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日報091:絶望的な乱戦と二つの切り札

すみません!

更新がかなり遅くなってしまいました!!

.

..

.

「グルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」

.

..

.


 辺境に来てから第六十五日目の午後。

呪熊の、森全体を震わせるほどの、苦痛と憎悪に満ちた咆哮が、俺たちの作戦開始の合図となった。だが、それは、俺たちの想像を遥かに超える、絶望的な戦いの始まりでもあった。


 弱体化していくかに見えた呪熊。だが、それは、呪いの本能的な、最後の防御反応を引き起こす、引き金となったのだ。

 呪熊は、突如、沼の、俺たちが『核』と仮定した、最深部と、共鳴を始めた。

 沼全体が、まるで一つの巨大な心臓のように、どくん、どくん、と脈動し、周囲の、汚染された木々や、黒い泥が、生き物のように動き出し、無数の、おぞましい触手となって、俺たちへと、襲いかかってきたのだ。


「なっ……!?」

 敵は、呪熊一体ではなかった。

 この、呪われた沼そのものが、一つの、巨大な敵として、俺たちに、その牙を、剥いたのだ。


「総員、散開! 触手を迎撃しつつ、魔法陣の周囲を死守しろ!」

 セシリアが、即座に指揮官としての的確な指示を飛ばす。

 俺たちは、四方八方から迫る、無数の触手に囲まれ、絶体絶命の危機に、陥っていた。


「くっ……! キリがない!」

 セシリアの聖なる光を纏った剣が、触手を薙ぎ払う。斬り裂かれた触手は、黒い飛沫を上げて霧散するが、その直後には、沼の泥から、新たな触手が、二本、三本と再生してくる。

「こいつら、瘴気そのものが、本体なのか!?」

 ミオが、クナイを両手に、触手の猛攻を、紙一重でかわしながら叫ぶ。

 ライラの放つ浄化の矢も、次々と触手を射抜いていくが、その再生速度は、彼女の射撃速度を、明らかに上回っていた。


 俺の脳内で、【危機管理EX】が、最悪の未来予測を、冷徹に弾き出し続けていた。

【警告。敵性存在、無尽蔵に増殖中。現戦闘行動を継続した場合、三十分以内に、全員の体力及び精神力が限界に到達。生存確率、3%以下】


(……まずい。完全に、罠にはめられた。共鳴魔法陣で、呪熊の動きを鈍らせることはできた。だが、それが、奴の、最後の防衛システムを、起動させる引き金になってしまった。奴は、俺たちを、この場に釘付けにし、消耗させ、瘴気で汚染し尽くすつもりだ……!)


「これは罠だ! 奴は我々をこの場に釘付けにし、消耗させるつもりだ!」

 俺の思考と、全く同じ結論にたどり着いたライラが、悲痛な声を上げた。

 このままでは、ジリ貧だ。何か、何か、この状況を、根底から覆す、一手が必要だ……!


 俺は、思考を加速させる。過去の失敗事例。エルフたちが、数百年もの間、見過ごしてきた、小さな、しかし、決定的な情報。

(……あった! あの、二百年前の第五次浄化作戦の記録! 『作戦当日、夜半より未曾有の豪雨。沼の水位が、予測を大幅に超過し、儀式は失敗』……! エルフたちは、それを、ただの不運だと、結論付けていた。だが、違う! もし、あの沼の、触手の再生能力が、水分によって、飛躍的に高まるのだとしたら……!)


 ならば、答えは、その逆だ。


「セラフィナ!」

 俺は、後方で、必死に魔法陣の維持と、防御結界の展開を続けている、セラフィナに叫んだ。

「共鳴魔法陣の維持は、ライラ殿に任せ、別の魔法を準備してくれ! 奴らの弱点は、『熱』かもしれない! この、広範囲の水分を、強制的に蒸発させる、乾燥魔法か、あるいは、灼熱の風を発生させる魔法は、可能か!」


「ええっ!? そ、そんな、大規模な……! で、ですが……はいっ! やってみます!」

 セラフィナは、俺の、その常識外れの要求に、一瞬、怯んだ。だが、彼女は、俺の瞳の中に、確かな勝機を見出したのだろう。彼女は、ライラに魔法陣の維持を託すと、自らの、巨大な魔力を、解放するための、新たな詠唱を、開始した。


 だが、それだけでは、足りない。

 触手を、一時的にでも、無力化できたとして、呪熊本体に、決定的な一撃を与える、切り札が。

 俺は、最後の、そして、最も危険な、賭けに出ることを、決意した。

 リズ。彼女の、あの『原初の光』の力。それこそが、この、絶望を覆す、唯一の光。


「ミオ!」

「なに、シンイチ!」

「村から持ってきた、『伝令用の矢』を使え! リズに、伝えろ! 『おじさんを助けて』、と!」


 その、俺の、悲痛なまでの決断。ミオは、その意味を、全て理解した。

「……! 分かった!」

 彼女は、背にした、護身用の小弓に、一本の、銀色に輝く、特殊な矢をつがえた。そして、全神経を、その矢の先端に集中させ、心の中で、ただ一人、少女の名を、強く、強く、叫んだ。

「――リズッ!」


 放たれた矢は、青白い光の尾を引きながら、物理的な法則を無視するように、一直線に、空の彼方、エルフの里の方向へと、飛んでいった。


 その頃。エルフの里では。

 客舎のテラスで、リズは、エルフの子供たちと共に、心配そうに、戦いの行方を見守っていた。

 その、彼女の耳にだけ、直接、声が響いた。

『リズ、助けてくれ!』

 それは、彼女が、心から信頼する、おじさんの、悲痛な声だった。


 リズは、躊躇しなかった。

 彼女は、客舎を飛び出し、戦場のある、南の方角を、その大きな瞳で、真っ直ぐに見つめた。

 次の瞬間。

 彼女の、その小さな体から、世界樹の里全体が、真昼のように、白く輝くほどの、凄まじい『原初の光』の魔力が、解き放たれた。

 里にいた、全てのエルフたちが、その、あまりにも神聖で、あまりにも強大な、奇跡の光に、ただ、ひざまずき、祈ることしかできなかった。


 そして、戦場では。

「――いっけえええええっ!」

 セラフィナの、絶叫と共に、高位の火炎系支援魔法が、完成した。

 彼女が突き出した『世界樹の心枝』の先端から、灼熱の嵐が、渦を巻いて放たれる。その熱風は、湿地帯の、淀んだ空気を、一瞬で蒸発させ、無数の触手群を、襲った。

 ジュウウウウウウッ!と、おぞましい音を立てて、触手は、その水分を奪われ、再生能力を失い、次々と、黒い塵となって、崩れ落ちていく。


 まさに、その瞬間だった。

 空の彼方から、巨大な、純白の光の柱が、流星のように、飛来し、呪熊の、その巨大な体を、直撃した。


「ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア-ッッッ!!!」


 呪熊は、これまでとは、比べ物にならないほどの、断末魔の悲鳴を上げた。

 その体を、鎧のように覆っていた、おぞましい瘴気のオーラが、聖なる光によって、急速に、浄化されていく。

 その、あまりにも、圧倒的な光景に、ライラも、仲間たちも、ただ、言葉を失っていた。


 だが、俺は、叫んでいた。

「今だ! これが、我々の、最後の好機だ! ライラ! セシリア! 『聖なる泥』を、奴の、剥き出しになった、核へッ!!」


 決戦は、ついに、最終局面へと、突入したのだった。

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