日報007:辺境開拓への第一歩
蒸留器の試運転が成功し、高純度アルコールの生成を確認した俺──佐藤慎一は、翌朝、清々しい気分で目覚めた。辺境での三日目を迎え、ようやく具体的なビジネスの糸口を掴んだのだ。四十路のおっさんによる、異世界スローライフハーレム計画が、確かな一歩を踏み出した瞬間だった。
共同井戸で顔を洗い、身支度を整える。セシリアとリリィも既に起きており、領主館の周囲を警戒している。騎士としての規律が徹底しているのはありがたい。彼女たちは、昨日の蒸留器の成功で、俺を見る目がさらに変わったようだ。
「慎一様、おはようございます。今日の予定は?」
セシリアが、いつもより明るい声で尋ねてきた。
「おはよう。今日は、まずこの領主館と、周囲の村の清掃、そして簡単な修繕に取り掛かろう。それから、本格的な農地の開墾計画を立てる」
俺がそう告げると、リリィが目を輝かせた。
「村の清掃ですか! はい、喜んでお手伝いさせていただきます!」
リリィの純粋な意欲は、何よりの推進力だ。人材配置(A)が、彼女たちの役割を明確にする。セシリアには領主館の修繕と、全体の作業の安全管理、リリィには村のゴミや雑木の撤去といった力仕事を中心に任せるのが効率的だろう。
まずは、領主館の内部からだ。昨日のうちに蒸留器を運び込み、大まかな清掃は終えているが、まだ細かい埃やクモの巣が残っている。
「セシリア殿は領主館の破損箇所の確認と、修繕計画を頼む。リリィ殿は、水と布、それに簡単な箒などがあれば、この広間の清掃をお願いしたい。私は、書類作成(B)スキルを使って、この村の復興計画の骨子をまとめる」
俺が指示を出すと、二人は手際よく動き始めた。セシリアは領主館の柱や壁を点検し、リリィは井戸から水を運び、持参した布で床を拭き始める。
俺は領主館の中心にある、かつて机でも置かれていたであろう平らな石板をテーブル代わりに、持参した簡素なノートを開いた。頭の中では、書類作成(B)が高速で稼働している。
『辺境調査区画:復興計画書(初版)』
1.現状把握とリスク分析:
・村の荒廃度、残存施設、周辺環境、魔物の状況(ゴブリンとの遭遇結果も加味)
・資金、人材、資材の不足
2.短期目標(当面3ヶ月):
・領主館の居住可能化と蒸留器の稼働準備完了
・共同井戸の完全整備
・中規模農場の開墾と初期作物の栽培開始
・周辺の安全確保(魔物との領域明確化・必要に応じた撃退)
3.中期目標(3ヶ月~1年):
・人口増加と村の拡大
・蒸留器による特産品(高純度アルコール、薬用抽出液など)の本格生産と販路開拓
・自給自足体制の確立と余剰生産物の王都への販売
・簡易的な村の防衛体制構築
4.長期目標(1年以上):
・人口増加と村の拡大
・王国経済への貢献(税収、技術提供など)
・魔王軍との交渉準備(外交ルートの確立、情報収集)
・スローライフハーレムの実現
予算管理(S)が、それぞれの目標達成に必要な資金と資源、期間を割り出していく。危機管理(EX)が、計画のボトルネックや潜在的なリスクを洗い出し、最適な代替案を提示する。
(なるほど。まずは「食」と「住」の確保が最優先。その上で、「金」を稼ぐ手段を確立し、最終的に「人」を呼ぶ。ゴブリンとの交渉は、すぐに成立しなかったが、一度は攻撃の手を止めることに成功した。無駄な戦闘で資材や人員を消耗することなく、まずは「共存」への道を模索しつつ足元を固める。)
午前中、書類作成を終えると、領主館の広間はリリィのおかげで、見違えるほど綺麗になっていた。床の埃は消え、窓からは僅かながらも光が差し込んでいる。セシリアも、領主館の破損箇所を細かく書き出した報告書を携えて戻ってきた。
「慎一様、領主館の主要な破損箇所は全て確認いたしました。屋根の一部補修と、壁の亀裂の修繕、それに床板の張り替えが必要ですが、基礎構造には問題ありません。資材さえあれば、一週間もあれば居住可能になります」
セシリアが、書類作成(B)でまとめたかのような、見事な報告書を差し出した。これなら、俺が作った計画書と合わせて、ルナリア王女に提出できる。
「ご苦労様、セシリア殿。報告書、助かる。では、午後は村の周囲の調査と、農地の開墾場所の選定に取り掛かろうか」
「承知いたしました!」
昼食は、昨日と同じ保存食だが、計画書をまとめた達成感と、綺麗な領主館で食べることで、なぜか美味しく感じられた。これも「精神的満足度が味覚に与える影響」という総務部長の知見か。
午後は、セシリアとリリィを連れて、村の周囲を歩き回った。まずは、ゴブリンとの「安全区画」の境界を明確にする必要がある。目印となるような大きな岩や木を特定し、簡単な目印を付けていく。
農地の開墾場所は、領主館からすぐの場所にある、かつて村のメイン農地だったであろう広大な平地を選んだ。ここは、井戸からも近く、水利の便も良い。
「ここを、まずは中規模農場として開墾する。食料の安定供給が、村再建の最優先事項だからな」
俺が言うと、リリィが少し心配そうな顔をした。
「慎一様……しかし、この広大な土地を、私達三人だけで開墾するのは、かなり骨が折れるかと……」
リリィの言う通りだ。開墾は重労働だ。セシリアも、黙って頷いている。だが、俺には秘策がある。
「心配いらない。確かに人手は不足しているが、焦る必要はない。この地には、まだ『潜在的な労働力』が眠っているはずだからな」
俺は、村の周囲を改めて見渡した。人影はない。だが、遠く、周辺の森の奥から、微かな人の気配を感じる。危機管理(EX)が、それが危険なものではないと告げていた。恐らくは、この村から避難した元住民たちだろう。
村の再建計画の次のステップは、彼らを呼び戻すことだ。そのためには、再建への確かな希望と、生活の保証、そして何より「安心して暮らせる場所」を提示する必要がある。ゴブリンとの「安全区画」はそのための第一歩であり、蒸留器による特産品開発は、経済的な保証となる。
夕食後、俺は領主館の広間で、セシリアとリリィに、今後の計画について説明した。蒸留器で高純度アルコールを製造し、それを王都で売ることで資金を得る話。そして、その資金で村人を呼び戻し、村を再建する話。
「なるほど……。慎一様は、ただ魔物を討伐するだけでなく、新たな富を生み出すことで、この国を救おうとされているのですね……!」
セシリアが、感銘を受けたように言った。リリィも目を輝かせている。
「はい! この村が、また元に戻るなんて……! 私、頑張ります!」
よし、これで二人のモチベーションは完全に確保できた。人材配置(A)の成果だ。
辺境での三日目が終わり、明日からは本格的な開墾作業と、蒸留器を活用した特産品開発に向けた準備が始まる。俺のスローライフハーレム計画は、着実に、そして順調に進行していた。




