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創造神の遊戯  作者: 面白味
創造神初めての冒険
15/54

14話 取引


森の血の匂いがまだ漂う中、狼の遠吠えも途絶え、静寂が戻ってきていた。


「……君」

空は、じっと彼女を見つめた。

「君はどうしてここにいるんだ」


その声は威圧的ではなかった。だが、逃げ場を与えぬ鋭さを秘めている。

ラフィーナはわずかに息を呑んだ。


「わ、私は……ラフィーナ・セレスティア。クラン《暁の羽根》所属の斥候です」

彼女は背筋を伸ばし、仕事としての礼儀を崩さぬよう努めながらも、先ほど抱き上げられた余韻に胸を高鳴らせていた。

「依頼で……聖魔草を採取するために、この森に来ていました」


ラフィーナは必死に言葉を続けた。

「……それで、たまたま……あなた方の戦いを……」


彼女は目を伏せた。目に焼き付いてしまった光景――狼を楽しげに切り刻む空と、優雅に屠るエドガー。

恐怖と同時に、妙な興奮がまだ抜けきらない。


「なるほど」

空は小さく溜め息をついた。

「――今日、君が見たこと。悪いが全部、忘れてくれ」


「……え?」


ラフィーナは思わず聞き返した。

空は懐から布袋を取り出すと、その中に手を入れ――不自然なくらい自然な動作で一枚の葉を取り出した。

薄く光を帯びた緑――《聖魔草》。


「代わりに、これをやる。……依頼はそれで達成できるだろ?」

空は軽く差し出す。


ラフィーナは目を見開いた。

「ど、どうして……」


「俺の力のことは、できれば知られたくないんだ」


沈黙。

ラフィーナは草を受け取るべきか迷った。だが、その真剣な眼差しに、言葉が喉で止まる。

やがて、彼女は小さく頷いた。


「……わかりました。口外はしません。聖魔草も……ありがたく頂きます」


それだけ言うと、ラフィーナは振り返り、森を後にした。

背後で二人の冒険者の姿が遠ざかっていくのを感じながら――胸は高鳴ったままだった。



---


「……よろしかったのですか、空様」

彼女の姿が見えなくなってから、エドガーが問いかけた。

「記憶を消すことも可能であったでしょうに」


空はエドガーの方を向き

「……あんまり力を使いたくないんだよ。あれで済むなら、その方が楽だ」

少し遠くを見るような表情で続ける。

「それに……あの目は、黙ってくれると思うんだ」


エドガーは口元を緩めた。

「ふふ……やはり、空様はお優しい」


空は何も答えず、狼の死骸に目を向ける。

辺り一帯、血の匂いと死体で溢れていた。


「必要な素材だけ取って……あとは片づけよう」


空はは掌を掲げる。

死体がふわりと宙に浮き、素材だけを取り除き、は残り淡い光に包まれ――次の瞬間、小石ほどの塊へと凝縮された。

血の匂いも消え、ただの小さな石ころのように手のひらに落ちる。


「……便利でございますな」

エドガーが感心したように呟く。


空は苦笑を浮かべる


「じゃあ……ギルドに報告に行こうか」


二人は森を後にし、街へ向かって歩き出した。



---


その頃。


ラフィーナはクラン《暁の羽根》の拠点に戻っていた。

石造りの建物の中、仲間たちが談笑する声が響く。


「ただいま戻りました」

彼女は聖魔草を差し出し、依頼達成を報告する。


「おお、やったなラフィーナ!」

「一人でよくやったじゃないか!」


仲間たちが口々に称える。

ラフィーナは笑顔を返したが、その頬は赤みを帯び、心ここにあらずだった。


報告を終え、机に腰を下ろす。

だが、視線は虚空を彷徨っていた。


(……あの時の、腕の温もり……)

(真剣な瞳……あんな人、今まで見たことない……)


頬がじんわりと熱くなる。

無意識に机に頬杖をつき、ボーっとしてしまう。


「……なあ」

「おい、見ろよ」

「ラフィーナが……ラフィーナが夢見る乙女みたいな顔してるぞ……?」


仲間たちがひそひそ声を交わす。

普段は冷静沈着で、任務に忠実な彼女。そんなラフィーナが、まるで別人のように頬を赤く染めている。


「……ありえねえ……」

「俺らのラフィーナが、恋してる顔だぞ……?」


仲間の一人が恐る恐る問いかける。

「な、なあラフィーナ……何かあったのか?」


しかし彼女は反応しない。

ただ遠くを見る目で、心の中の誰かを追いかけていた。


(……エドガー様……)


その名を、心の奥で密かに呼びながら。



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