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「ペルム紀」で絶滅してみませんか?  作者: 遠藤 世羅須


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9/9

第四話:監査で絶滅してみませんか?(ツナ缶・サバ缶案件の後始末)連番⑨

いよいよやって来る「監査」。一番の敵の来訪。

※今回より登場


黒曜こくようミサキ:時空倫理委員会・第七部会 委員長

            時空法規/リスク統治/組織心理


白亜はくあツクリ :時空倫理委員会・第七部会 委員(監査同行者)

            古生物学(特に中生代)/観測工学/

            時空汚染モデリング


帳・カンブリア(見た目40台):行政地質学(※本人が勝手に作った分野)/

                時空法規/リスク層序学学者

                クロノス計画の責任者兼対外説明・

                監査対応・揉み消し担当



帰還直後の研究所は、サバ缶臭と疲労で満ちている。

アキが床に転がったまま天井を見ていると、ドアがノックされる。

入ってくるのはスーツ姿の男女二人――胸のバッジに、

嫌な単語が輝いている。

時空倫理委員会だ。

挿絵(By みてみん)


「……貴研究所における“缶詰の時代間移送”について、確認に参りました」

アキの魂が口から抜けかける。

「ほら来た……。缶のせいで……」

ドクター・ゴンドワナは涼しい顔で言い切る。

「缶は、文化交流だよ」

「文化汚染です!」アキと委員会が同時に叫ぶ。


その瞬間、廊下の影が一歩前に出る。

スーツが“地層のように”整い、付箋が“化石のように”並ぶ男

――帳・カンブリアだ。

彼はクロノス計画の責任者で、対外説明・監査対応・揉み消し担当。

「私が対応します。……本件は“監査層”に移行します」

アキが小声でつぶやく。

「層って言えば何でも許されると思ってません?」

「許されません。ですが通ります」


監査室:時空倫理委員会・第七会議室(空気が紙)

会議室は清潔で、無臭で、そして敵意が“公文書のフォント”で

存在している。


委員が淡々と読み上げる。

「案件①:サバ缶の投擲、および原始生物による缶ごと飲み込み事案」

「案件②:ツナ缶の投擲、およびデボン紀大型魚類による缶ごと飲み込み事案」

「案件③:当該缶詰の回収不備、ならびに“文化交流”という虚偽表現」


ゴンドワナが微笑む。

「虚偽じゃないよ。交流した。胃袋と」

アキが机に額を打ちつける。

「やめてください、倫理が酸欠になります!」


委員長の横に座る男が、無言で資料をめくっている。

目だけが異様に輝いている。氷のように冷たいが、

どこか“オタクの熱”が漏れている。

名札:委員・白亜はくあ ツクリ(

※本人は「専門は地球史全般」と書いている)


委員長が言う。

「では証拠を提示します」

モニターに映像が出る。

デボン紀の浅瀬。ゴンドワナがツナ缶を投げる。

巨大魚が“缶ごと”飲み込む。


ゴンドワナが言う。「文化交流、成功だ」

アキが言う。「汚染です!」

委員長が問う。

「回収は?」

ゴンドワナが胸を張る。

「回収されているよ。消化管に」

「回収場所が“胃”は認められません」

そこで委員・白亜ツクリが、突然、低温のまま早口になる。

「……ちなみに、あの個体。顎の装甲の角度から見て

ダンクルオステウスの可能性が高い。

現地で“缶ごと飲み込み”を確認できたのは貴重です。

顎圧と嚥下反射の――」


委員長が横目で刺す。

「ツクリ委員。今は“倫理”です」

白亜ツクリは一拍で顔の熱を引っ込め、氷に戻る。

「失礼。倫理に集中します」

アキが心の中で叫ぶ。

(こわっ。地球史オタクが理性でフタしてるの、いちばんこわっ)


追及:サバ缶案件(石炭紀・座布団生物)

委員が次の資料を開く。

石炭紀、ゴンドワナがサバ缶をアキに渡し、「文明の力を使おう」と言っている。

アキが絶望している。

そして、原始生物が缶ごと飲み込む。


委員長が言う。

「“餌付け”の意図は?」

ゴンドワナがさらりと言う。

「教育だよ。未来の魚介類がどれほど進化したかを」

委員・白亜ツクリが、氷のまま追撃する。

「それは”教材”です。教材の投下は介入です。介入は倫理違反です。

……ただし、あの生物の嚥下速度は大変興味深い」

委員長が咳払いをする。

「ツクリ委員」

「失礼。倫理に集中します(二回目)」

アキが机の下で親指を立てる(誰にも見えない)。

(この人、味方じゃない。敵だけど“いい敵”だ。笑いが増える)


追及②:ツナ缶(デボン紀)案件=“文化汚染”確定

委員長が言う。

「ツナ缶は、時代選定(“魚の時代だから魚で挨拶”)という意図が明確です。

これは誤投入ではなく、企図です」

アキが即死しかける。

「……終わった……」

ゴンドワナは平然としている。

「礼儀だよ。時代には、その時代の挨拶がある」

委員・白亜ツクリが冷たく言う。

「その礼儀は、あなたの世界の礼儀です。

当該時代の礼儀は、ツナ缶ではありません。せいぜい“噛む”です」

パンゲアが横からぼそっと言う。

「噛むのは……構造的に……正しい……」

アキが即座に遮る。

「黙ってください!今日は“構造”も監査対象です!」


証言台アキ=被害者兼共犯

委員長が言う。

「助手。あなたは止めましたか」

アキは現在形で詰む。

止めている。止めているつもりだ。だが世界は止まらない。

「止めてます!止めてますけど!

ドクターが“いいねぇ”って言った瞬間、もう手遅れなんです!」

ゴンドワナがうんうん頷く。

「いいねぇ」

アキが叫ぶ。

「今言わないで!監査中です!」


カンブリアが淡々と付箋を貼る。

【禁止語:いいねぇ(監査中)】

ゴンドワナが小声で言い直す。

「学術的に興味深い」

委員・白亜ツクリが即答する。

「それも今は危険です。あなたの“学術的に興味深い”は、

 だいたい世界を壊します」

アキが震える。

「ほら!委員会の人にまで言われてる!」


挿絵(By みてみん)


防衛:帳・カンブリア、文章で殴る

帳・カンブリアは、分厚いファイルを開く。背表紙にこうある。

『缶詰時代間移送:リスク層序と是正措置(暫定)』

委員が眉をひそめる。

「準備が良すぎるのでは?」

「準備は倫理です」

カンブリアが続ける。


原因:携行食品の“誤投入”(故意ではない)

影響:当該生物の消化管で停止(拡散しない)

再発防止:

1 .クロノス号の持ち込み検査に「缶詰探知」追加

2. 投擲行為の禁止(“投擲”という単語も禁止)

3. ゴンドワナの語彙から「文化交流」を削除(重要)


ゴンドワナが手を挙げる。

「じゃあ、なんて言えばいい?」

カンブリアは一切表情を変えずに言う。

「誤投入です」

「寂しいねぇ」

「寂しさは監査対象外です」


仮判決:条件付き継続(ただし監査同行)

委員長が淡々と告げる。

「再発防止策を条件に、計画の停止は見送ります。

ただし次回の渡航計画は提出必須。隕石鑑賞は危険行為に該当します」

アキが反射で立ち上がる。

「え、隕石鑑賞!?」

ゴンドワナはすでにノートを開いている。でかい字で書いてある。

『白亜紀末期:巨大隕石・花火大会(最高)』

会議室の空気が氷期を超えて真空になる。

委員長が低く言う。

「却下」

帳・カンブリアが、ノートの上に静かに別紙を重ねる。

『白亜紀末期:地球外起源物質の大気圏突入現象に関する

 遠隔観測計画(無音・無歓声)』

ゴンドワナが言い直す。

「学術的に興味深い――」


委員・白亜ツクリが指を立てる。

「“最高”は禁止語。

“花火”も禁止語。

“大会”は論外。

代替語は『発光現象』。以上」


ゴンドワナが目を輝かせる。

「学術的に興味深い発光現象(小声)」

アキは椅子に崩れ落ちる。

(もうだめだ。言い換えたところで、やることは同じだ)

委員長が最後の紙を置く。

「――なお、次回遠隔観測には“監査同行者”が乗ります」

アキの顔が引きつる。

「……え。誰が?」

委員・白亜ツクリが、氷のまま言う。

「私です」

ゴンドワナがにっこりする。

「いいねぇ……いや、学術的に興味深い」

アキは酸素ボンベを抱きしめたまま、現在形で絶望する。


白亜ツクリが立ち上がり、最後に一言だけ落とす。

「安心してください。あなたは死にません。

死ぬのは“言い訳”です。私は全部、潰します」

アキは思う。

(怖い。隕石より怖いのが来る)

こうして一行は、

“発光現象(※隕石)”を遠隔で“無音無歓声で眺める”という、

人類史上もっとも怪しい約束を交わしたまま、次へ進もうとしている。



帰還:研究所(監査明けの空気はまだ紙)

夜。研究所に戻ると、ゴンドワナがこっそり自販機へ向かう。

缶コーヒーだ。

カンブリアが立ち塞がる。

「缶は禁止です」

「えっ、これは現代だよ?」

「“缶の誘惑に抗えない精神状態”が再発の温床です」

アキが涙目で笑う。

「委員会より厳しい……」


帳・カンブリアは、最終通告の紙を貼る。

・ 缶詰:持込禁止

・ 乾杯:現地禁止(帰還後のみ)

・ 投擲:単語ごと禁止

・ 違反時:次回渡航は“地層観察のみ”(生物観察禁止)


パンゲアが目を輝かせる。

「生物禁止……つまり、構造だけ見ろということか…

 …“構造的”に最高だな……」

アキが叫ぶ。

「やめて!禁止事項を喜ばないで!」

ゴンドワナがしみじみ言う。

「じゃあ白亜紀は……缶なしで、どうやって礼儀を――」

アキが即答する。

「礼儀いりません!生きて帰るのが礼儀です!」

ゴンドワナがにっこりする。

「いいねぇ。じゃあ次は白亜紀だ」

アキは酸素ボンベを抱きしめたまま、静かに現在形で絶望する。

「……もう、無理です……。監査で絶滅しそうです……」

挿絵(By みてみん)

(つづく)

久しぶりの更新です。こちらは細々ですが公開していきます。よろしくお願いいたします。

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