【終】10- 白米を炊く聖女
私は翌朝、この世界に来てはじめて朝食の準備をした。
聖女の部屋には、魔素で動く炊飯器があったからだ。
ニコニコ笑顔の米袋から、5合のコメを炊いた。
まぶしい白米。
久々の銀シャリにお目にかかり、私はテンションが上がる。
軽く塩を振り、おにぎりにする。
(シンプルだけど、これが一番おいしいんだよね)
あとは、焼き鮭をほぐしたものも作ってみた。
私は、シャケおにぎりが大好き。
あと、海苔が調達できたらと思って厨房で相談したら、この国ではあまり食べないけど、今すぐ出ないなら異国から取り寄せることは可能らしい。
今日のところは、海苔なしのおにぎりだ。
お皿に15個のおにぎりが並ぶと、圧巻だった。
「これ、絶対おいしいやつ! 私の握り方完璧っ!」
私は、あんなに具合が悪かった翌日の朝にもやはり剣の練習をしているテオを見つけ、テラスから声をかける。
「テオ君、一緒におにぎりを食べよう!」
私はテオ君の症状は、弟の食物アレルギーに似ていると気付いた。
弟のユウくんには、卵や牛乳、ピーナッツのアレルギーがあった。
食べてすぐに出るものもあれば、後から症状が出るものもある。
そういうのは、遅延型のアレルギーという。
テオ君が毎食食べていたもので共通していたのは、「小麦」だ。
この国の主食は、パンかパスタ。
だから、とりあえず米を食べて症状が出なければ、ほぼ間違いなく小麦の運動誘発型のアレルギーなんじゃないかと私は思った。
まずは、今日一日おにぎりだけを食べて様子を見てもらおう。
私の部屋に来たテオ君は、おにぎりを見てちょっと驚いている。
「千穂、これは食べ物なんですか??
……三角形の白い塩の山?」
「もう、こんなに山盛りの塩を食べさせるわけないでしょ!」
初めて見るおにぎりに、テオ君は少し困惑気味で、私は笑ってしまう。
「聖女メシだから、今日から数日はこれだけ食べてね」
「ええっ!?」
私も、塩おにぎりとシャケおにぎりだけでは辛いけど、テオ君に付き合って数日は毎食おにぎりを食べるつもりだ。
「いただきま~す」
私が手づかみでパクリと食べると、テオ君もマネして食べた。
「あ、塩味がして、噛んでると少し甘いんですね」
もぐもぐしているテオ君のほっぺにご飯粒がついていて、私は笑ってしまう。
「千穂?」
「なんでもない。えっと、こっちのはシャケが入ってるよ」
そうして私たちは、おにぎりをお腹いっぱいに食べた。
朝と昼におにぎりを食べた後、テオ君にはいつも朝にする訓練や模擬戦をしてもらった。
「千穂、あの白い三角の食べ物は呪い避けだったんですか!」
(ふふっ、わんこみたいに言うからなんだかかわいい)
いつもなら呪いの症状が出て苦しくなるところ、今日は大丈夫なようだ。
「そうね~。私の国では、お米には神様が宿ると言われているわね」
「そんな貴重なものだったんですね! すごいですっ!」
私、ウソは言ってないよね。うん。
「だから、テオ君にはちょっと味が物足りないかもだけど、あと数日はおにぎりを食べてみてね」
3日ほど、塩おにぎりとシャケおにぎりでテオ君の呪いの様子を見たところ、訓練をしても魔獣退治をしても症状は現れなかった。
念のため、小麦以外の卵や牛乳などのアレルギー品目も食べてもらったが、異常は見受けられなかった。
私は神官のユジンさんにそのことを説明して、知識をすり合わせた。
ユジンさんも、ナッツや牛乳のアレルギーは知っていたが、まさか小麦とは思っていなかったようだ。
「では、呪いではなく食物への反応だったんですね」
「うん。私の国では米が主食だから、小麦のアレルギーの人は割といるんだ」
「そうでしたか……。さすが聖女様! これで、勇者様も安心できますね」
ユジンさんも胸をなでおろす。
「千穂、ありがとうございます!」
テオ君の顔も明るい。
勇者としてのプレッシャーや悩みは簡単には消えないだろうけど、体の不調が取り除かれただけでも、少しは余裕ができるよね?
私は、自分の知識内から少しばかりだがテオ君の役に立てたことをうれしく思った。
「よかったね、テオ君。小麦が食べられないのはちょっと大変かもしれないけど、主食を米に替えれば肉料理とかは食べられるし、米もいいと思うよ」
「はい。東方の国から少量ですが、この国でも入荷しますから、これからはそうします」
勇者様の呪いがとけたから、私はそろそろ帰還の天啓が来ると思うんだけど……それっていつごろ来るのかな?
私は首をひねった。
そういえば一週間の不在の言い訳をまだ思いついてないし、これからはテオ君の元気な姿をもっと見られるのに、帰らなければならないのもちょっと残念かな?
毎朝の『おにぎりどうぞ』が、ちょっとした日課になっていて、テオ君の『いただきます』を聞くたびに、私の心もふわっとあたたかくなった。
聖女の任務達成のご褒美で、行ったり来たりできないのかな?
そんなことを思ったせいか、さらに3日たっても帰還の兆しみたいなものは見えずに、私は少々焦ってくる。
「もしかして、聖女って私のことじゃなくて、この米袋に描いてあるニコニコ笑顔の麦わら帽子の女の子のことだったりして?」
だって、なんだか米が減るにつれて、米袋の女の子の絵がキラキラして薄くなってるんだもん。
え、もしや私は帰れなかったり?
…………まさかね。
でも、なぜかその考えに、私の胸は少しだけときめくのだった。
☆ お わ り ☆
続きもぼんやりとは考えているのですが、これにて終わりです。
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