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日報056:共同作戦『大掃除』

今日は一気に6話も更新してしまいました。

書き溜めていた内容を大量放出してしまったので、明日からまた2-3話になってしまうかもしれませんが、更新をお待ちいただけると嬉しいです。

 その日の夕暮れ。俺たちの拠点である『金獅子亭』の馬屋には、山と積まれた物資と、誇らしげな仲間たちの顔があった。俺は、その光景に満足げに頷くと、改めて全員を集めた。


「皆、聞いてくれ」俺は仲間たちを見渡し、静かに、しかし力強く宣言した。「明日、我々はこの王都での戦いに、終止符を打つ」


 夜、作戦会議は、最終段階へと入った。

 まず、俺はハンスとゲオルグに向き直った。

「君たち二人には、明日の朝一番から、アジトの監視を再開してもらう。ただし、突入はするな。俺からの、合図があるまで、敵の動きに変化がないか、見張り続けてくれ」

「応ッ!」


 次に、俺はトムとリズに視線を移した。

「トム、リズ。君たち二人は、明日、この宿で待機だ。今日買い付けた大量の荷物の最終的な荷造りと管理を頼んだぞ。トム、リズをよろしく頼む」

「はい、お任せください!」「うん!」

 トムは責任感に満ちた顔で頷き、リズは元気よく返事をした。


 そして最後に、俺はフィリアに一枚の丸められた羊皮紙を手渡した。

「フィリア。これが君への最初の『仕事』だ」

 彼女がおそるおそるその羊皮紙を広げると、そこには俺が夜を徹して描き上げた、新しい蒸留器の詳細な設計図が記されていた。


「……すごい」

 彼女の職人としての目が、その複雑で、しかし合理的な構造に釘付けになる。

「これは今、村にある蒸留器の改良版だ。君のその類稀なる才能で、この設計図をさらに分析し、改良し、そして村へ帰ったらすぐに製造に取り掛かれるよう、完璧な開発計画を立案しておいてほしい。村の未来は、君のその腕にかかっている」


「……うん。わかった。やってみる」

 フィリアはそのとてつもない重責を、しかし、どこか嬉しそうに、そして誇らしげに受け止めてくれた。


 各員に指示を出し、その夜は、決戦を前に、誰もが、それぞれの覚悟を胸に、静かな眠りについた。


 辺境に来てから二十九日目の朝。

 王都での最後の仕事を片付けるべく、俺はセシリアを伴い、レオン・バルトの屋敷へと向かっていた。ハンスとゲオルグはすでにアジトの監視に、トムとリズは宿屋で荷物の管理に、そしてフィリアは蒸留器の開発計画に、それぞれ取り掛かっているはずだ。


「慎一様。本当に、レオン殿に全てをお話しなさるのですか?」

 馬車の中で、セシリアが少し不安そうな声で尋ねてきた。

「彼の組織内部の密偵の存在を明かすことになります。下手をすれば、彼との協力関係に亀裂が入るやもしれません」


「その可能性も考えた。だがこの『大掃除』を完璧に、そして迅速に成功させるには、彼の力が必要不可欠だ。何より彼も宰相とは敵対している。利害は完全に一致しているはずだ」

 俺はそう答えたが、内心では別の考えも巡らせていた。

(……あのレオン・バルトという男。本当に彼は何も気づいていないのだろうか?)


 白帆商会の壮麗な屋敷。その最上階にある彼の執務室に通されると、レオンは昨日までの商談の時とは違う、どこか張り詰めた表情で俺たちを迎えた。


「お待ちしておりました、シンイチ殿。あなたのそのお顔。どうやら面白いお話をお持ちくださったようですね」

 彼はすでに、何かが起こることを予期しているようだった。


 俺は単刀直入に切り出した。

「レオン殿。あなたの組織に巣食っていた『鼠』の正体と、その『ねぐら』が判明いたしました」

 俺はハンスが作成したアジトの位置を示す詳細な地図を、彼の目の前のテーブルに広げた。


 レオンはその地図を一瞥すると、表情を一切変えることなく、静かに口を開いた。

「……やはり、そこでしたか」


 そのあまりにも落ち着き払った反応。

 俺は自らの予測が確信へと変わるのを感じた。

「……ご存知でしたか」


「ええ」レオンはその完璧なポーカーフェイスを崩し、深く、そしてどこか疲れたような笑みを浮かべた。「我が白帆商会に宰相の息のかかった者が紛れ込んでいることには薄々気づいておりました。ですが下手にこちらから動けば、あの老獪な狐に攻撃の口実を与えることになる。長年巣食っていた『膿』をどう出すべきか、正直私も手をこまねいていたのです」


 彼は立ち上がり、窓の外の王都の景色を見下ろした。

「……そこへあなたが現れた。異世界から来た規格外の勇者。国王陛下と王女殿下の後ろ盾を持ち、そして何よりも宰相が喉から手が出るほど欲しがるであろう『富』を生み出す技術を持っている。あなたこそがこの膠着した盤面を動かす唯一の『駒』だと、私は最初から賭けていたのですよ」


(……やはり、そうか)

 俺は背筋に冷たい汗が流れるのを感じていた。

(この男、俺が鼠の存在に気づき、その尻尾を掴むことすら、計算の内だったというのか……! 俺は彼と協力していたつもりだった。だが同時に彼の掌の上で踊らされてもいたのだ)


 恐ろしい男だ。

 だがその恐ろしさ以上に、俺は彼という最強の同盟者への揺るぎない頼もしさを感じていた。

「……あなたのその慧眼。恐れ入りました、レオン殿。まんまとあなたの筋書き通りに動かされたという訳ですな」


「ふふ。人聞きの悪いことを。私はただあなたという類稀なる才能が存分にその力を発揮できる舞台を整えたに過ぎませんよ」

 レオンは悪戯っぽく笑った。

「それで? その舞台の最終幕は、どのように演じられるおつもりで?」


「共同作戦をご提案したい」俺は答えた。「あなたにこの『大掃除』の総指揮をお任せしたいのです」

 俺のその意外な言葉に、今度はレオンが目を見開いた。


「このアジトの制圧作戦。その兵力の指揮権をあなたに委ねます。あなたの手練れの護衛部隊と我々のハンスとゲオルグを共に動かしていただきたい。その代わりそこで手に入れた『証拠』は全て私が頂戴する。……いかがですかな?」

 それは互いの専門分野を尊重しそして利益を最大化するための最も合理的な提案だった。


 レオンはしばらく黙り込んだ後、やがて腹の底から楽しそうに笑い出した。

「くっくっく……面白い! シンイチ殿、あなたは本当に最高のビジネスパートナーだ! よろしい! その共同作戦、謹んでお引き受けしましょう! 我が白帆商会の全戦力をもって、あなたの最後の『仕事』を完璧にサポートさせていただきます!」


「ではまず……セバス、その男を捕らえろ」


 レオンがそう言うと、傍に控えていた老執事セバスが、その年齢からは想像もつかないほどの速さで動いた。お茶を運んできた、あの古参の給仕の男の背後に音もなく回り込み、その首根と腕を瞬時に捻じり上げる。

「ぐっ! な、何をするのですか、当主様!」

 給仕の男はあくまでも白を切るようだが、レオンは冷たく言い放った。


「お前が父の代から宰相に情報を売っていたのは分かっている。ここまで泳がせていたが、それももうおしまいだ」

 男は観念したのか、がっくりと膝から崩れ落ちた。


「なるほど、そこまでご存じでしたか。本当にレオン殿は抜け目がない」


「いえいえ。商売には事前準備と迅速な対応が重要なのです。好機が来たなら迷わず動く。それが商人には必要な才能なのですよ」

 にこやかな顔を崩さずに話すレオンだが、その瞳はどこまでも鋭かった。


「……なるほど。流石ですな。それでは……」


「ええ、始めましょう。この男が定時連絡をしていたとしたら、その連絡が途絶えれば、相手も気づくかもしれません。こうして取り押さえた今、可能な限り迅速に、突き止めたアジトを抑えるべきです」

 レオンが、そう言うと、作戦は即座に開始された。


 彼の執務室がそのまま作戦司令室と化す。

 彼の指示で、白帆商会の私兵の中でも特に腕利きの二十名が密かに召集された。彼らは商人ギルドの査察官やあるいは街のチンピラなど様々な姿に変装し、アジトであるアパートメントの周囲数百メートルの全ての路地を完全に封鎖していく。


 宰相を追い詰めるための最後の仕上げが、いま始まろうとしていた。

王都の攻防も、いよいよクライマックスです。

慎一の快進撃をぜひお楽しみください。


それと、もしよかったら、小説を評価してもらえると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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