21話 麻薬の力
グロックとリューセル、二人は互いに目を合わせ、懐からあるものを取り出す。
「……やるしかねぇ」
「あの人に殺されるくらいなら、これに頼るしかないな」
彼らが取り出したのは小さなガラス瓶だった。中には濁った赤黒い液体が揺れている。
グロックは躊躇なく蓋を噛み千切り、中身を一気に飲み干した。
リューセルも同じように喉へ流し込む。
ゴク、ゴク……!
次の瞬間、二人の全身が震え、血管が浮き上がる。筋肉が異常な速さで膨張し、皮膚の下を赤黒い光が走る。リューセルの目は血走り、グロックの皮膚は紫色に染まっていった。
「うおおおおおおッッ!!!」
「はぁぁぁぁッッ!!!」
周囲に圧迫感を伴う異様な気配が溢れ出す。
カイルは剣を構えたまま低く呟いた。
「……麻薬か」
少し離れた場所から見ていた空も、同じ言葉を漏らす。
「ふむ……やはり、ああいう奴らは持っているもんだな。顔つきまで化け物になってるじゃないか」
空は再び2人に向けて鑑定を行った。
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【名前】グロック
【種族】人間(麻薬強化状態:異常)
【年齢】34
【レベル】52
【体力】1480 → 2960(異常↑)
【魔力】720 → 1440(異常↑)
【攻撃力】1390 → 2780(異常↑)
【防御力】1520 → 3040(異常↑)
【俊敏性】880 → 1760(異常↑)
【精神力】310→155(異常↓)
【スキル】怪力/肉体強化
【名前】リューセル・カルネア
【種族】人間(麻薬強化状態:異常)
【年齢】29
【レベル】53 → 106(異常↑)
【体力】1280 → 2560(異常↑)
【魔力】1050 → 2100(異常↑)
【攻撃力】1140 → 2880(異常↑)
【防御力】970 → 1940(異常↑)
【俊敏性】1560 → 3120(異常↑)
【精神力】320 → 160(異常↓)
【スキル】二刀流/剣速強化/暗殺術
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「数値が倍化……逆に精神力は半分に。副作用で死ぬかもしれないのに、それを迷わず飲むとはな」
空は顎に手を当て、興味深そうに笑った。
*
変貌した二人が咆哮し、同時にカイルへ襲いかかる。
「潰してやるぅぅぅうッッッ!」
「切り刻んでやるぜッ!」
グロックの巨腕が地響きを立てて振り下ろされ、リューセルの二刀が稲妻のように閃く。
カイルは剣を構え、両者の猛攻を受け流す。
「っ……速い!」
リューセルの斬撃は視認が難しい速度に。
カイルが弾いた刃がすぐに別の角度から襲いかかる。
同時にグロックの拳が風圧を伴って迫る。
ドゴォォン!
石畳が砕け、粉塵が舞い上がる。
その隙を狙ってリューセルの剣が首筋を狙った。
「ふっ!」
カイルは身を沈め、刃を紙一重で避ける。
剣を横薙ぎに振るが、リューセルは身をひねって空を切った。
「ククッ、どうした! この速さについてこれるかな!」
「俺の拳で骨まで粉々にしてやる!」
猛攻にその場は荒れ果て、石畳はひび割れ、砂煙が視界を覆った。
カイルは僅かに後退し、低く呟いた。
「少々……手こずらせてくれる。これ以上被害を増やすわけにもいかないからな。仕方がない、少しだけ本気を出すとしよう」
――スキル《戦気解放》「鋼の翼!」
カイルの体から魔力が溢れ出す。
瞬間、カイルの全身を覆う魔力が膨れ上がり剣に注がれていく。
剣先は鋼につつまれ輝きだす。
「なに……っ!?」
「気配が……さっきまでと違う……!」
カイルは地を蹴った。
リューセルの斬撃を剣で受け止め、逆に渾身の蹴りを叩き込む。
リューセルの体が数メートル吹き飛び、壁に激突して崩れ落ちた。
グロックが怒号を上げながら殴りかかる。
だがカイルはその攻撃を剣で受け止め、さらにその拳を押し返す。
「ぐおぉぉッッ!」
巨体が宙を舞う。
「鋼烈波!」
剣の柄の部分で放つ波動がグロックの腹に直撃し、大きく吹き飛ばす。
リューセルは再び立ち上がり、血を吐きながらも二刀を構える。
「クソがぁぁぁぁ!」
剣速はなおも健在だった。
だがカイルの《戦気解放》を纏った剣がそれを圧倒する。
火花が散り、リューセルの剣が折れた。
「……これで終わりだ!」
カイルの渾身の斬撃がリューセルを吹き飛ばす。
同時にグロックも、攻撃に受け、白目を剥いて崩れ落ちた。
二人の体はぼろぼろになり、その場に倒れ伏した。
*
カイルは大剣を収め、深呼吸をする。
「ふぅ……」
その背後で、血塗れのリューセルがわずかに動いた。
「……まだ、だ……ッ!」
倒れ伏していたはずのリューセルが、最後の力で飛びかかる。
二刀の折れた片刃を握り、背後のカイルへ突き立てようとする。
だが、カイルの反応が僅かに遅れた。
次の瞬間――
「これ以上は見過ごせないな」
後ろで見ていたはずの空の姿が現れた。
彼は軽やかに足で蹴り飛ばす。
ドゴォォン!
リューセルの顔面に蹴りが突き刺さり、その体はぐしゃりと潰れて地面に叩きつけられた。
骨が砕ける音が広場に響き、リューセルは動かなくなる。
「……これ以上は面白くないからな」
空は砂埃を払い、何事もなかったかのように立ち尽くす。
カイルは目を見開いた。
「君は……確か、あの時の……!」
空は肩を竦め、軽く笑った。
「これであの時の借りは返したぞ」
カイルは剣を収め、深く息をついた。
「……ありがとう。間一髪だったよ。ところで君はどうしてここにいるんだい?」
空は飄々とした調子で答える。
「暇ができたんでな、観光というものをしていた。そしたら面白そうなことが起きていたから見ていだんだ」
「そうか……」
カイルも苦笑し、肩の力を抜いた。
「俺は、ちょうど昼飯を食いに来ていただけなんだが……まさか《赤犬》奴らが表で暴れ出すとは思わなかったよ」
二人は互いに視線を交わし、わずかに笑った。
広場に残るのは、壊れた石畳と倒れ伏すマフィアたち。
戦いの余韻だけが、まだ空気を震わせていた。




