2-1 勇者の呪い
私はまず、身支度をするために城内にある『聖女の間』に案内された。
そう、ここはお城の中でさっきのは『召喚の間』というところだったみたい。
メイドさんの説明によれば、歴代の聖女が滞在していた部屋らしい。
(ということは、歴代の聖女様はここに居座ることはなく、帰還できたってことなのかな? だったら希望が持てるんだけど……)
色々思うところはあったが、すぐにはどうこうできなさそうなので私は思考を止めた。
(考えてもすぐに答えの出ないことは考えない。時間がもったいないよね。そういう時は目の前のことをひとつずつ片付けていくことで道がみえるときもあるしね)
焦らない、焦らない。
私は、とりあえず部屋のぐるっと見回した。
白を基調にした明るい壁に、ところどころ金のあしらいがある上品な壁が目に入った。
他には、きらきらしてるけど華美すぎない品がいい感じのシャンデリア。
そして、夢の天蓋付きベッドがあった。
(はわわ~、すごい。お姫様みたいな部屋だ!)
私が感激して見回していると、他にも大きなソファーの応接室や、庶民の私から見ると住めそうな広さもある衣類部屋までついていた。
ちゃんと浴室も、書斎もあり憧れのホテルのスイートルームのようだ。
(すごいっ! 天蓋付きベッドだけでも素敵と思ったけど、至れり尽くせりじゃない!)
お姫様のような部屋に大満足しながら、まだ中を見ていない扉を開けるとなんとそこには、見慣れた家電がずらりとあった。
「え、なにこれ!? 使えるの??」
見れば、古い携帯電話に、炊飯器、電気ポット、ドライヤーやホームベーカリー、冷蔵庫まであった。
(これって、使えるから置いてあるんだよね……?)
期待を胸に冷蔵庫を開けると、中には何も入っていなかったがしっかりと冷気を感じた。
(異世界にどうして家電があるの? そして、どうして動いているの!?)
私が驚いて黒い服に白いエプロン姿のザ・メイドさんに説明を求めようとすると、メイドさんがコホンと咳払いをした。
「あの、すぐに聖女様の身支度をするように仰せつかっていますので、ご準備させていただいたよろしいでしょうか?」
「あわわっ、ごめんなさい。よろしくお願いします」
困らせちゃったかな? と、私がぺこりと勢いよく頭を下げると私より少しお姉さんかと思われるしっかり者のメイドさんは嫌な様子を少しも見せずに、くすっと笑って速攻で私のお召し替えをしてくれた。
着替えた衣装は金のふち飾りの付いた白くて長いローブ。
肌触りが良く上質な布を使っているのがわかる。
セミロングよりやや長めの黒髪はゆるく編んで左肩にたらし、キレイな空色のリボンで飾ってくれた。
(この色好きだな~。青空の色ね)
私は気分が上向いた。
うん。顔の方はまあ平凡でそう激変とはいかないけれど、軽く粉をはたかれて淡い色の口紅をつけてもらえたので、ナチュラルメイクで清楚風に完成して見れるようになっている。
少しべそべそうるうるとしたから、顔がひどかったんだよね。
私は、人前で見苦しくない装備になりホッと胸をなでおろした。
*
着替えが終わった私は別室に移動した。
そこは執務室というか会議室という感じだった。
もっとも、部屋自体は私の部屋と同じくらい立派だし、お城の中という感じで上品な調度が並び素敵だ。
執務室か会議室という印象を受けたのは、大きな地図が壁に立てかけられていたことと、黒板のようなものがあったからだ。
私は案内されたその部屋で、座り心地の良いソファーに座る。
目の前には香りのよい紅茶が差し出された。
(あ、飲みたい……。けど、白い衣装だと汚れるよね? 白色、困る~)
思わず主婦目線になってしまう。
不在がちな両親に代わり、長らく家事全般が私の仕事みたいなものだったからだ。
上手く飲めるかどうか、どうしようか悩んでいると背後から、
「それは聖衣で保護魔法が付与されてますから、ちょっとした汚れくらいはすぐに浄化されますよ」
と、声をかけられた。
(なぜ、私の心の声がわかったの!?)
振り返ると、私と似た白い服を着た神官風のお兄さんがにっこりと微笑んで立っていた。
サラサラの肩までの黒髪をセンター分けにしていて、なんだか知的そう。
この人も勇者さんとは別の美人さんだなぁ。
そんなことを考えながら、同行の人を見れば先程の勇者さんだった。
勇者さんは、私と目が合うとニコッとして軽く会釈をした。
二人は、私の前に座る前に自己紹介をした。
「この度、聖女様に置かれまして召喚に応じて下さりありがとうございました。私は神官のユジンを申します」
白い衣装の黒髪美人系お兄さんが、うやうやしく私に頭を下げた。
「稲村千穂です。よろしくお願いします」
私も、反射的に立ち上がってぺこりとお辞儀をする。
やっぱり、清廉な白服は神官さんなのね。
私は納得しながらも、あ、お願いしますっていう返事は私が聖女だと認めた感じだったかも?? と、思ったものの他のあいさつは思い浮かばず、ちらと勇者さんの方を見た。
青いマントの勇者さんは、にこと笑って自己紹介をしてくれる。
「私は、勇者のテオドールです。先程は説明不足で申し訳ありませんでした」
「いえいえ。素早く撤収していただいて助かりました。人が多いのはどうも苦手でして……」
「わかります! 緊張しますよね」
勇者さんは、うんうんとうなずいた。
あれだけ堂々としていても、緊張するのね。
なんだか意外。




