45話 対話から戦闘へ
投稿頻度が日に日に落ちていってすいません。
一回で書く内容を増やした分だけ時間がかかってしまっています。ですが楽しみにお待ちいただけたら嬉しいです。
崩落し、静寂に包まれていた《ロッキド鉱山》の跡地。
そこへ、空を裂く巨大な生物が叩きつけられた。
ドォォォォォォォォォォォォォォンッ!!
地響きという言葉では生ぬるい。地殻そのものが悲鳴を上げ、かつての鉱山は跡形もなく押し潰される。
もうもうと立ち込める砂塵の中、全長100kmに及ぶ巨躯、《古代石喰らいの女王》が、もがきながらその身を起こした。
「……ガ……ギ、ギギ…………」
岩盤のような皮膚は至る所が剥がれ落ち、そこからドロリとした発光する体液が溢れ出している。
再生能力は未だ健在だが、魂に刻まれた「絶対的な上位存在」への恐怖が、彼女の細胞一つ一つの動きを鈍らせていた。
数分前まで、彼女はこの世界の支配者であるかのように振る舞っていた。だが今はどうだ。その岩盤のような皮膚は砕け、自慢の触手は半分以上が消失している。
女王は、霞む意識の中で空を見上げた。
そこには、ゆっくりと舞い降りる一人の男がいた。
白磁の仮面を被り、ただの布切れに過ぎない服を纏っている。
だが、彼が放つ存在感は、背後の夜空を塗り潰すほどに巨大で、絶対的だった。
「……あんなに威勢が良かったのに、随分と情けない姿だな」
仮面の奥から響く声に、女王の巨躯がびくりと跳ねた。本来なら言葉が通じるはずのない魔物に対し、空が指先をパチンと鳴らした。
その瞬間、女王の脳内に直接、「概念」が直接流れ込む。それまで原始的な本能と意志でしか世界を認識していなかった彼女にとって、それは初めて体験する「言語」という概念だった。
彼女は震える声を振り絞り、自身の意志を無理やり形にする。
『キサマ……ナニモノ……ダ……? コノ、セカイ……ニ……コンナ、チカラ、アッテハ……ソンザイ、シテハ……ナラナイ……ッ!』
女王の思考が、恐怖と共に言葉となって脳内に響く。
数万年の時を生き、数多の文明を喰らい尽くしてきた「天災」である彼女が、生まれて初めて抱いた純粋な疑問。目の前の存在は、人間という種族の枠に収まっていない。
空は地面に降り立つと、首を軽く傾けて曖昧に微笑んだ。仮面の下の瞳は、まるで面白い玩具を眺める子供のように輝いている。
「俺か? そうだな……ただの通りすがりの、この世界を遊び場に決めた観察者とでも思っておけ。この世界で様々な生物が見せる人生という名の物語を観るため、今の時代にどう足掻くのか。それを楽しみにしているんだ」
『カン、サツシャ……? フ、ザケル、ナ……ッ! 捕食スル、側ノ、目……ダ……ッ!』
女王の数千の複眼に、どす黒い殺意が宿る。
しかし、その殺意の裏側には、底の見えない暗い淵を覗き込んだ時のような、根源的な恐怖が張り付いていた。
「そんなことより。何だ、もう終わりか? 古代の女王とやらは、数万年眠っている間に身体が随分となまったようだな。 カイルが見せた意地はとても良かったぞ。なのにお前はその程度でだったのか?」
空の言葉は、煽りとなって女王のプライドを傷つけた。
「もっと見せてみろ。お前が、この世界を過去支配していたのなら、その「絶望」を、自身が「災厄」であることの証明をな。期待外れなら……まぁ、今この場で、塵一つ残さず消し去るからな」
『……ヌ、ヌカセ……ッ!!』
女王の内部で、何かが弾けた。
それは怒りではなく、極限の「死への恐怖」が生み出した生存本能の爆発だった。
カイルと戦っていた時の彼女には、まだ「余裕」があった。自分より格下の存在をいたぶる優越感があった。だが、目の前の仮面の男は違う。この「神」を模した何かを退けなければ、自分の存在そのものが消える
殺される。
今、ここで全力を出さなければ、自身の魂そのものがこの世から抹消される。
「キィィィィィィィィィィィィィィッ!!」
女王が、これまでにない金切り声を上げた。
その巨体から噴き出したのは、先ほどのどす黒い魔力の霧ではない。自らの寿命と、体内に蓄積した数万年分の鉱石エネルギーを強制燃焼させた、純白の熱波だった。
残された触手の一本一本が、超高密度に圧縮された魔力によって黒紫色に輝き、その太さは以前の半分にまで引き締まる。
筋肉は秘銀を凌駕する硬度を得て、周囲の空間さえもその熱量で歪み始めた。
カイルを圧倒した時とは比較にならない、命をかけたた「最終形態」。
「いいぞ。そうだ、その調子だ。もっと見せてくれ。お前が積み重ねてきた『歴史』の全てをな」
空は歓喜に声を弾ませる。
彼はその場で、自身の身体に幾重もの「制約」を課した。
全能の力を振るえば、指先一つでこの星ごと女王を消し飛ばせてしまう。それでは「遊び」にならない。
「……お前に合わせてやるよ。少しばかり、人間らしい不自由さを楽しませてくれ」
空が自身の魔力出力を、千分の一、いや万分の一以上にまで意図的に引き下げる。
人間の姿。その上さらに弱体化した空。だが、その瞳に宿る理知と、無駄のない所作は変わらない。あくまで「人間」の延長線上、しかしその頂点に位置するような、危ういバランスの力。
『イクゾ……、『虚空』ノ、化ケ物メッ!!』
女王が動いた。
100kmの巨体を感じさせない、超音速の突進。
同時に、黒紫に輝く数千本の触手が、物理法則を無視した弾道で空へと殺到した。一本一本が、空中に衝撃波のソニックブームが発生し、空間を切り刻む。
「ははっ、速いな!」
空は走り出した。
地面を蹴るたびに土砂が爆ぜ、彼は触手の隙間を縫うようにして戦場を駆ける。
シュンッ、シュンッ、という鋭い音が空の耳をかすめる。
右から迫る触手を、首を傾けて回避。
下から突き上げる三本の触手を、空中で身を翻しながら足場にして跳ねる。
空は、まるで死神の鎌の間でダンスを踊るかのように、女王の猛攻を紙一重でかわし続けた。
弱体化した今の空にとって、これらの一撃は掠めれば「痛い」どころでは済まないはずだ。だが、彼の超感覚は、女王が触手を動かす前の「意思の兆し」すらも完璧に先読みしていた。
「ギギッ……、チョコマカト……ッ!!」
女王は焦燥に駆られ、さらなる広域攻撃を展開した。
殺到する触手が空の逃げ道を完全に塞ぎ、上下左右、さらには死角である背後までもが、黒紫の槍で埋め尽くされ逃げ場を完全に封鎖した。
退路はない。全方位からの、同時多発的な圧殺。
空は足を止め、深く腰を落とした。
仮面の下で、彼の口角が吊り上がる。
「……いい追い込みだ。だが、まだ足りない」
空は素手を構え、最小限の円を描くように両腕を動かした。
《無象・流転》
シュンッ、シュンシュンッ!!
衝突の瞬間、轟音が鳴り響くかと思われた。
しかし、現実に起きたのは、信じがたい「受け流し」の連鎖だった。
空は、音速を超えて迫る数千本の触手すべてに対し、掌や肘、肩をミリ単位で接触させ、その威力を「逸らし」始めたのだ。
触手同士が空の目の前で互いに激突し、爆発を起こす。
空はその爆風さえも利用し、独楽のように回転しながら、さらに別の触手を弾き飛ばす。
数千の攻撃が空という一点に集中したはずが、彼はただの一撃も受けることなく、静かにその包囲網の中心に立ち続けていた。
『嘘……ダ……。ナゼ、当タラナイ……ッ!?』
女王の思考が恐怖で凍りつく。
全力を出した。命を削った。世界を滅ぼせる力を注ぎ込んだ。
「……ハハッ、悪くない。身体を動かすのは、やはり心地いいな」
それなのに、目の前の男は、まるでお遊びの稽古でもしているかのように涼しい顔をしている。
「さあ、今度はこっちの番だ。受け止めてみろ」
空が右手を天に掲げた。
空間が歪み、先ほど女王を投げ飛ばした時よりは小さいが、それでもビル一棟を優に超えるサイズの《執り成す巨腕》が創造された。
それは、純粋な魔力の塊。
空はそれを、無造作に、しかし力強く、女王の眉間を目掛けて振り下ろした。
『ガ、アアアアアアアアアッ!!』
女王は絶叫し、自身のすべての触手、すべての装甲を一点に集中させ、防御態勢を取る。
カイルの最後の一撃でさえ貫けなかった装甲。それに加え、命を削って生み出した魔力の障壁。
ドゴォォォォォォォォォォォンッ!!
激突の瞬間、鉱山全体がさらに数メートル沈下した。
女王は悲鳴を上げながらも、その巨体を震わせて空の手を押し返そうとする。
全身の筋肉が軋み、魔力の火花が飛び散る。かつてないほどの負荷が女王を襲うが、彼女は必死に踏みとどまった。
「……ほう。やればできるじゃないか」
空は満足げに頷いた。
「拳」を押し止めている女王の姿を見て、彼は純粋な称賛を送る。
「カイルの時も思ったが、死に物狂いの生命力っていうのは、見ていて飽きない。お前、さっきよりずっと良い顔……いや、良い『気配』をしてるぞ」
『……ヌカセッ! ワタシハ、古代ノ……王ダ……ッ!!』
女王は、自身の核を燃やし、空の作り出した巨手を少しずつ、しかし確実に押し戻し始めた。
それは、絶望的な格差を埋めようとする、一匹の羽虫の執念。
『…………ヌ、ウ、ウゥゥゥッ!!』
数秒の膠着状態。
やがて、巨拳のエネルギーが霧散し、女王は辛うじてその一撃を「受け止める」ことに成功した。
空は着地し、少しだけ乱れた服装を整える。
そして、荒い息を吐きながら自分を睨みつける女王を見て、心底楽しそうに声をかけた。
「やればできるじゃないか。俺の一撃を受けて、まだ立っていられるとは。……褒めてやるよ、女王。お前は確かに、この世界の「災厄」だ」
女王の目には、もはや言葉にならないほどの恐怖と怒り、そして認めがたい「歓喜」が混じり合っていた。
強者と対峙し、その一撃を凌いだという、生物としての根源的な充足感。
空という存在がもたらす、死と隣り合わせの「最高の遊戯」。
『……マ、ダ……ダ……。ワタシハ……死ナナイ……ッ!』
「ああ、そうだ。その意気だ。さあ、第二ラウンドといこうか。……次はお前の全力を、俺のこの「肉体」に直接叩き込んでみろ」
空は仮面を指で直し、再び構えを取った。
鉱山の静寂は、次の瞬間に訪れる更なる破壊の前奏曲に過ぎない。
神と怪物の、あまりにも理不尽で、あまりにも美しい「遊戯」が、加速していく。
キャラの絵とか描いてみたいとか思ってるんですけど自分絵が下手くそなの忘れてました。




