表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイコとケンジ  作者: Kentarou Theater


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/9

第四話「戦闘形態」


 変形は、三秒で終わった。

 音がした。金属が軋む音。展開する音。固定される音。

 モニターの映像が変わった。さっきまで見えていなかった腕が、両側に展開されていた。脚部が折り畳まれて推進器に変わっていた。背中に何かが開いた。

「……でかくなった?」

『全長が変わったわけではありません。形が変わりました』

「なんか、強そう」

『強いです』

 ケンジが計器を見ながら言った。

「出力が三倍になってる」

「三倍!?」

「さっきまでと別の機体みたいだ」

『別の機体ではありません。同じ機体です。ただ——』

 マリアが少し間を置いた。

『本気を出しています』

 アイコはモニターを見た。十七の光点は、まだこちらに気づいていない。でもじわじわと包囲網が狭まっている。時間がない。

「マリアさん、武装は」

『右腕に実体剣。左腕に収束圧力砲。背部に短距離誘導弾、八発』

「使い方は」

『感覚で分かります』

「さっきもそれ言ってたけど——」

 アイコは試しに右腕を動かした。操縦桿を少し右に傾ける。モニターの中で巨大な腕が動いた。指先まで、自分の手みたいに動いた。

「——ほんとだ」

『信じてもらえましたか』

「信じるしかないじゃないの」

 アイコは深呼吸した。

 十四年間生きてきて、こんな状況になるとは思っていなかった。朝に寝坊して、曲がり角でさえない男子にぶつかって、気づいたら海底で巨大ロボットに乗って戦おうとしている。

 人生、何があるか分からない。

「ケンジ」

「何」

「怖い?」

「怖い」

「逃げてもいいよ。でも逃げ場ないけど」

「分かってる。やる」

「何ができるの」

「計器の読み方なら、たぶん」

「たぶんって何よ」

「理系だから」

「それだけ?」

「あと——」

 ケンジが副席のパネルを操作した。モニターに十七機の位置と移動ベクトルが表示された。包囲網の隙間。最短ルート。全部数字で。

「こっちから抜けると、最初の三機だけ相手にすれば東に出られる」

 アイコはその画面を見た。

「……やるじゃん」

「理系だから」

「それだけ言ってなさい」

 アイコは操縦桿を握った。

「マリアさん、行くよ」

『はい』

「お母さんに会いに行く」

『はい』

「帰ってきたら説明してもらうから。全部」

『全部、話します』

「約束ね」

『約束します』

 推進器が唸った。

 機体が砂煙を巻き上げて動いた。

 ケンジが叫んだ。

「二時方向、一機気づいた!来る!」

「見えてる!」

 索敵艇が光線を放った。アイコは操縦桿を捻った。光線が左をかすめた。右腕を振った。実体剣が索敵艇を両断した。

「——当たった!」

「まぐれでしょ」

「まぐれじゃない!感覚だから!」

「それが一番怖い!」

 二機目が正面から来た。アイコは左腕を向けた。収束圧力砲。トリガーを引いた。

 青白い光が走った。

 索敵艇が爆発した。

「すごい」

「すごい!」

「落ち着いて」マリアの声が割って入った。「三機目、真上です」

 アイコは上を向いた。真上から急降下してくる索敵艇。回避が間に合わない。

「ケンジ!」

「誘導弾、発射!」

 背部から八発中の二発が飛んだ。索敵艇がそれを躱そうとして——躱せなかった。爆発。残骸が海底に沈んでいく。

「抜けた!東に出られる!」

「行って!」マリアが言った。「残りの十四機が動き出しました!」

「速度は!」

「全開で!」

 機体が加速した。暗い海底を、光の尾を引きながら突っ走った。後ろで十四の光点が追ってくる。でも、遅い。戦闘形態の方が速かった。

 じわじわ、距離が開いていく。

 一分後。

 追跡が見えなくなった。


 アイコは操縦桿から手を離した。

 全身から力が抜けた。シートに沈み込んだ。

「……終わった?」

『一時的に』

「また一時的かよ」

『すみません。白鳥機関は諦めません』

「知ってる」

 隣でケンジが大きく息を吐いた。眼鏡がないまま、天井を見上げていた。

「……君、強いね」

「マリアさんのおかげ」

「でも動かしてたのは君だよ」

 アイコはケンジを見た。

「ケンジも、誘導弾うまかった」

「理系だから」

「それしか言わないね」

「事実だから」

 二人は少しの間、黙っていた。

 モニターに東への進路が表示されていた。海底基地まで、まだ三十八キロ。

 アイコは前を向いた。

「マリアさん、お母さんは元気?眠ってるだけ?」

『バイタルは安定しています。三年間、ずっと』

「三年間……」

 三年間、ずっとこの機体の中で眠っていた。

 アイコは唇を噛んだ。泣かなかった。泣いてる場合じゃなかった。

「絶対起こすから」

『——はい』

「待っててって言っといて」

『伝えます』

 機体は暗い海底を進んでいた。

 後ろに白鳥機関。前に海底基地。お母さんはこの機体の中で眠っている。

 隣に、さえない男子。

 最悪な一日が、とんでもない冒険になっていた。


 つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ