいいな」
宿代と食事代。それから、冒険者としてどのくらい稼げれば生活できるのか。
何度か依頼をやってみれば、自分でもやっていけそうかどうかは分かるだろう。
「それで足りなかったら……まあ、そのとき考えればいいか」
異世界に来て、まだ一日目である。今の時点で、この先の生活すべてを決められるはずもない。
「うん。とりあえず明日も依頼やってみよう」
今日できたことを、明日もやってみる。分からないことは聞く。駄目だったら、そのとき別の方法を考える。
今後の計画と呼ぶには、かなり雑な気もする。
だが、かか志本人は満足した。
「分からないことは……明日また考えよう」
そのまま目を閉じる。長すぎた異世界生活一日目も、これでようやく終わりだ。
数秒後、かか志は小さく呟いた。
「……異世界来た初日くらい、これでいいだろ」
――明日から本気を出そう。
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