31話 目覚める封印
再来週またテストなんで書けんかも
鉱山第三層奥深く――立ち入り禁止区域の最深部。
灯りは無く、空気はどろりと重く湿っていた。
空とラグンが立つ封印の間は、古代の魔術式で構築された石壁が不気味に光り、地面に刻まれた魔法陣は黒い脈動を発している。
中心には、ラグンが捧げた黒い封印石。
それがゆっくりと浮き上がり、まるで心臓の鼓動のように“ドクン、ドクン”と赤黒い光を放ちはじめていた。
「……始まったか」
空が呟く。その声は驚くほど冷静だった。
その隣で、ラグンは震えていた。
覚悟を決めたと言いながら――その顔は迷いと恐怖と後悔でぐしゃぐしゃだ。
「……空さん。もう……戻れません……」
ラグンの声は震えていたが、その目だけは決意に満ちていた。
空は深い溜息を吐く。
「戻れないか。まあ、そうだろうな。」
軽い調子で言うのに、声にはどこか冷えた響きがある。
ラグンは封印石を見ながら、続けて言う。
青白い顔。握り締めた拳から爪が食い込み、血が滲んでいる。
それでも彼は視線を上げた。
封印石が光り、魔法陣が唸りをあげるたび、ラグンの決意もまた強くなる。
「空、さん……。これが……俺の選択なんです」
空はラグンを見つめた。その眼差しは、優しくもあり、冷徹でもある。
「ラグン。……俺は止めないさ」
「え?」
ラグンは思わず顔を上げる。
(止めたら、この先どうなるか見れねぇだろ)
空は肩を軽くすくめ、言葉を続けた。
「これが“お前の人生”なら、俺が横から正義面して止める権利はない。
家族を救いたい。そのために道を踏み外す……まあ、悲劇のストーリーとしては十分すぎるほどだ」
その言い方は、まるで他人事のように淡々としていた。
だが続く言葉は鋭かった。
「だが――お前を信じていた仲間たちはどうする?」
ラグンの目が揺れる。
「お前に採掘を教えた父親はどう思うだろうな。
この鉱山で一緒に働いた労働者たちは? あいつら、お前のことを信頼して可愛がってたぞ」
言葉が、胸に突き刺さる。
「…………っ」
ラグンの喉が詰まった。
空は続ける。
「その全員が、お前の行動で死ぬ可能性がある。
“皆を犠牲にして”選ぶ道が……本当に父親の願いだと、胸を張って言えるのか。それでも家族のためにやるのか?」
沈黙。
封印石の脈動音だけが空間を支配する。
「俺だって……! 仲間は大切だ! 父さんとの約束だって……守りたいんです!
でも……でも家族が《赤犬》に人質に捕られてるんだ……!
父さんが死ぬ時に言ったんです!
“お前が家族を守ってくれ”って……!
だったら、俺は……俺は……!」
叫びながらも、ラグンの両手は震えていた。
空はその姿を、静かに見つめた。
(あー……これはもう止まらんタイプだな。
悲劇のストーリーの主人公そのものじゃねーか。)
だが、どこか少し楽しそうに笑っていた。
「そうかよ。
……まあ、お前の人生だ。好きに選べ。」
封印石がさらに強く光り始め、黒い魔力が舞い上がる。
激震。
空気が押しつぶされるような重圧。
地の底から何か巨大なものが目を覚まそうとしている。
坑道の奥で、岩が砕ける音が連続して響いた。
封印石が――起動した。
「……来るぞ」
空はわずかに目を細めた。
封印石が割れた。
砕けた破片が宙へ舞い上がり、黒い光が天井に突き刺さる。
地響き、轟音。
坑道全体が跳ねるほどの振動が走る。
石壁に走る古代文字が赤く輝き、魔法陣が反転しとてつもなく巨大な“開門式”に変化する。
封印が、完全に解除された。
「……っ!」
ラグンは膝をつき、目を見開く。
空は逆に、わずかに口角を上げた。
「なるほどな。こりゃまた随分とデカいのを封じてたもんだ」
その軽口とは裏腹に、その目は鋭く光る。
〈世界を見る目〉が発動し、空の視界に膨大な情報が流れ込む。
封印の規模、魔力の深さ、そこに眠る存在。
(……でけぇ。
これはそこら辺の強い魔物なんかじゃねぇ。
鉱山どころか……山脈を一つ吹っ飛ばすレベルだな。)
だが口元はにやりと笑った。
「──面白い。」
予想以上の代物に、空はむしろ興味深そうに目を細めた。
次の瞬間――地面が崩れた。
巨大な振動が何十層にも重なり、坑道全体が軋んだ。
天井の岩盤が亀裂を走らせ、砂が滝のように降り注ぐ。
「ラグン。舌を噛むなよ」
「え……?」
空は何の前触れもなく、ラグンの身体を肩に担ぎ上げた。
そして――
ズドォン!!
爆発のような音と共に、地を蹴った。
爆風を巻き起こし、空は坑道を高速で駆け抜ける。
「うわああああああああああ!!!?!?!?!?」
「暴れるな。落とすぞ」
「ヒッ!?!?!?」
空の脚が残像を残し、坑道を猛スピードで進んでいく。
崩れ落ちる岩を飛び越え、裂け目を踏み台にし、時に壁を走り抜ける。
空は走りながら、念話をエドガーに繋ぐ。
「エドガー、通信つながるか?」
『こちらエドガー。……空様、お怪我は?』
エドガーの声は落ち着いている。刺された後とは思えないほどだ。
「その余裕っぷり、傷は完全に塞がったようだな。カイルの様子はどうだ?」
『休んでおられます。あの後すぐに空様の跡を追いかけようとしていましたが何とか引き留めました。』
「ならよし。カイルを連れて坑道から脱出しろ。鉱山全部崩れるぞ」
『了解です』
エドガーは落ち着いていた。
それを聞いて空は鼻で笑った。
(やはり頼りになるのはこいつだな……。)
足を止めずに第三層を突破。
二層、そして一層へと最速で駆け上がる。
空の速度は増す。
背後で、巨大なものが這い上がってくる音が響く。
――ゴゴゴ……ゴゴゴオオオオオオ……!!
それはまるで山が動くような音だった。
ラグンは顔面蒼白で震えている。
「な、なにあれ……なにが……起きたんだ……!」
「お前が起こしたんだろ」
淡々と返しつつ、空は光のない坑道を一直線に駆け抜け――
外へ飛び出した。
同時に鉱山が轟音を上げて崩れ落ちた。
地鳴り。爆音。砂煙。
鉱山全体が捩じれ、裂け、大地が抜けるように崩壊した。
そして――その中心から、現れた。
---
地面から突き出したそれは、もはや“生物”の枠を超えていた。
黒い岩の甲殻。
無数の触腕のような石の尾。
そして、天を覆うほど巨大な体躯。
空が鑑定すると、数値が狂ったように跳ね上がる。
《石喰らいの女王(Queen of the Stone Eaters)》
推定体長:100km
種族:古代ワーム種(絶滅扱い)
備考:大地を削り取る原初種
空は目を細め、軽く口笛を吹いた。
「……でけぇな。
あんなもの、どうやって人間が封印したんだ」
土煙が晴れ、山脈の向こうまで伸びる巨大な蛇のような影が姿を現す。
その頭だけでも城のような大きさ。
石と金属で覆われた身体は、もはや“地形そのもの”。
空の隣に、エドガーとカイルが駆け寄ってくる。
カイルはその巨大さに目を剥いた。
「な……なんだあれは……!」
エドガーだけは平然としていた。
「空様。対処はどうされますか?」
空は肩を回しながら笑う。
「どうもこうも……」
巨大な女王が地鳴りと共に咆哮を上げる。
空の髪が風圧で揺れる。
「とんでもなく面白い展開になってきたじゃないか。」
巨大な女王を見上げ、唇に笑みを浮かべた。
その余裕は――まるで、すべてが“面白い玩具”に見えているかのようだった。




