20話 一触即発
広場に漂う緊張が、いよいよ爆ぜようとしていた。
厚かましい笑みを浮かべた二人の幹部が、一歩前に出る。
ひとりは太った体に光る頭皮をさらし、丸太のような腕をぶら下げている。脂ぎった首筋から汗が滲み、皮膚の下で盛り上がる筋肉は異様な迫力を放っていた。
「俺の名は〈粉砕のグロック〉だ。この腕一本で岩を砕き、骨を粉にしてきた。喧嘩なら任せとけ」
もうひとりは対照的に、痩せた体に黒いローブをまとい、腰には二本の細身の剣を提げていた。艶やかなロングヘアーを揺らし、鋭い目を細めて笑う様は不気味そのもの。
「私は〈双剣のリューセル〉。速さと鋭さで相手を切り刻むのが仕事さ。お前のこともバラバラにしてやるよ」
下卑た笑い声が広場に響いた。
カイルは黙って一歩前に出た。剣に手はかけず、静かに構える。
「街の人に手をだし、好き放題にするなら、俺は容赦はしない」
グロックが鼻を鳴らした。
「はんっ、減らず口を! 行け、野郎ども!」
背後に控えていた数人の取り巻きが、鉄棒やナイフを手に一斉にカイルへ飛びかかった。
*
カイルは一歩も動かない。
鋭く振り下ろされた鉄棒を、半身でかわす。
「なっ……!」と驚く声を無視し、腰をひねった拳を敵の顔面に叩き込んだ。
ドゴッ!
鈍い衝撃音と共に男の体が宙を舞い、一回転して石畳に落下する。
「ぐはっ……!」歯が砕け、血を吐いて転がった。
次の下っ端が背後からナイフを突き出す。カイルは微かに首を傾けるだけでそれを避け、逆に肘打ちを顎に叩き込んだ。
男の体は石畳に叩きつけられ、白目を剥いて動かなくなる。
「こ、この野郎!」
残る二人も恐れを振り切るように同時に襲いかかる。
カイルは視線すら動かさず、片方の蹴りを片腕で受け止め、その足を掴んで振り回す。まるで布袋のようにもう一人に叩きつけた。
二人の体が激突し、呻き声を上げて転がる。
――開始から数秒。
下っ端どもは全員、石畳に転がって意識不明となった。
カイルは衣服についた埃を払う仕草すら見せない。ただ2人の方へと進む。
*
一方その間、空とエドガーは屋台の夫婦を助け出していた。
「さっ、こちらへ。危険ですので少し離れた方が良いでしょう」
エドガーは紳士的に夫婦をエスコートし、安全な場所へ導く。
空はちらりと戦場を見やりながら、何かを呟く。
「……ふむ、鑑定」
すると、目の前に三人――カイル、グロック、リューセルの情報が浮かび上がった。
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【名前】カイル・ヴァルハイト
【種族】人間
【年齢】27
【レベル】65
【体力】5450
【魔力】1810
【攻撃力】3860
【防御力】3590
【俊敏性】3280
【精神力】900
【スキル】剛拳術/戦気操作/鋼心
【名前】グロック
【種族】人間
【年齢】34
【レベル】52
【体力】1480
【魔力】720
【攻撃力】1390
【防御力】1520
【俊敏性】880
【精神力】310
【スキル】怪力/肉体強化
【名前】リューセル
【種族】人間
【年齢】29
【レベル】53
【体力】1280
【魔力】1050
【攻撃力】1140
【防御力】970
【俊敏性】1560
【精神力】320
【スキル】二刀流/剣速強化/暗殺術
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空は口角を上げた。
「やっぱりな。数値の差で分かりやすいな。面白くなってきた」
エドガーは苦笑を浮かべ、声を潜めた。
「空様……楽しんでいる場合では」
「いいじゃないか。こういうのは退屈しのぎにちょうどいい」
*
広場の中心に、グロックとリューセルが立ちはだかる。
下っ端たちが倒れ伏したのを見て、二人の顔に怒りと焦りが滲んだ。
「ちっ……使えねぇ奴らだな……!」
グロークが地響きを立てながら歩み寄る。
リューズも腰の二本の剣を抜き放ち、冷笑した。
「……さすがAランクだ。だが、俺ら二人を相手に勝てると思うなよ」
二人が同時に襲いかかる。
グロックは丸太のような腕を振り下ろし、石畳を砕く勢いの拳を繰り出した。
カイルはその一撃を紙一重で避け、逆に脇腹に膝を叩き込む。
「ぐぅっ!」脂肪を揺らしながらグロックが呻いた。
そこへリューセルの二本の刃が滑り込む。
「はぁッ!」
斬撃が風を裂き、カイルの首筋を狙う。
カイルは後退しながら、腰の大剣を抜いた。
刃と刃が激しくぶつかり、火花が散る。
ガキィィン!
「まぁまぁ速いな」カイルは唸った。
リューセルは猫のように軽やかに飛び退き、二本の剣を交差させる。
「お前の力は確かだ。だが速さなら俺が上だ」
カイルはリューセルの動きに追いつき攻撃をしかける。
再び二人の攻防が交錯する。
リューセルの剣が雨のように降り注ぎ、カイルの大剣が全てを弾き返す。
火花が広場を照らし、耳をつんざく金属音が響いた。
同時に、グロックスが横合いから拳を叩き込む。
だがカイルは剣で受け流し、力を利用して逆に敵の巨体を弾き飛ばす。
「うおおっ!」
グロックスは石畳を滑りながら転がり、唾を吐き捨てた。
「くそっ……化け物め」
カイルの表情は変わらない。
優勢は明らかにカイルだった。
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その事実を悟ったのか、グロックスとリューセルの表情に焦りが滲む。
「くそ……このままじゃ……」
「負ければ……あの人に知られたら……俺たち、殺される……!」
二人は互いに目配せし、同時に懐から小さな筒状の物を取り出した。
漆黒に塗られた金属の容器。その中から、禍々しい気配が滲み出ている。
空は遠目にそれを見て、にやりと笑った。
「おや……隠し玉か。面白いものを持ってるな」
広場の空気が、さらに張り詰めた。
カイルが剣を構え直す。
「それは……」




