12話 討伐
森の入り口は、街からほど近い場所にあった。
昼の日差しが木々の隙間からこぼれ、草の匂いと小鳥のさえずりが漂う。
一見すれば人々の憩いの場にもなりそうな場所だが、冒険者の掲示板では常に「森狼」の駆除依頼が貼り出されている。
空とエドガーは草を踏みしめながら、森の奥へと進んでいた。
エドガーは背筋を伸ばし、まるで散歩のような優雅さで歩いている。
「主。この森には依頼書にあった以上の数が潜んでいる気配がいたします」
空は小さく笑った。
「だろうな。せっかくの討伐依頼だ。数が多いほうが面白い。それにもうそこまで来てるしな」
すると、森の奥から低い唸り声が響いた。
樹々の影から、黄色い瞳がいくつも光る。
「グルルル……」
数匹どころではない。
十、二十……依頼に書かれていた数よりも多くの森狼たちが木々の隙間から次々と姿を現し、二人を包囲した。
エドガーは軽く息を吐き、手袋をはめ直す。
「主、どうなさいますか?」
空は腰に差した、ダリオから買った安物のナイフを抜き放った。
刃は短く、冒険者が護身用に持つ程度の代物。
しかし空の目は楽しげに光っている。
「楽しもうじゃないか。お前もやれ」
「御意」
エドガーは深く一礼し、狼の群れに視線を向ける。
次の瞬間、最初の一匹が飛びかかった。
牙を剥き、喉笛を狙って一直線に跳ぶ――。
「フッ」
エドガーの右手が滑らかに振るわれた。
まるで絹を裂くかのような軽い音が響き、飛びかかってきた狼の首が宙を舞う。
その動きは優雅で無駄がなく、まるで礼儀正しい舞踏の一部のようだった。
「……爽快なものですな」
エドガーは血飛沫を避けるように身を引き、淡々と呟く。
一方、空は別の狼に狙われていた。
背後から素早く迫る狼を振り向きざまにナイフで迎え撃つ。
――ザシュッ!
小さな刃は信じられない速度と力で振るわれ、狼の体を真っ二つに裂いた。
血と臓物が地面に飛び散り、狼は悲鳴すら上げられず絶命する。
「ははっ……いいな、これ」
空は笑みを浮かべ、血に濡れたナイフをひらひらと振る。
次の瞬間、別の狼が横から襲いかかる。
空は一歩踏み込み、ナイフを縦横に振るった。
「ザクッ! ズバッ!」
狼は断末魔の悲鳴をあげ、切り刻まれ、形を残さないほどに細切れとなって崩れ落ちた。
群れは怯むどころか、逆に仲間の死をきっかけに怒り狂った。
十数匹が一斉に牙を剥き、二人へと殺到する。
だが、エドガーはただ一歩前に出ただけだった。
「……はあっ」
彼の手刀が、まるで鋼鉄の刃のように煌めく。
「ザシュッ! シュバッ! スパァン!」
触れたものすべてが真っ二つにされ、狼の体は次々と宙を舞う。
首、四肢、胴体――その全てが正確無比に切り落とされ、地面を赤黒く染めた。
「主。数が多うございますが……お楽しみいただけておりますか?」
エドガーは微笑みさえ浮かべ、血の飛沫の中で問いかける。
「最高だ」
空は笑いながら答え、再びナイフを閃かせた。
一振りで二匹を斬り裂き、逆手に持ち替えて次の一匹の腹を裂く。
狼の内臓が飛び出し、獣臭と血の匂いが森に充満する。
それは「戦闘」というより「虐殺」に近い光景だった。
だが二人にとっては、まるで遊戯のような楽しげな狩りにしか見えない。
狼たちは本能的に悟り始めていた。
――この二人は、怪物だ。
群れは恐怖に駆られ、逃げようとする個体も現れた。
しかし空は容赦しない。
「逃がすわけないだろう。」
ナイフが閃き、走り去ろうとした狼の首が飛ぶ。
空は血飛沫を浴び、愉快そうに笑った。
一方、エドガーは残る狼を冷静に処理していた。
片手で狼の牙を受け流し、もう片方の手で首を撫でるように払う。
それだけで首筋から鮮血が吹き出し、狼は絶命した。
「……お疲れ様でございます、諸君」
エドガーは地に伏した狼たちへ優雅に一礼した。
やがて、森に静寂が訪れた。
倒れた狼の死体は四十を超えている。
依頼に書いてあった数よりも4倍も多くの森狼たち
しかし、空たちの前に全てが絶命していた。
地面は赤く染まり、腐臭が漂い始めていた。
空はナイフを拭いながら、楽しげに息を吐いた。
「いい狩りだったな」
エドガーは微笑み、頷く。
「ええ。ですが……」
そこでエドガーは視線を向けた。
茂みの向こう。
誰かがじっとこちらを見ていた。
空も気配に気づいており、目を細める。
そこには、一人の女冒険者が立っていた。
鎧姿で弓を背負い、唇を固く結んでいる。
彼女の顔は蒼白だった。
――目の前で繰り広げられた「虐殺劇」。
あまりの光景に、言葉を失っている。
空とエドガーは互いに目を合わせる。
「……始めから見られたな」
エドガーは涼やかな笑みを浮かべた。
「さて、どういたしましょうか、主?始めから気づいていたんでしょう」
森に漂う血と死の匂いの中、空は静かに女冒険者の方を見つめた




