17話 それなりの品
500pv超えました
嬉しい(´◡‿ゝ◡`)
翌朝。
朝日が街を黄金色に染め始める頃、空とエドガーは人通りの増え始めた大通りを歩いていた。
「さて……昨日作った品を売るわけだが」
空が顎に手を当てる。
「空様」
エドガーはいつものように背筋を伸ばし、紳士然とした声で進言した。
「正直に申し上げて、大通りの店で取引なさるのはお控えになった方がよろしいかと」
「……なぜだ?」
「確かに白金貨とまではいかないといいました」
エドガーはその理由を話す。
「しかし、この街の表の商人たちは、必ずマフィアとも繋がりを持っています。この作品は人間界では素晴らしい出来栄え。人目の多い場所で品を売れば、すぐに噂が広まりましょう。結果、興味を持つのは商人だけでなく、盗賊、貴族、あるいは王族にまで及ぶやもしれません」
「……面倒事に繋がるわけか」
空は肩を竦めた。
「じゃあ、どうすればいい」
「人目につかぬ裏路地。誰もが足を止めぬような薄暗い店――そうしたところなら、相手も口が堅いものです」
空はにやりと笑った。
「なるほど。さすがはエドガーだな。じゃあ、裏に入って店を探そう」
*
しばらく裏路地を進むと、石畳はひび割れ、通りの両脇には廃れた家屋や埃を被った樽が並んでいる。
昼間だというのに人影はなく、ただ猫が一匹、瓦の上でのんびり毛繕いをしていた。
やがて、通りの突き当たりにぽつんと佇む小さな店に辿り着く。
外壁はひび割れ、看板すら掛かっていない。
それでも窓から漏れる微かな灯りが、この店がまだ生きている証だった。
エドガーが静かに言う。
「……ここがよろしいでしょう。古くから様々な取引を担っている店。噂を広げることなく、相応の価値をもって応じてくれるはず」
空は扉を押し開け、中に足を踏み入れた。
*
店内は薄暗く、香草と古木の混じった独特な匂いが漂っていた。
棚には壺や布袋が雑然と並び、その奥に年老いた老婆が座っていた。
細い眼は鋭く、ただの老いぼれではないことを一目で感じさせる。
「……こんなところに新規のお客様が二人とは、珍しいことだねえ」
老婆は低く笑った。
「さあて、何をしに来たんだい? 命を買うのか、品を売るのか」
空は一歩前に出て、懐から昨日創り出したそれなりの品――青く輝く短剣を取り出した。
光が差し込むと刃に淡い輝きが宿り、その場の空気が一瞬張り詰める。
老婆の目が見開かれた。
「……これは……! ただの短剣じゃないねえ。どこで手に入れた?」
空は表情を崩さず、淡々と答える。
「俺が持っている。ただそれだけだ」
老婆は目を細め、品を食い入るように見つめる。
「……この出来栄え……材質、装飾、製作……間違いなく、一流を超えてる。こんな代物、本当に売るつもりかい?」
「もちろんだ」
空は静かに言った。
「ただし、ひとつ忠告しておく。俺に詐欺は無駄だぞ」
その声音に、空気が一瞬凍りついた。
老婆は思わず背筋を震わせ、だがすぐに笑みを浮かべた。
「……ふふ、若いのに随分肝が据わってるじゃないか」
彼女は奥から帳簿を取り出し、さらさらと数字を書き込む。
やがて顔を上げ、真っ直ぐに空を見る。
「大金貸五十枚――これでどうだい?」
店内に静寂が訪れる。
大金貸五十枚。それは五百万に相当する額だった。
この街の並の商人が一生働いても稼げるかどうか、という途方もない数字だ。
エドガーでさえ、思わず息を呑んだ。
「……ほう。随分と大胆なお値付けですな」
老婆は笑いを深めた。
「価値が分かる者にしか扱えない代物さ。私だって命懸けだよ。だから、この額が限界ってわけさね」
空はしばし老婆を見据え――やがて口元を緩めた。
「……いいだろう。取引成立だ」
老婆は頷き、棚の奥から分厚い袋を取り出す。
中にはずっしりと重い大金貸が五十枚、確かに収められていた。
空は袋を受け取り、異空間の中に入れる。
「これで俺たちの観光費用は十分だな」
エドガーは目を細め、深々と礼をした。
「いやはや……空様と共におりますと、常に規格外の展開でございますな」
老婆は二人をじっと見つめ、しわだらけの口元に笑みを刻んだ。
「若いの……あんた、ただ者じゃないだろう。だが、余計な詮索はしないさ。裏の世界で生き残るには、知らないことが一番の薬だからね」
空は軽く頷き、背を向けた。
「助かる」
こうして、小さな店での取引は静かに終わった。




