47話 美しき終幕
テストまでに書きたかったところまで書けました。
一章も終わりに近づいてきて話のネタがたくさん湧いて来てます。来週テストなんで書けるか分かりませんが、投稿できそうだったらしますのでよろしくお願いします。
荒廃したロッキド鉱山の底。もはや死を待つのみとなった《古代石喰らいの女王》の巨躯を前に、空は静かにその歩みを止めた。
女王の数千の瞳には、もはや怒りも憎しみも残っていない。そこにあるのは、理解の範疇を超えた存在に対する純粋な畏怖と、終わりを悟った者特有の静寂だった。
「お前はいいキャラだったよ、女王。今の時代の人間たちに、これほどの絶望と、そしてそれに対する『光』を見せてくれたのだからな。……カイルの覚醒も、お前がいなければ成し得なかったことだ」
空の声には、戦い抜いた強者への純粋な敬意が混じっていた。
しかし、同時にその声は、決定的な断絶を告げる非情な響きをも帯びていた。
「だが、これで最後だ。お前という生命の終わりに、一体「何」に挑み、そして何に敗れたのか。……俺とお前の間にある『圧倒的な力の差』を見せてやろう。……これを理解して死ぬことが、お前にとって最大の救済になるはずだ」
空が右手の指をパチンと鳴らす。
刹那、女王の意識は肉体から引き剥がされた。
女王が次に目を開けた時、
――そこは、音も光も、空気さえも存在しない「無」の空間。
先ほどまで感じていた岩の感触も、血の匂いも、大気の流れも一切ない。物理法則が崩壊し、上下左右の概念すら消失した灰色の世界。
意識体となった女王は、あまりの事態に困惑し、周囲を警戒するように見回した。
(ココハ……ナンダ……? 死後ノ、セカイ、カ……?)
女王は困惑し、自身の巨体を動かそうとするが、感覚がない。
辺りを見回しても、そこには自分を追い詰めた「仮面の男」の姿すらない。ただただ、静寂が支配する異空間。
その時だった。
その思考を遮るように、世界が激しく揺れた。
地震などという生易しいものではない。空間そのものが、何者かの手によって「揺さぶられて」いるかのような衝撃。
女王が顔を上げると、そこには天を覆い尽くすほどの、巨大な「何か」が顕現していた。
『……ッ!? コ、レハ……』
それは、目玉だった。
あまりにも巨大で、星々を瞳の中に閉じ込めたかのような深淵の色をした左目。その瞳孔が、女王という「小さな塵」を捉える。
そして、世界の輪郭が徐々に明らかになっていく。
女王が今いる「無の空間」は、実は巨大な「ガラス瓶」の中であった。
女王を覗き込んでいたのは、天に届くほどの巨神――否、それは紛れもなく、仮面を脱いだ「空」その人の姿だった。
女王は、瓶の中に閉じ込められた一匹の虫に過ぎなかった。
これまで自分が振るってきた暴力、積み上げてきた歴史、全霊を懸けた咆哮。
それらすべてが、彼にとっては卓上の小さな箱庭で起きた、一時の暇つぶしに過ぎなかった。
彼が指を動かせば、瓶の中の世界は一瞬で崩壊する。彼が息を吹きかければ、万物は消滅する。
『ア……アガ、ガ…………』
言葉にならない衝撃。
圧倒的な、あまりにも圧倒的な「空」との距離。
戦うとか、負けるとか、そんな言葉では到底説明できない「次元の壁」。
女王の魂は、その真実を知った瞬間、あまりの重圧に真っ白に染まり、理解の限界を超えた恐怖が彼女の魂を焼き尽くそうとした瞬間、景色は再び現実のロッキド鉱山へと引き戻された。
『……ハァ、ハァ……ハァッ!!』
女王の巨大な眼球が、激しく痙攣する。
戻ってきた現実は、先ほど見た光景に比べれば、あまりにも優しく、そして儚いものに感じられた。
目の前に立つ仮面の男。彼はもう、敵ではない。
この世界という箱庭を統べる、絶対的な超越者なのだ。
空は静かに宙へと浮き上がった。
「理解したようだな。……さて、恐怖のまま終わらせるのも不憫だ。これまで誰も見たことがない、最高に美しい景色を見せてやろう」
空が両手を広げると、彼を中心に、巨大な半球状の結界が展開された。
結界の内部は、外界の喧騒から完全に隔離された。シルヴィアたちの声も、風の音も届かない、二人だけの「最後」の場。
外の光を遮断したその結界の内部には、満天の星空が映し出される。だが、それはただの星空ではない。
一つ一つの星が、空が編み出した極致の魔力回路として機能しているのだ。
空を中心に、今までに見たこともない複雑な魔法陣が幾重にも重なり、宇宙の真理を解き明かすかのような術式を描き出していく。
一枚、二枚、三枚。
幾重にも重なり合う魔法陣は、一つ一つが白銀と金剛の光を放ち、夜空に浮かぶ銀河のような輝きを放つ。その美しさは、それを見つめる女王の瞳から、死への恐怖を魔法のように消し去っていった。
『キ……レイ、ダ……』
女王の意識の中に、初めて純粋な感動が芽生えた。
これから自分を消し去る力が、これほどまでに澄み渡り、輝かしいものであるという事実に、彼女は魂が震えるのを感じた。
空の魔力が極限まで収束される。
それは破壊の力でありながら、同時に命の源流そのものを感じさせる聖なる鼓動。
「――さらばだ、古代の女王。お前の長い旅路に、相応しい終幕を」
《星穿つ極光の終焉》
放たれたのは、単純な光束ではなかった。
それは無数の光の蝶が舞い、極光のカーテンが波打つ、幻想的なまでの「輝きの奔流」。
その奔流が女王の巨体を飲み込んだ瞬間、轟音すら発生はしなかった。
光に触れた女王の肉体は、痛みを感じる暇もなく、末端から美しい結晶の欠片となって消滅していく。100kmの巨躯が、光の粒子へと変換され、天へと昇っていく。
(アア……温カイ……。コノ、光ノ、中ナラ……悪ク、ナイ……)
女王は、光の抱擁の中で、満足げにその意識を閉じた。
彼女を包んでいた数万年の孤独と飢えは、空が放った美しき一撃によって、跡形もなく浄化されていった。
光が収まり、結界が消失した時。
そこには、あれほど巨大だった古代の災厄の姿は、影も形も残っていなかった。
ただ、クレーターの底には、女王の残滓であった光の粒子が雪のように降り注ぎ、荒れ果てた大地を幻想的に照らしているだけだった。
結界が消え、静寂が鉱山に戻る。
そこには、ただ平らな地面と、澄み渡った夜空が広がっているだけだった。
崖の上でその一部始終を見ていたシルヴィアたちは、言葉を失い、ただ立ち尽くしていた。
「……消えた……。あんな、化け物が……一瞬で……」
「なんて、綺麗な……」
冒険者たちの中には、思わず跪き、祈りを捧げる者さえいた。
彼らが目撃したのは、血生臭い討伐ではない。
それは、荒ぶる神を鎮めるための、あまりにも美しい「葬礼」だった。
空は、光の粉が舞う中、ゆっくりと地上へ降り立った。
仮面を外し、それを異空間へと仕舞う。
彼の表情には、大仕事を終えた達成感よりも、お気に入りの玩具が壊れてしまった時のような、僅かな寂しさが混じっていた。
その時、脳内に穏やかな声が響いた。
『……お疲れ様でした。空様。鼠の掃除は完了いたしました。……そちらも、無事に「遊戯」を終えられたようですね』
エドガーからの念話だった。
「ああ、エドガーか。……いい遊びだったよ。カイルも無事なんだろう?」
『はい。シルヴィア殿たちの手により、安全な場所へ。傷も空様の慈悲により、完治と言って差し支えない状態です』
「そうか。なら、俺たちの出る幕もここまでだな。あいつらが来たら説明が面倒だ。」
空は一度だけ、女王が消えた場所を振り返り、それから歩き出した。
後方では、シルヴィアたちが呆然とこちらを見ている。彼女たちが正気を取り戻し、この「異常事態」の責任者に詰め寄ってくる前に、姿を消すのが得策だろう。
「街に帰ったら、温かい茶でも淹れてくれ。……少し、休もう」
『畏まりました。最高の一杯をご用意いたしましょう』
空はふっと笑うと、虚空を指で切り裂いた。
そこに現れた空間の裂け目へと足を踏み入れ、彼は一瞬にして戦場から姿を消した。
数分後。
シルヴィアたちが息を切らせて辿り着いたクレーターの底には、何もなかった。
あれほど巨大だった女王の死骸も、天を衝くほどの魔力を放っていた仮面の男も。
ただ、そこには不自然なほど澄み渡った空気と、新雪のように真っ白な、正体不明の光の粉が、クレーターを優しく覆っているだけだった。
「……いない。あの人も、女王も……」
シルヴィアは、自身の震える指先で、宙を舞う光の粒子を掴もうとした。
だが、それは指をすり抜け、消えていく。
シルヴィアは夜空を見上げ、震える声で呟く。
「……終わったのね。……何もかも」
《ロッキド鉱山》の壊滅。古代女王の復活。マフィア《赤犬》の崩壊。一人の英雄の覚醒。
世界を揺るがした大事件は、たった一人の「神」の気まぐれな遊戯によって、幕を閉じた。
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