9話 救助
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オナシャス
夕暮れが濃くなり、草原は赤紫の光に包まれていた。
薬草で膨らんだ袋を肩に掛け、空とエドガーは街への帰路を辿っていた。
「……最初の依頼、思ったよりも良いものだったな」
空が呟くと、エドガーが微笑を浮かべる。
「左様でございます。主がお楽しみになられていたのは、私にとっても喜ばしいこと。ギルドへ戻れば、きっと他の冒険者も驚くことになりましょう」
空は少し目を細め、草原の向こうに沈みかける太陽を見つめる。
その時──空の足が止まった。
「……ん?」
わずかな震動。風に混じる血の匂い。
そして遠くから響いてくる金属音。
「戦闘の気配……」
空の目が細く光る。
エドガーも瞬時に反応し、手を柄に添えた。
「主、どうなさいますか?」
「見に行く」
短く言い放つと、空は風を切るよう走りだした。
彼の足取りは決して速くはない。だが、たった数歩で距離を一気に詰めていく。エドガーも慌てることなく後に続いた。
* * *
やがて二人の視界に飛び込んできたのは、数台の荷馬車と、それを取り囲む十数人の男たちだった。
商隊。
だが、その護衛らしき者たちはすでに数人が地に伏し、気を失っていた。残った者たちは必死に抵抗している。
対するは粗末ながらも武器を手にした強盗団。獰猛な笑みを浮かべ、商人たちを脅していた。
「金を出せ! 命が惜しけりゃ抵抗するな!」
「ぐっ……誰か、援軍を──!」
空は一瞥し、状況を把握する。
商人と護衛の実力は低く、時間の問題で蹂躙されるだろう。
「エドガー」
「御意」
次の瞬間、エドガーの影が地を駆け抜けた。
彼は剣を抜くことなく、最前列の強盗の手首を正確に打ち払い、武器を弾き飛ばす。
そのまま回し蹴りで二人、肘打ちで一人。
流れるような動作で、あっという間に数人の武装を奪った。
「なっ……なんだこいつは!」
「ひ、ひとりで……!」
驚愕と混乱に包まれる強盗団。
そこへ、空が軽く指を鳴らした。
──空気が震えた。
「なっ、身体が……!」
「動けねぇ!? な、なんで浮いて……うわぁぁ!」
強盗たちの身体が次々と宙へ浮き上がる。
まるで見えぬ鎖に縛られたかのように、腕も脚も自由を奪われ、宙に逆さ吊りにされた。
彼らは必死に暴れたが、抵抗は一切無意味だった。
「……ふむ。大した事ないな」
空は無表情のまま言う。
地に倒れていた商人が目を見開いた。
壮年の男で、立派な衣服を纏い、だが恐怖と驚きで顔は蒼白になっていた。
「な、なんということだ……まさか、あなた方が……助けてくださったのか?」
エドガーが一歩前に進み、丁寧に頭を下げる。
「ええ、ご安心ください。賊どもは既に無力化いたしました」
空もちらりと視線を向ける。
「怪我はないか?」
商人は一瞬言葉を失った後、慌てて頭を下げた。
「は、はい……命を助けていただき、感謝の言葉もございません……!」
空は宙に浮く強盗たちを見回した。
彼らは口々に叫んでいたが、もはや脅威ではなかった。
「……気絶させて、街の兵に引き渡すとしよう」
「それがいいでしょう。強盗を捕まえた報酬も受け取ることができますし。」
彼が指を軽く弾くと、強盗たちの意識が一斉に途切れ、ずるりと宙から落ちる。
だが地面に打ち付けられる寸前に、見えぬ力が彼らを優しく受け止めた。
重傷もなく、ただ眠るように気を失っている。
「処置完了でございますな」
エドガーが周囲を確認する。
空は頷き、商人の方へ向き直った。
「改めて問う。大丈夫か?」
「ええ……護衛の者が何人か負傷してしまいましたが、命を落とさずに済んだのは全てあなた方のおかげです」
商人は深々と頭を下げ、声を震わせた。
「もしよろしければ……街までご一緒していただけませんか? このままでは再び襲撃されるやもしれませんので……」
空は軽く顎を引いた。
「構わない」
「主のお心遣い、感服いたします」
エドガーもまた恭しく一礼した。
* * *
夕闇が迫る草原を、商隊と共に街へ向かう。
強盗たちは縄で縛り、空によって宙に浮かんでいる状態で荷馬車の後ろを漂っている。
彼らは意識を失ったまま、身じろぎ一つしない。
商人は道すがら、何度も空とエドガーに礼を述べてきた。
「私はダリオと申します。商人を生業とし、この街と隣国の間で交易をしております。……お名前を伺っても?」
エドガーがちらりと主を見て、答えた。
「こちらは私の主、空様。そして私が仕える者、エドガー・ロウエルにございます」
「空様、エドガー様……必ずや恩はお返しいたします。どうか今後とも……」
空は少し考え、わずかに笑った。
「礼は要らない。俺はただ、気になったから動いただけだ」
「それでも……命を救っていただいたのです。感謝せずにはおれません」
商人ダリオの目は真摯で、そこに偽りはなかった。
空はふと遠くの街を見つめる。
城壁が夕焼けの中に浮かび上がり、帰還を告げる鐘の音が微かに響いていた。
「……まずは、街へ戻ろう」
その一言に、誰もが頷いた。
こうして、空たちは初めての依頼を終えただけでなく、街の外で新たな縁を得ることとなった。




