13話 女冒険者
――私は、ラフィーナ・セレスティア。
クラン《暁の羽根》に所属する斥候である。
私の役割は、前に出て剣を振るうことでも、大魔法を放つことでもない。
敵の情報を集め、地形を探り、必要とあれば暗器で敵を仕留める――影の役目だ。
派手さはないが、仲間たちからは「頼りになる」と言ってもらえている。
今日は単独任務だった。
ギルドを通じてクランに届いた依頼――希少な薬草《聖魔草》の採取。
これはただの薬草ではなく、聖なる力を含み、悪しき者を浄化する。教団など様々な団体がこぞって欲しがる薬草なのだ。
しかし、1つの森の中にあるかないかの希少なものであり、森狼など厄介な魔物がいるこの森で摘むのは危険を伴う。
だからこそ、足の速い私が派遣されたのだ。
(もう少し奥まで進めば……きっと見つかるはず)
そう思って木々の間を進んでいた時、私はとんでもないものを見てしまった。
――二人の冒険者。
いや、冒険者と呼んでいいのだろうか。
一人は黒髪の青年。
彼は短いナイフ一本で、森狼を切り刻んでいた。
その動きは鮮やかで、速すぎて目で追えない。
振るわれた刃の軌跡に触れた狼は、悲鳴すらあげられず肉片へと変わる。
もう一人は白髪混じりの老人。
だが彼の身のこなしは、私が知るどんな戦士よりも美しかった。
指先が軽く振るわれるだけで、狼の首が宙を舞い、血の雨が降る。
それは残虐さではなく、むしろ優雅に踊っているようにさえ見えた。
「……なに、これ……」
気づけば私は、息を呑んでいた。
狼が群れをなしても、彼らの前では意味をなさない。
数十匹が、ほんの数分で屠られていく。
血と肉の臭いが立ち込める中で、二人は笑みすら浮かべていた。
恐怖よりも、目を離せない。
あれは……人間の戦いじゃない。
だが、私は見入ってしまった。
そのせいで――背後に迫る気配に気づくのが遅れた。
「――ッ!」
振り返った時には遅かった。
牙を剥いた森狼が、私に飛びかかってきていた。
(しまった!)
短剣を抜こうとした瞬間。
視界が急に揺れた。
――私の体が宙に浮いていたからだ。
「ご安心を、嬢さん」
優しい声。
私を抱え上げたのは、さきほど狼を切り裂いていた老人だった。
彼の腕は力強く、だが驚くほど穏やかで、包み込むように優しかった。
気づけば私は、お姫様抱っこの形で抱えられていた。
背後で狼が振るった爪が空を切り、次の瞬間――
「失礼」
エドガーの手刀が一閃した。
狼の首は軽やかに地面へと転がり、血が飛び散る。
「お怪我はございませんか?」
彼は私を抱えたまま、真剣な眼差しで問いかけてきた。
「……っ」
頬が熱くなるのを、抑えられなかった。
あまりに唐突で、現実味がない。
だが、確かに私は助けられたのだ。
「わ、私は……だ、大丈夫です」
声が震えてしまう。
エドガーは微笑んだ。
「それは何より。しかし女性の方一人では危険ですよ」
そう言って、彼は私をそっと地面に降ろした。
その所作まで紳士的で、無駄がなく、自然と胸が高鳴る。
私は自分の胸に手を当てて、驚愕した。
(な、なにこれ……私……?)
森の中、血と死の匂いに満ちた場面で――私は自分の心を持っていかれていた。
目の前の老紳士に。




