ダメ男好きの転生少女はニートな闇の精霊王を養いたい!
前世の私は、若手女社長として世間ではちょっとした有名人だった。ただし有名人の理由はいわゆる仕事の出来ではなく、その性癖にあった。
24時間365日、寝食を忘れてバリバリと仕事をこなした理由はただ一つ。
――私が「極上のダメ男(ただしイケメンに限る)」を養うためだ。
私はこの性癖を隠したことなど一度もない。広報誌の趣味欄にはいつも「ヒモの飼育」と書いていたし、社員には「君たちが頑張って利益を出せば、私のヒモが今日もふかふかのベッドで眠れるんだ」と公言していた。
ミュージシャン、デイトレーダー、舞台俳優、
そんな夢を追って挫折したイケメンたちが、私の金でダラダラ過ごし、「君のおかげで僕は生きてる」と甘えてくる。そのために稼ぐ金はこの世で一番価値がある。
しかし、現実は非情である。私が全力で尽くすと、男たちは皆「君にふさわしい男になりたい!」と私の資金を元に一念発起し、気づけば夢を叶えてしまう。
(そうじゃない! 私は社会に役立つ男が欲しいんじゃない、私に依存するゴミが欲しいのよ!)
血の涙を流しながら、次のヒモを養う資金を稼ぐために無理をして、私は30歳で過労死した。次こそは、永遠に更生しない「極上のダメ男」を養い尽くしたい。そう願いながら。
そんな前世の記憶を持つ今世の私は、リーナという名の孤児だった。
この世界では珍しい「黒髪黒目」、私に言わせれば前世の日本人そのまんまの手抜き転生だったが、そんな特徴を持つ故に私は「闇の精霊王の愛し子」として育てられた。
闇の精霊王は、精霊王とは名ばかりでもう何百年も聖域から出てきていないと噂の精霊だ。
国からは「引きこもりのハズレ精霊」と見放され、私への期待もゼロ。渡された予算は「愛し子」としては最低限。だが、前世で数多の事業を成功させた私にすれば、これをやりくりして「一人の男を廃人にする」環境を整えるのは朝飯前だった。
(暗い、怖い、引きこもり……。それって、最高に「私が稼いで守ってあげなきゃいけないダメ男」ってことじゃない!)
私は最低限の予算で「闇の精霊専用・ダメ人間製造キット」――手作り安眠枕、前世チートで作った食事、そして「何もしないこと」を全力で肯定する空間――を作り上げるべく、聖域へと乗り込んだ。
聖域の最奥。そこにいたのは、漆黒の髪をボサボサに伸ばし、目の下に深いクマを作った美青年――闇の精霊王、アレスだった。
「……また、私を蔑み、怯えに来たのか? 去れ、小娘。私は……もう誰も信じない……」
弱々しい声。震える肩。
聞けば、先代の「愛し子」に「暗くて怖い、化け物!」と泣き叫んで拒絶されて以来、彼は自分を呪い、外界との接触を断って引きこもり気味なのだという。
(……きたわ。これよ。これこそ私の求めていた「繊細で極上のゴミ候補」よ……!)
「初めまして、アレス様。今日からあなたをダメ人間に……いえ、お世話しに来たリーナです。ご安心ください、私はあなたがどれだけ暗くても、一生養い続ける覚悟でここに来ました!」
「……養う? 何を言っている。私は恐ろしい闇の……」
「闇? 涼しくて最高じゃないですか。先代は見る目がなかったんですよ。私はこの黒髪を見ればわかる通り、闇属性のサラブレッドですから。そんなことより、お腹空いてませんか? 私、お弁当を作ってきたんです!さあ、あーんしましょう!」
「…………は?」
精霊王アレスは、あまりの展開に呆然としていた。
それからも私は前世のマネジメント能力をフル稼働させた。
限られた予算を効率的に運用し、アレスの周辺環境を「一歩も動かなくていい」レベルに整えた。
アレスが「どうせ自分なんて……」と落ち込めば、
「じゃあずっとここに私と2人で暮らしましょう!私かわ毎日外の世界の楽しいものだけをここに運び続けますから」
と伝え、彼を徹底的に甘やかした。
「アレス様、あなたは何も考えなくていいんです。ただ、私が差し出す美味しいものを食べて、私の膝の上で寝ていればいいの。それが私の生きがいですから!」
「リーナ……お前は、本当に……こんな私に、そこまで尽くしてくれるのか。お前がそばにいると、胸の奥が温かいんだ……」
よし、いいぞ。順調に依存している。
彼は私なしでは何もできない、立派な「精霊ニート」へと着実に育っている。
……はずだった。
だが、私が「養うため」に注ぎ込んだ全肯定のエネルギーは、想定外の作用を引き起こしていた。
「闇」とは、本来「休息」と「再生」を司る力。私の過保護なまでの献身は、数百年傷ついていたアレスの霊基を、爆速で修復させてしまったのである。
ある日、いつものように「今日は一歩も動かないぞセット」を持って聖域に向かうと、そこには異変が起きていた。
洞窟中に満ちていた淀んだ空気は消え、代わりに凛とした、神聖なまでの魔力が渦巻いている。
そして、そこにいたのは――。
「……リーナ。待っていたぞ」
髪を艶やかに整え、背筋をピンと伸ばした、神々しいまでの超絶イケメン。
クマは消え、瞳は力強い意志を宿して輝いている。
「……え、どちら様?」
「何を見違えている。アレスだ。お前の献身的な愛のおかげで、ようやく目が覚めた。先代の言葉などどうでもいい。……私は今まで、自分の力を恐れて逃げていただけだった。だが、お前を守るためには、私が世界で一番強くあらねばならないと気づいたんだ」
アレスが指をパチンと鳴らす。
すると、精霊王を「ハズレ」と呼び、私を厄介払いした神官や貴族たちが、一瞬にして影の力でひざまずかされたという思念が伝わってきた。
「アレス様? あの、引きこもり計画は……?」
「もう終わりだ。これからは、私がこの国を、そしてお前を支配……いや、守護する。私が立派な王になれば、お前も安心して私の腕の中で暮らせるだろう?」
アレスは私の腰を抱き寄せ、耳元で甘く囁いた。
「お前のその黒髪も黒目も、やはり私の愛し子の証だったのだな。お前のすべてを、私が一生管理してやる。もう、お前が一人で苦労して稼ぐ必要はないぞ」
……あれ?
おかしい。私が彼を飼い慣らすはずだったのに。
気づけば、私が彼に「溺愛」という名の鳥籠に入れられようとしている。
「……なんでよ! なんでみんな、すぐ立派になっちゃうのよーーー!!」
私の絶望の叫びは誰にも聞いてもらえないのであったーー




