2-2 勇者の呪い
勇者さんは、私の顔を見てふと何かに気づいたように動きを止めた。
「どうかしました?」
「あ、すみません。千穂様のリボンは世話係の者が選んだんですよね?」
「そうですけど……?」
私が小首をかしげて返事をすると、勇者さんはやっぱりと小さくため息を吐いて、スルリと私の髪のリボンをほどいてサッと胸にしまってしまった。
(んん?? 何か問題でもあったかな?)
私が状況が分からず、きょとんとしているとすぐに勇者さんは花瓶に活けてしてあった白いマーガレットを手に取り、私の髪に挿してくれた。
「千穂様にはこっちの方が似合うかと」
イケメンが私の髪に花を飾ってくれるなんて、なんてファンタジーなの!? やっぱり夢??
「あ、ありがとうございます……」
私がぽーっと真っ赤になりながらお礼を言うと、勇者様は何事もなかったかのようにニッコリ笑った。
一緒にいた神官のユジンさんは『そんなに照れなくても、空色もお似合いでしたけどね』と小さく言って笑った。
そんなちょっとしたやり取りの後、まあ、とりあえずお茶を飲みながらとうながされて、ソファーに座りしばしお茶をすすって和む。。
けど、落ち着けば落ち着くほど、なんだかこれは夢ではなく現実だと自覚して焦って来る。
「あの……。私、いつ帰れるのでしょうか?」
「それはですね……。神のみぞ知るなのですよ」
「帰れないってことですか?」
「そうじゃないですけど、聖女様は代々、我が国の問題を解決するために召喚させていただいているので、それが解決した段階で『天啓』があるそうなんですよ」
どうやら、帰る方法はあるらしいけど召喚時の『課題』が解決しないと、その方法は神様から提示されないらしい。
っていうか、この世界神様がいるんだ?
「今すぐは無理ってことですね……」
私は大きなため息を吐く。
向こうの世界の私の生活はどうなるんだろう……。
帰れたとして、いきなり行方不明とかで事件になってなければいいけど……。
メールで連絡できないものかなぁ。
あとで試してみよう。
「あの……。私、普通の社会人で何のスキルもないですよ? 聖女になると、なにか魔法が使えるようになったりするんですか?」
「いえ、聖女様は聖女様です。こちらの世界に渡ってきたことで、新たな力が開花する聖女様もいるようですが、基本的に能力は変わらないと聞いています」
(だったら、なんで私みたいな凡人を召喚したのよぉぉ。召喚下手か!?)
とは言えずに、私は『うーん』とうなる。
「じゃあ、私って具体的に何をすればいいのでしょうか?」
「聖女様には、勇者様の呪いを解いて欲しいのです」
はひ? 呪い??
いやいや、なんの力もない私には無理でしょう??
私は動揺が隠せず、眉毛をへの字にしたずねる。
「参考までにお聞きしたいのですが、呪いって具体的にはどういうものなんですか?」
「勇者様は、この一年くらい魔物との戦闘時に体調が悪くなるんです。回復魔法や聖水で一時的には良くなるのですが、すぐまたぶり返すため、我々は呪いではないかと判断しているのですが……」
ユジンさんの説明に、勇者さんは不安そうな顔をした。
「症状的には、動悸、息切れ、めまい。発疹、発熱、意識低下という感じですね」
ちょっ、それってどう見ても病気じゃないの……?
(どうして、医師や看護師を召喚しなかったよのよぉぉ!)
私は、絶望で頭を抱えたが、冷静さを装って提案する。
「私では医療知識もないですし、私のことはさっさと帰して、もっと優秀な人材を呼んだ方がいいと思いますよ?」
するとユジンさんは絶望した様子でいう。
「召喚は、最低でも四年に一度しかできないんですよ……」
(なぜに、オリンピック並みの頻度なの!?)
私は心の中で突っ込んだが、すぐに帰れないことと、勇者さんの問題もすぐに解決できなさそうことだけはわかった。
『はぁ……』と深いため息を吐く私とユジンさん。
でも、きっとため息を吐きたいのは勇者さんの方だよね?
「勇者様、お役に立てずにごめんなさいね……」
私は、素直に謝る。
無理やり連れてこられた私が謝る必要は無いのかもしれないけれど、病気が治るかもと期待していたのに裏切られたら、きっとつらいはずだ。
なのに、勇者さんはそんな素振りは少しも見せなかった。
「こちらこそ、巻き込んですみませんでした」
彼からは私を責める空気は少し感じなかった。
やさしすぎるよ、この人~。
周りに気を配り過ぎで、胃を痛くしそうなタイプでは?
(この子、ちゃんとつらい時につらいっていえるのかしら?)
私は、私より少し年下と思われる勇者さんがあまりにもいい人すぎて心配になった。
「あと、俺のことはテオって呼んで下さい。勇者という肩書で呼ぶ必要もないでしょう?」
「でも、みなさんが勇者様と呼んでるのに私だけそう呼ぶのは不敬と言われそうですし……」
ちょっとハードル高いかなぁ。
そういうと、勇者さんがしょぼんとした。
そんなにガッカリしないでよ。
だって、名前呼びしたいけど、恥ずかしいじゃない?
でもでも、心の中だけなら名前で呼んでもいいかな? 推しを名前で呼ぶのはアリだよね?
「では、時々は勇者様を名前を呼んでもよいでしょうか? 私も聖女と呼ばれるのは慣れないので、千穂と呼んで下さい」
「わかりました。千穂」
太陽のような笑顔で名前呼びされて、私の胸はドキドキする。
まぶしいっ!
これは、ちょっと破壊力が高すぎるっ!
(すぐに元の世界に帰るつもりでいたんだけど、すぐに帰れないなら、テオ君のためになにかできること探してもいいかな?)
私は、いつも弟や周りの面倒を見ていた世話焼き気質が、むくと起き上がるのを感じた。




