37話 《赤犬》のやり方
夜2時くらいに出したかったのに寝落ちしてしまいました。すんません
シルヴィアは距離を取り、槍を構えた。
その背後では結界内に閉じ込められた冒険者が各自戦闘準備を始めている。
結界内部の空気は重く、魔力がぶつかり合う音がパリパリと響き続ける。
「この人数相手に……貴方ひとりで何ができるの?」
シルヴィアが冷ややかに言い放つ。
シルヴィアの問いに、ヴォルクは小さく肩を竦めた。
「確かに——私ひとりでシルヴィア・オルディスを含めた高ランク冒険者を相手にするのは厳しいでしょうね。」
そう言うと、ローブの奥からまたもや黒い金属製の魔道具を取り出した。
「ですが……ひとりで戦うとは、最初から言ってませんよ。」
魔道具が真紅に輝き、地面に魔法陣が展開される。
「《召喚魔具・魔門》——開門。」
ゴオオオオッッ!!
結界内部の地面が割れ、四体の巨大な魔物が姿を現した。
それぞれがAランク級、あるいはそれ以上の気配を持つ。
双角獣ミノタウロス・ロード(A+)
鋼殻ワーム・グラトニア(A)
赤炎猿フレイモンキー(A)
影蜘蛛ナイトスクリーマー(A)
「シルヴィア以外の連中から殺れ。」
魔物たちが雄叫びを上げ、一斉に周囲の高ランク冒険者へ襲いかかる。
「来るぞ! 構えろッ!!」
「くっ……くそ、鬱陶しいのを!」
剣士たちが武器を構え、魔法使いたちが魔術式を展開する。
「……召喚魔道具。しかも魔国で使われる上位型ね。そんな物まで用意していたとは。」
「貴方達をまとめて相手にするには丁度いいでしょう?」
ヴォルクは剣を抜き、にやりと笑った。
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シルヴィアは真っ先にヴォルクの首元に鋭い突きをだした。
「まずは——貴方の首をもらうわ!」
彼女の槍が閃光のように走る。
「《銀閃槍技・連牙》!」
シルヴィアの突きは一本ではない。
残像を伴った五連突きが同時に出現する、極限の速度で放たれる技。
しかし。
ガキィィィンッ!!
ヴォルクは赤刀でその全てを受け流した。
「ほう……。噂通りの速さですね。さすがは閃槍姫といったところでしょうか。」
「私の攻撃を受け流せるなんて、やるじゃない。」
シルヴィアは評価しつつも眉ひとつ動かさない。
「なめてもらっては困りますね。これでも副首領ですから…貴方の足止めも任されている以上、負けるわけにはいきませんからね。」
「残念ね。私も時間がないの。」
次の瞬間、槍の速度が段違いに跳ね上がった。
「《銀閃槍技・星雲穿》!」
無数の光点が降り注ぐように、槍の連撃がヴォルクへ襲う。
ヴォルクは最初こそ受け流していたが——
ひと突きが肩口を掠め、赤い血が地面に弾けた。
「……っ」
「受けきれなかったわね。」
シルヴィアの目が鋭く光る。
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その頃、周囲では高ランク冒険者たちが魔物と激戦を繰り広げていた。。
「《雷迅斬》ッ!!」
「《火華連弾》!!」
「この程度で止まると思うなよ!」
ミノタウロスの巨体が崩れ、蜘蛛の胴体が裂け、炎猿は首を断たれ、鋼殻ワームが爆散する。
「倒したぞ!」
「これならまだやれる!!」
「シルヴィアに速く加勢しなければ!——」
冒険者たちが息を整えたその時——
ヴォルクがニヤリと笑った。
「倒した? 本当にそう思っているんですか?」
ズ……ズズズ……
死んだはずの魔物たちの肉体が黒い魔力を吸い込み、ひび割れた体が再生されていく。
「な、なんだこれは……首を切ったはずだぞ!」
「こんなことありえねぇ……!」
ルガスは余裕たっぷりに説明した。
「それは——《共鳴再生》。
魔物たちは“私の魔力”と共鳴しています。
使用者の強さと比例して魔物も強化されていく。」
黒い魔力がヴォルクの周囲で渦巻く。
「そして——私が死なない限り、魔物たちは不死身です。」
「……っ!?」
その衝撃の事実に冒険者たちは驚くが、シルヴィアだけは冷静に攻撃を続ける。
しかし、
シルヴィアの攻撃はヴォルクに傷をつけることはできるが致命的なダメージはまだ与えられていない。
「おっと、そうはいきませんよ。」
そしてヴォルクは懐から小瓶を取り出した。
赤黒い液体がドロリと揺れ、瓶から強烈な魔力が漏れ出す。
「こんな時のために、私特製の“強化薬”も用意しているんですよ。」
「それは……あなた達が扱ってる麻薬ね。」
シルヴィアの声は低く冷たい。
「そう。《狂犬血》です。これを…」
ヴォルクは笑ったまま薬を一気に飲み干す。
「——ッッ!!!」
体が赤黒く膨れ、血管が浮き上がり、魔力が跳ね上がる。
「ガアアアアアアッッ!!」
ステータスが明らかに二段階、三段階と上昇している。全身が赤黒い魔力に包まれ、血管が浮き、体格が一段階膨れ上がった。
「ふぅーー……ッ! 最高だ……!」
シルヴィアは即座に構えを取り直す。
「……なおさら、あなたを早く始末しなきゃいけないようね。」
シルヴィアは槍を回し、構えを変える。
「――少し本気を出さなければいけないみたいね。」
足元から彼女の魔力が膨れ上がっていき、槍の刃が巨大な光刃へと変わっていく。
ヴォルクが剣を構え、笑う。
「かかってくるがいい……シルヴィア!!」
結界内部で銀と紅の閃光が激突し、
衝撃波が周囲を飲み込んだ。
二人の魔力が結界内全体を震わせ、
激突の瞬間が迫る——。




