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創造神の遊戯  作者: 面白味
創造神初めての冒険
32/54

30話 決意の実行

記念すべき30話目です。

これからもどうぞよろしくお願いします。


 

 岩の破片が飛び交い、魔力の閃光があたりを照らす。

 カイルと巨大な《石喰らいの主》の戦いは、終盤に差し掛かっていた。


 そのぶつかり合いはまさに“激突”という言葉がふさわしい。 


 剣を握る腕は筋肉がきしみ、肩から煙のような魔力が噴き出していた。

 まさに“戦士”の姿。


 対する主は、全身を分厚い岩の装甲で覆い、口からは高熱の蒸気を吐き出している。

 その巨体は十メートルを超え、地を這うたびに地鳴りが起きた。


 それをカイルは真正面から斬り伏せていた。


「――っはぁっ!!」


 鋼の魔力を纏うカイルの剣が、光の弧を描く。

 刃が主の装甲を削り取り、岩片が火花のように散った。

 衝撃で地面が裂け、空気が振動する。


 主は吠えた。耳をつんざくような金切り声を上げる。

 尻尾を振り下ろし、岩肌を粉砕する勢いで叩きつけた。

 だが――カイルはそれを避けなかった。

 一歩踏み込み、あえて攻撃の間合いに入る。


「はぁあっ!」


 カイルの動きは止まらない。

 斬撃を重ね、主の装甲を削ぎ落としていく。

 十撃、二十撃、三十撃──そのたびに鋼の軌跡が空を走る。


「はああああッッ!!」


 咆哮と共に振るわれた最後の一撃が、主の肩口を深く抉った。鋼の魔力が渦を巻き、カイルの全身から光が溢れる。

 剣が主の胴体を斬り裂くと、硬質な装甲が砕けて飛び散った。

 露わになった肉体から、どす黒い体液が溢れ出る。


「……やるな。思ったより、手強かったぜ」


 カイルは息を吐き、剣を構え直す。

 主もただでは終わらなかった。

 装甲を砕かれたことに対する怒りにより、次の瞬間には地面へ潜り込んだ。


 ゴゴゴ……ッ!

 地面が波打つように盛り上がり、砂塵が吹き上がる。

 地中を走る魔力の気配が、カイルの足元を素早く移動していく。


「潜ったか……!」


 周囲の岩壁から振動が伝わる。

 主の狙いはただ一つ。地中からの奇襲。

 その牙で、獲物を確実に仕留めるつもりだ。


 カイルはわずかに息を整えた。

 額から汗が流れる。

 だがその目は、獣のように鋭く光っている。


「……これで最後だ!」


 彼は深く息を吸い、剣を正面に構えた。

 その瞬間、全身から放たれる戦気が異様な輝きを帯びる。


「――秘儀・《黒鋼くろがね》!」


 カイルの身体を包んでいた鋼の魔力が、黒く変化した。

 闇と鋼が溶け合い、重厚な輝きが空気を震わせる。

 その剣は漆黒に輝き、鋼そのものが意志を持ったように脈打っていた。


 次の瞬間――

 主が地中から飛び出した。

 岩を砕きながらその巨体が現れ、巨大な顎がカイルに迫る。


 だが、遅い。


「見きった……!」


 カイルは身をひねり、紙一重でその突撃を避けた。

 そして、剥がれた装甲の隙間を見逃さない。


 刹那、剣が閃く。


「――斬り裂けぇッ!」


 黒く光る刃が主の体に突き刺さる。

 その瞬間、黒鋼の魔力が内部に流れ込んだ。

 爆ぜるような音が響き、主の体内から黒い閃光が走る。


「爆斬破岩っ!」


 次の瞬間――

 主の巨体が膨張し、内側から爆発した。


 轟音とともに岩と肉片が四方八方へ吹き飛び、

 地面を黒い煙が覆い尽くす。


 カイルは剣を下げ、荒い呼吸を整えた。


「……ふぅ。やっと……終わったか。」


 その背後で、ラグンはその光景を呆然と見つめていた。

 あまりの力の差、あまりの光景。

 これがAランク冒険者の実力なのだと、肌で理解する。


 しかし――その気持ちとは別にラグンは決意を固めていた。


(……すごい。本当にすごい……でも、俺は……)


 ラグンの視線が自分の手元へ落ちる。

 懐の中、震える手が小さなナイフを握っていた。

 刃先が鈍く光る。


(家族を……助けるには、やるしか……ないんだ)


 鉱山の奥で《赤犬》の幹部から言われた言葉が、頭にこびりついている。


 ――「鉱山に潜入している奴を起こせ。お前の家族が大事なら、命令に従え」


 その言葉を思い出すたびに、胸が痛んだ。

 だが、それでも手を止めるわけにはいかない。


(ごめんなさい、エドガーさん……)



 脳裏に浮かぶのは、幼い弟と母の姿。そして自分に鉱山での仕事を教えてくれた、父の姿。

 縄で縛られ、恐怖に怯える家族。

 そして、その背後に立つ、笑う男の影──《赤犬》の幹部たち。


 静かに息を吸い、足を踏み出す。

 目の前ではエドガーが、カイルと主の戦いの結末を見届けていた。

 警戒を緩めたその背中に――ラグンの影が近づく。


 ナイフを抜き、わずかに躊躇した。

 だが、その一瞬の迷いを振り切り、ラグンは力を込める。


 ――グサッ。


 「──っ!」


 刃が肉を貫き、血が飛び散る。

 エドガーが苦悶の声を漏らし、膝をつく。

 血が溢れ、床を濡らす。


「ラ……ラグン……? お前、何を……!」


 カイルが目を見開く。


 ラグンは歯を食いしばり、顔を上げた。

 涙がこぼれそうになるのを必死でこらえながら、震える声で呟く。


「……ごめんなさい……! 本当に……!」


 そのまま彼は走り出した。

 奥へ、誰も足を踏み入れたことのない立ち入り禁止区域へ。

 目的は一つ、《赤犬》に命じられた“何か”を起こすため。


「待てッ!」


 カイルが追いかけようと踏み出す。

 だが、エドガーの身体を支えていた空が手を上げ、彼を止めた。


 「……カイル、俺が行く。お前は体力を回復させながらエドガーを頼む。」


 空はエドガーにちらりと目をやり、小さく頷く。

 (……演技は上出来だ。あとは俺があいつを追う)


そう心の中で呟くと、空は走り出した。

 粉塵の中、足音だけがこだました。


 カイルはその背を見送りながら、エドガーを抱き起こした。

 「おい、しっかりしろ! エドガー!」

 「……だ、大丈夫……です……少し……刺されただけなので……」

 エドガーは苦痛を装いながらも、空の意図を理解していた。

 (刺された傷がもう塞がっている……私の肉体はやはりあの時に変化していたのか。)


 だがその背後では、すでに空の姿が闇へと消えていた。


…………


暗い坑道を駆け抜ける。

 灯りはない。

 だが空は迷わなかった。

 ラグンが残した足音、微かな魔力の残滓を辿る。


 そして、やがて辿り着く。

 そこは鉱山のさらに奥、一般の労働者ですら立ち入りを禁じられた区域。

 古く崩れた坑道の奥に、禍々しい魔力の流れがあった。

 壁には古代文字のような模様が刻まれ、地面には封印の魔法陣が浮かび上がっている。


 ラグンはその中心で膝をつき、懐から取り出した黒い石を掲げていた。

 「……これを、起動させれば……家族は助かる……!」


 その声は震えていた。

 恐怖でも、罪悪感でもない。

 ただ、“必死”だった。


 その瞬間、足音が響いた。

 ラグンが振り向くと、そこに空が立っていた。

 無言で、ただその手元の黒い石を見つめている。


 「……空、さん……」

 「よせ、ラグン。それを起動したら、もう後戻りはできない。」


 ラグンの目が潤む。

 「……でも……俺の家族が……《赤犬》が……!」


 「わかってる。」

 空の声は静かだった。

 「だが、それを起こせば……この鉱山が消えるぞ。」


 沈黙。

 ラグンの手が震える。

 黒い石の中から、うごめくような魔力が漏れ始める。

 封印の魔法陣が、ゆっくりと解けていく。


 「……っ!」

 空の瞳が鋭く光った。


「ごめんなさい。俺は家族を助けたいんだ」

ラグンはそう言うと黒い石を魔法陣に捧げた。


 《赤犬》が命じた“何か”。

 その“何か”が、今まさにこの鉱山で目覚めようとしていた。



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