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日報009:土壌改良と最初の種まき

 辺境での四日目が終わり、明日からは土壌改良と、いよいよ作物の種まきに取り掛かる予定だ。俺のスローライフハーレム計画は、着実に、そして確実に、辺境の地に根を張り始めていた。


 翌朝、五日目の朝。冷たい井戸水で顔を洗い、身支度を整える。昨日の開墾作業で全身が筋肉痛になっているのを感じるが、気分は悪くない。領主館の窓から差し込む朝日が、埃の舞う広間を明るく照らしていた。


 広間へ出ると、セシリアとリリィはすでに起きており、領主館の周囲を警戒している。騎士としての規律が徹底しているのは、本当にありがたい。二人の表情は、昨日までの肉体労働で若干の疲労が見えるものの、瞳には新たな作業への意欲が満ちていた。


「慎一様、おはようございます。今日は土壌改良と、いよいよ種まきの日ですね!」


 セシリアが、俺の顔を見るなり、確認するように尋ねてきた。彼女の問いには、作業への積極性と、これまでの計画への理解が滲んでいる。


「おはよう、セシリア殿。その通りだ。いよいよ作物の命を育む段階に入る。今日のメインは、腐葉土集めと、開墾した土地への土壌改良、そして最初の種まきだ」


 俺がそう告げると、リリィがぴょんと跳ねるように目を輝かせた。


「種まきですか! 私、生まれて初めてです! とても楽しみです!」


 リリィの純粋な好奇心が、俺のモチベーションをさらに高める。人材配置(A)が、今日の作業効率を最大化するための役割分担を瞬時に提示する。セシリアには、腐葉土の運搬作業の監督と、広範囲の警戒をお願いしよう。彼女の冷静な判断力と体力があれば、森の中での作業も安全に遂行できる。リリィには、腐葉土の混ぜ込みと、種まきの補助を任せるのが最も効率的だろう。彼女のひたむきさと、指示への忠実さが、きっと正確な作業に繋がるはずだ。


 まずは、領主館の物置から見つけた錆びた手押し車を引っ張り出した。これもセシリアが手入れをしてくれたおかげで、スムーズに動く。この手押し車で、森から腐葉土を運び込むのだ。


「セシリア殿、この手押し車を使って、領主館の裏手の森から腐葉土を運び出したい。特に、腐った落ち葉が堆積している場所がいい。リリィ殿は、開墾した土地で、細かい石を拾い集めておいてくれ」


 俺が指示を出すと、二人は手際よく動き始めた。セシリアは手押し車を押しながら、森の奥へと入っていく。リリィは、開墾されたばかりの土の上で、小さな石を拾い集め始めた。その小さな体で、黙々と作業をこなしている。


 俺は、彼女たちが作業に取り掛かっている間に、開墾された農地の土壌を改めて確認する。土壌改良計画は書類作成(B)スキルによって頭の中で完璧に練り上げられている。この土地は粘土質が多いため、水はけが悪く、根が張りにくい。腐葉土を混ぜ込むことで、土が柔らかくなり、通気性と保水性が向上するはずだ。同時に、土の中の微生物が活性化し、地力が回復する。


 午前中いっぱいをかけて、セシリアは手押し車で何往復もして腐葉土を運び込み、開墾した土地の一角に山を築いた。彼女の体力と真面目さには脱帽だ。リリィも、小さなバケツいっぱいの石を拾い集めていた。


「慎一様、腐葉土はこれくらいで足りるでしょうか?」


 セシリアが汗を流しながら尋ねる。


「ああ、十分だ。ありがとう、セシリア殿。では、次は腐葉土を土に混ぜ込む作業だ」


 俺は鍬を手に取り、開墾した土に腐葉土を広げ、混ぜ込み始めた。セシリアとリリィも鍬を持ち、俺の真似をして腐葉土と土を混ぜていく。土は昨日までとは打って変わり、腐葉土の栄養分と水分を含み、しっとりと柔らかくなっていた。足で踏みしめると、ふかふかとした感触がする。


 (この分なら、土壌改良は予定よりも早く進みそうだ。幸運(S+)が、そう告げている。)


 昼食時、俺たちは汗だくになりながら、領主館の近くで保存食を広げた。土の匂いが混じった独特の風味は、もはや日常となりつつある。


「慎一様、この土、昨日とは全然違いますわ! 柔らかくて、なんだか温かい気がします!」


 リリィが、興奮したように両手に土を取り、その感触を確かめている。純粋な感動が彼女の表情から読み取れる。


「ああ、これで作物も元気に育つはずだ。これも、君たちが頑張ってくれたおかげだな」


 俺が労いの言葉をかけると、リリィは満面の笑みを浮かべた。セシリアも、静かに頷きながら満足げな表情をしている。


 午後は、いよいよ最初の種まきだ。今回まくのは、王都から支給された物資の中にあった、生命力の強い「麦」の種だ。この世界の麦は、背丈が低く、あまり収穫量が多いとは言えないが、まずは安定供給を優先する。


 書類作成(B)で作成した「種まきマニュアル」に従い、等間隔に溝を掘り、慎重に種をまいていく。リリィは好奇心旺盛に俺の真似をし、セシリアは正確な間隔を測りながら、丁寧に種を置いていく。


「種をまくときは、こうやって、均等に、そして深すぎず、浅すぎないように土を被せるんだ。水やりも重要だぞ」


 俺が説明すると、リリィは真剣な眼差しで聞き入っていた。彼女は、騎士としての訓練以外にも、こういった知識を吸収することに強い喜びを感じているようだ。人材配置(A)が、彼女の知的好奇心と順応性の高さを示している。将来は、村の農業技術の指導役も任せられるかもしれない。


 夕暮れが迫る頃、開墾された農地の一部には、すでに整然と麦の種がまかれていた。陽が傾き、柔らかな光が土にまかれた種を照らす。ここから、新しい命が芽吹き、村の未来が育っていくのだと思うと、胸が熱くなった。


 その日の夕食後、冷たい井戸水で体を拭き、保存食を口にする。疲労困憊だが、達成感に包まれて眠りに落ちる。


 辺境での五日目が終わり、明日からは水やりの管理と、新たな区画の開墾が始まる。俺のスローライフハーレム計画は、着実に、そして順調に進行していた。

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