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創造神の遊戯  作者: 面白味
創造神初めての冒険
51/54

48話 蠢く影

お待たせしました。

テストも今日で終わり、明日から卒業まで休みに入ります。休み期間にたくさん話をかけたらいいなと思っているのでよろしくお願いします。


ロッキド鉱山の地鳴りが止んでから、数日が経過した。

あの日、アーリスの街を飲み込もうとした「古代の災厄」の絶望は、跡形もなく消え去った。

王国全土を駆け巡った新聞の一面は、かつてない衝撃的な見出しで飾られた。


新聞各紙の見出しには、


『ロッキド鉱山の奇跡――古代石喰らいの女王消滅。犠牲者、奇跡のゼロ』

『マフィア《赤犬》、一夜にして壊滅。首領ルガス、副首領ヴォルク死亡』


といった扇情的な言葉が躍った。

事態があまりにも規格外であったため、情報の錯綜は避けられなかったが、確実な事実が二つあった。


一つは、全長100kmに及ぶ天災級の魔物《石喰らいの女王》が、跡形もなく消滅したこと。

もう一つは、これほどの規模の戦いでありながら、一般市民および防衛にあたった冒険者側の犠牲者が、奇跡的に「ゼロ」であったことだ。


死んだのは、強引に女王を目覚めさせ、私欲のために都市を壊滅させようとした《赤犬》の構成員のみ。

皮肉にも、彼らが用意した計画は、彼ら自身を飲み込む形で幕を閉じたのである。


さらに記事によれば、赤犬に囚われていた鉱夫たちの家族や人質は、混戦の最中に「音もなく現れた何者か」によって全員が救出され、安全な場所に保護されていたという。



そして今、都市アーリスは祝祭のような熱狂に包まれていた。 


公式な記録では、この戦いの最大の功労者はSランク冒険者シルヴィア率いる《暁の羽根》、そして死の淵から覚醒し、女王を足止めしたAランク冒険者カイルとされた。 


広場では大掛かりな式典が行われ、シルヴィアをはじめとする《暁の羽根》のメンバー、そして防衛に尽力した冒険者たちが拍手喝采を浴びていた。市民は救国の英雄たちに惜しみない喝采を送る。


命を賭して女王の進撃を食い止めた若き英雄の物語は、尾ひれがついて街中に広まり、現在病院で療養中の彼のもとには、ひっきりなしに感謝の花束と見舞い品が山のように積み上がっていた。


だが、人々の噂話に必ずと言っていいほど登場する存在がもう一つあった。


――空を舞い、指先一つで天災をねじ伏せたという


「謎の仮面の男」。


ギルドの公式見解では「協力関係にある隠密冒険者」と濁されたが、その正体についての議論は、酒場の酔っ払いたちにとって最高の肴となっていた。


「シルヴィア様! 王国騎士団からの勲章授与を!」

「仮面の男についての目撃証言を詳しく!」


記者たちの問いかけに、シルヴィアは疲れの混じった、しかし凛とした微笑みで応えていた。彼女の脳裏には、あのクレーターの底で見た「神の如き後ろ姿」が焼き付いて離れなかったが、それを下手に公言すれば混乱を招く。彼女はただ、「名もなき英雄の助力を得た」とだけ語り、その場を収めていた。


一方で、街の病院の一室。

そこには、全身を包帯で巻かれながらも、穏やかに眠るカイルの姿があった。

黄金の魔力を使い果たし、肉体の限界を超えた代償は決して軽くはなかったが、空の施した「修復」のおかげで、彼の命に別状はない。それどころか、目覚めた時の彼は、以前とは比べ物にならないほど強靭な魔力回路を手にしていることだろう。

街の誰もが、最悪の夜が明けたことを喜び、平和を謳歌していた。


こうして、ロッキド鉱山の騒動は、人々の目には大団円として幕を閉じた……はずだった。




アーリスから遠く離れた、険しい岩山にある隠れ家。


そこには、鉱山での壊滅を免れた《赤犬》の残党たちが集まっていた。十数人の男たちは、頭であるルガスとヴォルクを失い、絶望と混乱の中で今後の算段を立てていた。


「これからどうする……ルガス様もヴォルク様もやられたんだぞ」

「王国騎士団が捜索を始まるのも時間の問題だ。今のうちに、別の国へ逃げるしか……」

「今、俺たちにできることは、とにかく今は身を潜めて、再起のチャンスを待つしかねえ」


暗い洞窟の中に、重苦しい沈黙が漂う。

その時、洞窟の入り口から、カツン、カツンと乾いた靴音が響いた。


「――誰だ!」


残党たちが一斉に武器を構える。

現れたのは、深々とフードを被った、しなやかな体躯の人物だった。その腰には数本の細い筒がぶら下がっており、どこか浮世離れした殺気を放っている。


フードの人物が顔を上げると、残党の一人が声を上げた。


「あ、あんたは……『始末屋』か! 生きていたんですか!」


残党たちが歓喜の声を上げ、駆け寄ろうとする。

《赤犬》の始末屋。組織内でもその正体を知る者はおらず、首領直属で不都合な存在を抹殺してきた最凶の暗殺者だ。

残党たちは救世主を見つけたかのように、表情を明るくした。


「助かった! 幹部のあんたがいれば、まだこの組織は立て直せる。これからどうすればいいか、指示をくれ!」


「始末屋」と呼ばれた人物は、フードの奥で口角をニヤリと吊り上げた。

その笑みは、救済とは程遠い、獲物を前にした捕食者のそれだった。


「……そうですね。どうすればいいか、ですか…」


男の声は、驚くほど澄んでいた。しかし、その響きには生物としての温かみが微塵も含まれていない。


「……とりあえず、まずは貴方たちを殺すとしましょうか。」


言葉が終わるよりも速かった。

シュルル、目に見えないほどの細さの「鋼線」が、洞窟内を網目状に駆け抜けた。

「……え?」

問いかけようとした男の首が、そのままゴロリと地面に落ちる。


「な、何を――がはっ!?」


次々と、残党たちの身体が切断されていく。

始末屋が指先で操るのは、目に見えぬほど細く、しかし鋼鉄をも断ち切る極細の鋼線。それは蜘蛛の糸のように空間を支配し、逃げ場を失った残党たちを一瞬にして肉塊へと変えた。鋼線は魔力を帯びており、肉体だけでなく魂の根源にまで食い込み、その「命」を一本の糸へと回収していく。


「……ガハッ、ギギ……ッ、ナ、ゼ……ッ」


胴体を両断され、辛うじて息のあった男が、血を吐きながら始末屋を見上げる。

男は冷淡に、回収した魂を小さな黒い石へと吸い込ませながら男の首を切断した。


「……やれやれ。期待していたんですよ、《赤犬》には。ルガスもヴォルクも、人間にしてはいい野心を持っていた。

提供した禁忌の魔道具も、古代の女王を揺り起こすための撒き餌に過ぎませんでしたが……。まさか、あのように無様に死んで、貴重な素材をすべて無駄にされるとは。本当に、期待外れですね」


始末屋は、死体の山を見下ろしながら、少しだけ顔を歪めた。


「……まあ、女王を目覚めさせるまでは順調だったのですが。それ以上の存在が、あんな『バケモノ』が介入してくるなんて。ククッ、こればかりは、計算外と言うほかありません」


男の額に、一筋の冷汗が流れる。

彼にはわかっていた。あのロッキド鉱山で起きたことの異常さが。

女王を「赤子」のように扱ったあの仮面の存在。思い出すだけで、自身の存在基盤が揺らぐほどの恐怖を感じる。


「……撤退ですね。これ以上、ここに留まるのは危険すぎる」


男が軽く指を弾くと、蒼い炎が洞窟内を包み込んだ。

死体も、血痕も、赤犬がいた痕跡のすべてが、一瞬にして灰へと変わる。


始末屋は、洞窟を出て外の空気を吸った。

そして、重苦しいフードをゆっくりと脱ぎ捨てる。

月の光に照らされたその頭部には、人間にはあるはずのない、禍々しくも美しい「角」が二本、天を突くように生えていた。


「魔族」――。


人間界に災いをもたらす、古き仇敵の姿。


「仮面の男……あんな存在、まったく感じられなかった。予定を変更しなくてはいけませんね。……『上』には何と報告しましょうか」


始末屋は、アーリスの街の方角を一度だけ一瞥すると、闇の中にその姿を消した。




同じ頃

アーリスの街を一望できる、空間の裂け目のような「異空間」。


空は、豪華なソファに深く腰掛け、エドガーが淹れた最高級の茶を楽しんでいた。

彼の目の前には、現実世界を投影する複数の魔力スクリーンが浮いており、その中の一つには、先ほど洞窟から立ち去った角のある人物のが映し出されていた。


「……ほう。面白い鼠がいたもんだ。エドガー、気づいたか?」


エドガーが静かに傍らに立ち、茶を注ぎ足す。


「はい。先ほど、北の山の方角で不自然な魂の消失と、異質の魔力を感知いたしました。……追われますか? 私が今すぐ、その首を主の前に」


「いや、いい。せっかくの獲物を今すぐ潰すのは勿体ないだろ。あいつがどこに繋がっているのか、もう少し泳がせておいたほうが、後の『遊び』が増える」


「……左様でございますか。空様の好奇心には、いつも頭が下がります」


「おい、皮肉か?」


「滅相もございません。ただの、事実に基づいた所感でございます」


空は楽しそうに笑い、茶を啜る。

彼にとって、世界を揺るがす闇の陰謀も、巨大な女王の復活も、すべては退屈を紛らわすための「舞台」であり「玩具」に過ぎない。そして今、新たな役者が舞台に上がった。それを見逃す手はなかった。


空はソファに横になった。

女王との戦いで「弱体化」のルールに従い、肉体を駆使した遊びをしたせいか、心地よい疲労感が残っている。


「それよりも、明日の予定だ。カイルの奴、目が覚めたらしいな」


「左様でございます。……空様は、足を運ばれますか?」


「ああ。あいつが、あの黄金の力の先で何を見たのか、少し興味がある。それに、俺が治したあの身体が、どう馴染んでいるかも確認しておかないとな

……それから、ラグンの奴もな。アイツには少しプレゼントを用意したんだ。その反応も見なきゃな」


「承知いたしました。では、明朝、病院へ向かう準備を整えておきます」


空はスクリーンを消し、夜の街を見下ろした。

平和を取り戻した街の灯りは温かく、人々の安堵の溜息が聞こえてくるようだ。


地底に眠る災厄は消え、闇の組織は瓦解した。

だが、世界のどこかでは新たな影が蠢き、空という名の「神」を巡る、より大きな渦が形成されようとしている。


彼らの旅は、まだ始まったばかりだ。


死に設定が何個かあったはず……どうするか。

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