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呪われ勇者の専属聖女になりました……けれど私にあるのは10キロの米袋だけです!  作者: 天城らん


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9-1 私は聖女

 

 テオ君は、ベッドで沈み込むように寝ていた。


 聖女の私の部屋よりも、ずいぶんと狭い。

 あるのは、ちょっとした机と書棚、クローゼットとベッドだけ。

 騎士団の宿舎だから、他は共同なのだろう。

 寮やシェアハウスなどが思い浮かぶ。

 きちんと整頓されていて、テオ君の性格が分かる気がした。


 部屋は今、休みやすいようにわずかにオレンジ色のランプの明かりが灯っている。

 少し薄暗いけれど、顔色は分かる程度には明るかった。

 テオ君はまだ少し赤い顔をしていて、発熱や薄く発疹があり苦しそうだ。

 なるべく足音を立てないようにしたが、気配に鋭い勇者様はすぐに私がいることに気がついた。

 テオ君はうっすらと青い目を開けて私を見る。


「千穂も来たんですね。不甲斐ない姿を見せてすみません……」

「無理に起きないでいいよ。辛いでしょう? ゆっくり休んでね」


 かすれた声で体を起こそうとするテオ君を、私は押しとどめる。


「ユジンさん。私、今晩は勇者様の看病をしたいと思います」

「よろしくお願いします。この方、痛みも苦しみもあまり人に言わない人なんですよ。医者からすると心配で」


 ユジンさんは、テオ君よりも少しお兄さんなのだろう。

 その言葉は「もっと愚痴を言い、頼りにしてほしい」という意味に聞こえた。

 テオ君は、少し照れたようにユジンさんから目をそらした。


「千穂に恥ずかしいことを教えないでください」

「わかりました。お薬とお水を置いていきますので、あとはお願いします」


 ユジンさんは、小さく微笑みを残して去って行った。


 残された私は、テオ君の額に濡れタオルをあてがった後、ベッドサイドにあるイスに腰をかけた。

 発疹が出て、熱を帯びた皮膚にはひんやりとして気持ちがいいだろう。

 テオ君はこくんとうなずいた後、ホッとしたように息を吐き目をつぶった。


「…………。」


 私は、ここまで来てなんて声をかけていいのかわからなかった。

 あれだけの力で魔物を倒せる勇者様が、今、目の前で力なく横たわっている。

 こんな姿、誰にも見せたくないし、見せられないんだろうな……。

 勇者というのはそれだけのプレッシャーがある肩書なんだと、短い間だけど見ていてよくわかった。

 誰もが信頼をして命を預ける。

 テオ君は一見、ずっと笑顔で人当たりがいいし、カッコよくて、すごいなと思っていたけれど、誰かに頼っている姿は見かけなかった。


 少し前の私に似ているなと思った。

 誰かに「助けて」とか「手伝って」とか、なかなか言えなくて、全部を背負っちゃってると、あっぷあっぷして溺れそうになっちゃうんだよね。

 でも、海外の仕事が多くて不在がちな両親だけれど、ちゃんと言ったら頼りになったし、弟のユウくんも私のことを支えてくれたし、今では丈夫になって私よりもずっとしっかり者だ。


 弟のユウくんが思い出された。

 いまでこそ健康になったけど、幼い頃はよく看病してあげたものだ。

 テオ君の姿が弟と重なる。

 心配をかけまいと我慢するところが似ているかも。


 そして、この症状も似ていた。


(これはたぶん……)


 弟のユウくんのあのときの症状と似ている。

 繰り返す発熱、発疹、息苦しさ。

 あのときも、食事を変えたら少しずつ回復していった。

 私の中でひとつの確信に変わったが、期待させて「違いました」とがっかりさせたくない。


(明日の朝、試しに私の作った食事を食べてもらってから話してみよう)


 私は、目の前で苦しむ国を守る勇者様で、頑張り屋の青年剣士のテオ君に「一人でがんばらなくていいんだよ」と言ってあげたくなった。


 なんでも一人で抱え込む辛さは私も知っているから。


 

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