6話 登録
大通りの先、石造りの荘厳な建物がそびえていた。
それは街の中心に位置し、冒険者たちの拠点となる「冒険者ギルド」である。
扉の上には大きな紋章が掲げられ、剣と盾、そして翼を模した装飾が光を反射していた。
「ここが……冒険者ギルドか」
空は口元に小さな笑みを浮かべた。
その横で、執事服に身を包んだエドガーが落ち着いた声で告げる。
「はい。この街に限らず、世界中の主要都市にはギルドが設けられています。情報の集積所でもあり、冒険者たちの社交場でもございます」
重厚な扉を押し開けると、内側から一気に喧噪が押し寄せた。
広いホールの中は活気に満ち、冒険者たちが大声で笑い合い、酒を飲み、掲示板に貼られた依頼書を奪い合うように手に取っていた。
木のテーブルがずらりと並び、酒場のような匂いと人いきれで空気が熱い。
「なるほど……まるで戦場前の宴だな」
空の皮肉めいた言葉に、エドガーは口元をわずかに緩めた。
二人は受付カウンターに近づいた。
そこで応対したのは金髪の若い受付嬢。笑顔を浮かべながらも、膨大な数の冒険者を捌き慣れている冷静さが漂っている。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。ご用件は?」
「登録をお願いしたい」
空が答えると、彼女は頷き、机の上に大きな透明な結晶──魔水晶を置いた。
その中に淡い光が揺らめいている。
「では、順にこちらへ手を置いていただきます。魔水晶がステータスを読み取り、冒険者としての適性とランクの判定を行います」
空はエドガーに促した。
(……力は制御しろよ)
エドガーは軽く会釈し、右手を魔水晶に置いた。
結晶が一瞬、強く光を放つ。周囲の冒険者たちがちらりと視線を向ける。
──数値が浮かび上がった
【名前】エドガー・ロウエル
【種族】人間
【年齢】68
【レベル】42
【体力】1750
【魔力】1520
【筋力】1110
【耐久】1097
【敏捷】1385
【精神】1011
【固有スキル】執事の心得 / 膨大な知識 / 精密な動作
「素晴らしいステータスですね!Bランクに値します。」
「なっ……!?」
「いきなりBランク……? 新人でこれは……」
ざわめきがホールを走った。
エドガーは実際にはSランクに匹敵する実力を秘めているが、空に言われた通り力を抑え込んでいた。
それでも元の力が強大であるため、Bランク相当の判定が出てしまったのだ。
受付嬢は驚きながらも記録をつける。
「本来ならBランクからの登録が可能ですが……新人としての様子見を兼ね、Cランクからの活動をお願いするのが通例です」
「承知しました」
エドガーは礼儀正しく頭を下げた。
空はその様子を眺めながら、面白そうに笑う。
「ふむ、なかなか騒ぎになったな」
次は自分の番だった。
空は表情を変えずに魔水晶へと手を置く。
──瞬間、結晶がバリィン!と甲高い音を立てて砕け散った。
「えっ!?」「な、なんだ!?」
周囲がざわつく。受付嬢は目を丸くした。
「し、失礼いたしました! 不良品だったのかもしれません。すぐに別の魔水晶を……」
彼女が慌てて奥から新しい魔水晶を持ってきた。
空は焦っていた。
(まずい……本当のステータスを見られれば、間違いなく騒ぎになる)
次に手を置いた瞬間、空は周囲の冒険者の一人のステータスを強引に模倣し、魔水晶に流し込んだ。
光が揺らぎ、結果が浮かぶ。
【名前】ソラ
【種族】人間
【年齢】17
【レベル】4
【体力】147
【魔力】72
【筋力】53
【耐久】39
【敏捷】34
【精神】18
【固有スキル】なし
「あ、あなたのステータスはFランクですね。」
一瞬の沈黙の後、ホールに爆笑が広がった。
「ハッハッハ! Fランクだとよ!」
「さっきの爺さんがBランクなのに、こっちは雑魚か!」
「執事のほうが主人より強いって、逆だろう!」
空は淡々と笑いを受け流したが、その目の奥は冷ややかだった。
受付嬢も困惑しつつ記録をつける。
「えっと……では、Fランクからの活動開始となります」
その直後、何組かの冒険者パーティがエドガーに声をかけてきた。
「なあ、おっさん。あんた強いだろ? ウチのパーティーに入らないか?」
「執事服なんざ脱いで、俺たちと一緒に稼ごうぜ!」
エドガーは丁寧に首を横に振った。
「申し訳ありません。私は空様にお仕えしております。ほかの方の誘いを受けるつもりはございません」
その言葉に冒険者たちは不満を漏らす。
「なんだよ、それ。なんであんなFランクの雑魚に仕えるんだ?」
「逆じゃねぇか。強いのはあんただろ」
空を指差し、笑い飛ばす。空は気にも留めないように視線を逸らした。
だが、エドガーの眉がわずかに動き、拳が震えた。
「無礼者どもが……」
今にも手を出しそうになるエドガーを、空が横目で制したその時。
「──そこまでだ」
低く響く声がホールを支配した。
視線が集まった先、重厚な扉から5人の冒険者が入ってきた。
全員が洗練された装備を纏い、歩くだけで周囲の空気が変わる。
彼らはこの街でも名を轟かせるAランク冒険者パーティだった。
「《黒鋼の翼》……!」
「まさか、彼らが……」
冒険者たちがざわつく。
先頭に立つのは漆黒の長剣を背負った青年。鋭い眼差しと威厳に満ちた佇まいは、ただ立っているだけで人々を圧倒する。
「俺はカイル・ヴァルハイト。彼が仕えている者を侮辱するのは見苦しいぞ」
後ろに続くのは、
弓を持つ冷静な美女エリス・フェリル、
斧を担ぐ豪快な巨漢ドルガン・ブラッドベイン、
双剣を携えた俊敏な青年リオ・クラウス、
そして聖杖を持つ癒しの少女ミレイユ・アルシア。
カイルは静かに続けた。
「冒険者の価値はランクだけで決まらない。仲間を信じ、支える力もまた重要だ。……その男を笑うなら、俺たちが許さないぞ」
周囲は一瞬で黙り込んだ。
冒険者たちは誰一人として逆らえない。
空は驚きつつもこの状況を目にし笑っていた。




