25話 鉱山内部へ
遅れて申し訳ありません。
最近眠くなるのが早くて描けませんでした。
乾いた風と共に、岩肌の匂いが濃くなっていく。
カイル、空、エドガーの三人は、ラグンの後を歩きながら鉱山の入り口へと向かった。
周囲では労働者たちが見送りに集まり、期待と不安の入り混じった表情を浮かべている。
「頼んだぞ、ラグン!」
「冒険者の人たちをしっかり導くんだ、だが……無茶だけはするなよ!」
「もし危険な目にあったら遭ったら、お前はすぐに引き返せ! 命だけは落とすなよ!」
鉱夫たちの声が飛ぶ。
ラグンは背後を振り返り、照れくさそうに片手を上げた。
「へへっ、わかってますよ! 心配いりません! 今回はすごい冒険者さんたちが一緒ですから!」
隣でカイルが小さく笑みを浮かべる。
「心配するな。俺たちがいる限り、失敗することはないぜ。」
その言葉に鉱夫たちは少し安心したように頷き、
「頼もしいな……」「あの黒鋼の翼のリーダーだ、きっと大丈夫だ」
と口々に囁く。
周りの鉱夫たちはこの青年を信頼しているのが伝わる。それほどに彼は、この鉱山で慕われているのだ。
「では……これより、鉱山に入ります!」
ラグンが高らかに宣言する。
労働者たちは一斉に頭を下げ、祈るように手を合わせた。
その光景を背に、四人は暗がりへと足を踏み入れる。
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中に入ると、まず驚いたのは明るさだった。
岩壁に沿って規則的に設置された魔導灯が、白く淡い光を放っている。
天井は高く、支柱には頑丈な魔鉄の補強が施されていた。
岩盤の表面は滑らかに削られ、車輪の跡が続いている。
「入り口付近は、ずいぶん整備されているんだな。」
カイルが感心したように言う。
「ええ、ここまでは取れた鉱石などの判別などを行う場所ですから。しっかり整備されていますよ。」
ラグンは振り返りながら笑った。
「この鉱山は《ロッキド鉱山》といいます。第一層から第三層に分かれていて王都にも納めている鉄のほとんどはここで採れるんですよ。」
「ロッキド鉱山か。」
空が軽く頷き、岩肌を観察する。
「鉄分が多い岩だ。触ると少しざらついている。」
「さすがですね!」
ラグンは目を輝かせながら言う。
「ここの鉄は質が良くて鍛冶師たちが好んで使うんです。普通の鉄だけじゃなく、奥の方では《魔鉄鋼》も採れるんですよ。」
「魔鉄鋼?」
空が小さく問い返す。
「ええ。」
ラグンは歩きながら説明を続けた。
「魔鉄鋼は、魔力を帯びた鉄鉱石でしてね。普通の鉄よりずっと硬く、魔力伝導率が高いんです。だから魔法剣や魔道具の素材として重宝されます。……ま、滅多にお目にかかれませんけど。」
「なるほど。」
エドガーが微笑んだ。
「魔力を扱う者にとっては理想の素材というわけですな。」
「そうです!装備を作ろうにも一部の職人しか扱えませんし、一本の魔鉄剣を作るだけでも、かなりの時間と技術を使うんです。」
カイルが口笛を吹いた。
「そりゃすげぇな。そんな珍しいもんが採れるのか、この鉱山は。」
「ええ、でも……」
ラグンの声が少し沈む。
「最近はその魔鉄鋼が採れる鉱脈の近くで《石喰らい》が出現しはじめたんです。奥に行けば行くほど、奴らの数はどんどん増えていきます。今では第一層にも出現し始め、作業が止まってしまいました。」
「地中を這う魔物……」
空は小さく呟き、指先で壁に触れる。
奥の方から、多くの生物が脈動するような魔力の波を感じた。
(……ただ魔物の大量発生というわけではなさそうだな。)
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歩みを進めるごとに、空気がひんやりとしてくる。
魔導灯の数も少なくなり、薄暗い陰影が増えていった。
「ここから先は危険地帯に入ります。」
ラグンが腰のランタンを灯し、慎重に足を進める。
カイルは剣の柄に手を置き、いつでも動けるように構える。
「どのあたりで《石喰らい》が出る?」
「第二層の奥です。今は確認できていない場所ですが、《石喰らい》が出現したのはそこからです。」
「第二層までか。……思ったより深いな。」
カイルが呟く。
「はい。途中に作業休憩所があります。そこまで行けば、少し休めます。」
空は周囲を見渡した。
坑道の壁には掘削の跡が無数にあり、いくつもの鉱石の光が反射している。
金属のきらめきの中に、微かに青く光る鉱脈が見えた。
「……これが魔鉄鋼ですか。」
エドガーが目を細めて言った。
ラグンは頷く。
「ええ、あの青い光。魔力が流れてる証拠です。触れるとほんのり温かいんですよ。」
空は興味深そうに近づき、そっと手をかざした。
岩の奥で脈打つような魔力が、まるで心臓の鼓動のように伝わってくる。
(これは……石喰らいの痕跡じゃない。別の何かの跡のような……?)
一瞬、空の瞳に鋭い光が宿ったが、彼はすぐに表情を戻した。
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ふと、エドガーが歩きながら問いかけた。
「ラグンさん、あなたは若いのにずいぶん頼られているようですね。」
ラグンは少し照れ笑いを浮かべた。
「はは、まぁ……父がこの鉱山の監督をやってまして。小さい頃からここに出入りしてたんです。だから人よりちょっと鉱脈の場所や地形に詳しいんですよ。」
「なるほど。お父様の跡を継いだというわけですな。」
「ええ。……本当は鉱夫より商人になりたかったんですけどね。でも、こうして現場を見て支えてると、やっぱり悪くないって思います。」
その言葉に、カイルが感心したように頷く。
「立派だな。お前みたいな歳の奴でもうここまで成長しているなんてな。」
「いやぁ、やめてくださいよ! そんな立派なもんじゃ……」
ラグンは頭を掻きながら、照れくさそうに笑った。
その様子に、空は静かに目を細めた。
――純粋な青年だ。
人を思い、仕事に誇りを持っている。
だからこそ、この鉱山を守りたいと本気で思っているのだろう。
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やがて通路の先に、広い空間が見えてきた。
いくつもの木箱や器具が積まれ、休憩用のベンチもある。
「ここが作業者の休憩所です。」
ラグンが足を止め、明かりを灯す。
「この先が第二層の入り口です。第二層から、地鳴りや魔物の声が多くなってくると思うので気を付けてください」
空たちは目を細め、重厚な鉄扉を見つめた。
その表面には、何かが擦ったような巨大な跡が残っていた。
岩粉と焦げた匂いが混ざり合い、その後から《石喰らい》が大量にいることが分かる。
「……なるほど。」
カイルが低く呟く。
「この奥に“奴ら”がいるってわけか。」
「はい。」
ラグンが頷いた。
その表情からは、わずかな恐怖と、それ以上に強い決意が見えた。
「どうか……お願いします。この鉱山を、皆の仕事場を守ってください。」
その言葉に、空はゆっくりと頷いた。
「任せておけ。ここを脅かす存在は、俺たちが消してやろう。」
エドガーも軽く礼をし、カイルは頼もしい笑みを浮かべて剣の柄に手を置いた。
「行こうか。地の底に巣食う化け物を狩りに。」
一行は、暗く深い第二層への扉を開いた。




