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創造神の遊戯  作者: 面白味
創造神初めての冒険
5/54

4話 出会い



スラム街。


街の喧騒と活気から切り離されたその一角は、まるで別の世界のようだった。

石畳は途切れ、土の地面は泥にまみれ、建物は崩れかけの木造ばかり。

子供が裸足で走り回り、女は薄汚れた布を纏って空腹を紛らわせ、男たちは安酒と賭け事で一日を費やしている。

腐臭が漂い、乾ききった咳の音が至る所から響く。


「……なるほど。活気の裏には必ず影があるか」


空はひとり歩きながら、人々に鑑定を行った。

視線を向けるだけで数値が浮かび上がる。



---


《鑑定結果》


【名前】エルダ・ミルクス

【年齢】12

【レベル】2

【体力】43

【魔力】12

【攻撃力】15

【防御力】10

【俊敏性】38

【スキル】なし



---


痩せ細った子供。

数値は平均50にも届かず、生命力も乏しい。

ただ、生き延びているだけでも奇跡のような環境だ。



---


《鑑定結果》


【名前】ガロン

【年齢】29

【レベル】7

【体力】120

【魔力】5

【攻撃力】80

【防御力】65

【俊敏性】72

【スキル】《喧嘩慣れ》



---


目の前のチンピラ風の男。

数値は冒険者でいえばFランク程度。

街の門を守る兵士と同等か、やや下といったところ。

このスラムでは力を持つ存在だろうが、空から見れば「砂粒」にも等しい。


彼は気まぐれに鑑定を続けながら、歩を進めた。

そして──ふと、妙な存在を見つけた。


路地裏で、ひとりの老人がチンピラに絡まれていた。

老人の身なりは薄汚れ、髪は白く乱れ、背も曲がっている。

だが、纏う雰囲気は他のスラムの住人と明らかに違っていた。

品位がある。

荒れた街にいてなお、瞳の奥に宿る静謐な輝きは失われていない。


「金を出せよ、ジジイ! 何度も言わせるな!」

「今日払わなければ、次はその命をもらうぞ!」


チンピラたちが怒鳴り声を上げる。

老人は毅然とした態度で答えた。


「……生憎と、持ち合わせはない。今ここで差し出せるものは何一つとしてないのだ」


その声音には、卑屈さも怯えもなかった。

かつて身分ある者に仕えた者特有の誇りが漂っている。


空は静かに鑑定を行った。



---


《鑑定結果》



【名前】エドガー・ロウエル

【種族】人間

【年齢】68

【レベル】42

【体力】850

【魔力】620

【筋力】210

【耐久】197

【敏捷】185

【知力】233

【精神】201

【固有スキル】執事の心得 / 膨大な知識 / 精密な動作

【推奨ランク】B(ただし力を抑えている状態)



---


「……ほう」


空の口元がわずかに緩んだ。

このスラムにありながら、冒険者でいえば少なくともCランク、場合によってはBに届くほどの実力を持つ。

しかも戦闘だけではない。

護衛、洞察、指揮──支える者としての技能に秀でている。


「これは、拾い物かもしれんな」


空は歩み寄った。


「……おい、ジジイ! さっさと──」


チンピラの言葉はそこで途切れた。

背後に立つ空に気づいたのだ。

見た目はただの青年。

だが、言い知れぬ威圧が彼らの背筋を凍らせた。


「彼を放せ」


静かな声音。

だが、命令に逆らえば命を落とすと本能に刻み込まれる。


「な、なんだ貴様は……!」

「余計なことに首を突っ込むと……」


言葉を言い切る前に、空は手を軽く払った。


──次の瞬間、チンピラたちは吹き飛んでいた。

まるで見えない拳に殴り飛ばされたかのように、泥の地面を転がる。

骨は折れていない。

内臓も破れていない。

だが、全身を襲う激痛にのたうち回り、二度と立ち上がれそうにない。


「死なない程度に、だ」


空は冷ややかに呟いた。


チンピラたちは這いずって逃げ去る。

残されたのは老人と空だけだった。


* * *


老人はしばらく空を見つめていた。

やがて、深々と頭を下げる。


「助けていただき……感謝申し上げます」


「気にするな」


「しかし……あなた様のような方が、なぜこのような場に?」


空は軽く笑った。


「退屈を終わらせに来ただけだ。……ところで、あんた、ただの老人ではないな?」


老人は一瞬、目を見開いた。

だが、すぐに諦めたように微笑む。


「……鑑みられましたか。かつて、私はロウエル家という名門貴族に仕えておりました。騎士として、あるいは家臣として。

だが今は、その家も滅び、私はただの流浪の身。

剣を振るう日々は遠く過ぎ去ったものと思っておりました」


その言葉には悲嘆ではなく、静かな誇りが宿っていた。


空は頷く。


「ならば──俺に仕えぬか?」


老人は驚きに息を呑んだ。


「……あなた様に、ですか?」


「ああ。力も経験も、まだ充分に役立つだろう。何より、あんたには“品”がある。私はそういう者を求めている」


老人はしばし黙考した。

やがて、ゆっくりと膝を折り、頭を垂れる。


「……この身を、あなた様にお預けいたしましょう。命尽きるその時まで」


空は微笑んだ。


「良い。名は?」


「エドガーと申します」


「ではエドガー。これからは俺の傍に立て」


「御意」


その瞬間、老人の瞳に再び輝きが宿った。

失われていた誇りが蘇り、新たな主に仕える喜びが彼を満たしていた。



スラムの路地に、奇妙な主従が生まれた。

創造主たる存在と、滅びた家の騎士。

その邂逅は、やがて街を、そして世界を揺るがす一歩となるのだった。


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