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日報039:総務部長の答弁と、王の決断

 辺境に来てから二十日目の昼下がり。

 王城の玉座の間は、巨大なステンドグラスから差し込む光が、磨き上げられた大理石の床に複雑な模様を描き、荘厳な、しかし、どこか人を寄せ付けない冷たい空気が支配していた。その静寂を破ったのは、玉座に座る国王陛下から発せられた、俺という存在の本質を問う、重く鋭い一言だった。


 その言葉が、壮麗な空間の隅々まで響き渡る。隣に立つセシリアは、鎧の下で、か細い息を呑んだのが分かった。玉座の傍らに控えるルナリア王女は、祈るような、しかし強い意志を宿した眼差しで俺を見つめている。そして、その反対側に立つ宰相デューク・バレッタスは、蛇のように細めた目で、俺がどう答えるのかを、値踏みするように観察していた。


 俺は一呼吸置いた。ここで下手に理想論や綺麗事を並べ立てても、この百戦錬磨の老人たちにはすぐに見透かされるだろう。必要なのは誠実さ、そして彼らが納得せざるを得ない、圧倒的な『事実』と『論理』だ。ビジネスのプレゼンテーションと何ら変わりはない。


 俺はゆっくりと、しかし真っ直ぐに玉座の王を見据え、口を開いた。

「国王陛下。私がこの力で成し遂げたい真の目的は、魔王を討伐することでも、勇者として名声を得ることでもありません」


 俺のその予想外の言葉に、玉座の間の空気がざわついた。宰相の口元に嘲るような笑みが浮かぶのが視界の端に映る。

 俺は構わず続けた。

「私の目的はただ一つ。私が統治を任されたあの辺境の地を、誰からも脅かされることのない、豊かで平和な、自立した場所にすること。そして、そこに住む仲間たちが明日の食事を心配することなく、笑顔で暮らせる未来を作ることです」


 それは俺の偽らざる本心だった。もちろん「ハーレム」という下心は隠しているが。

「そのささやかな日常を守り育むこと、それこそが私の戦いです」


「……ほう。随分と、ささやかな目的じゃな」

 王が、初めて、その瞳に、純粋な興味の色を浮かべて呟いた。

「ではその目的のために、そなたは、その規格外の力をどう使うというのか?」


「はい。そのために私は、これら『資産』を用いて、王国に三つの具体的な『利益』をもたらします」

 俺は総務部長として、幾度となく役員会議で、気難しい役員たちを相手に、プロジェクトの予算を通してきた。その経験の全てを、この場に注ぎ込んだ。


「第一に『経済的な利益』です。この『森の雫』と『高品質回復薬』は、王都の富裕層やギルドにとってこれまでにない新たな価値を提供します。例えば、この十年物の『森の雫』一本で、一般市民の数ヶ月分の生活費に相当する富が動くでしょう。これが安定的に流通すれば、王国には新たな市場が生まれ、莫大な税収がもたらされます。そして、この『ミスリル』の安定供給は、武器や防具の質を飛躍的に向上させ、王家の財政基盤そのものを、より強固なものとします」


「第二に『軍事的な利益』です。我が村が辺境の地に確固たる経済基盤を持つ要塞村として存在することで、そこは魔王軍に対する強力な緩衝地帯、そして前線基地となります。有事の際には、王都から遠く離れた前線へ、食料や物資を安定的に供給する、兵站の要となるでしょう。また『高品質回復薬』の安定供給は、貴重な熟練兵の命を救い、王国軍全体の士気と生存率を、飛躍的に向上させます」


「そして第三に『社会的な利益』です」

 俺は、ここで、初めて宰相の冷たい瞳を真っ直ぐに見据えながら言った。

「宰相閣下は先ほど、我が村の技術を王国が直接管理すべきだとおっしゃいました。それは一見、最も安全で、効率的な方法のように聞こえます。ですが、それは短期的な視点に過ぎません」


 俺は言葉を続けた。

「今の我が村の目覚ましい発展はなぜ生まれたのか。それはそこに住む者たちが『誰かのために』ではなく『自分たちの未来のために』働いているからです。自分たちの努力が直接、明日の生活の豊かさに繋がる。その強いモチベーションこそが、生産性を最大化させるのです。もしこれを、手続きと規則を重んじる内務省の官僚の方々が管理する国営事業とすれば、彼らはただの賃金労働者となり、その輝きと、創意工夫は失われるでしょう」


「そして何よりも重要なのはリスク管理です。この蒸留技術や熟成の技術はまだ生まれたばかりの未知のものです。これをいきなり王都で大々的に管理すれば、その機密は必ずや他国の、あるいは宰相閣下のような王国を憂うあまりの方々の、政争の具となりましょう。技術が盗まれ、悪用されるリスクは計り知れません。今はまだ、辺境の辺鄙な村で、我々信頼できる少数の仲間だけでその秘密を守りながら、慎重に育てていくべき段階なのです」


 宰相は俺のその理路整然とした、しかし痛烈な皮肉を含んだ反論に、顔を引きつらせていた。

 俺は最後に玉座の王に向き直り、深く頭を下げた。


「国王陛下。私が望むのはただ一つ。あの辺境の地で私に自由な裁量権をお与えいただき、私が作り上げたこの小さな『会社』の経営を私に任せていただきたいのです。そうすれば私は必ずや、このアースガルド王国という巨大な株主様に、最大の利益を還元することをお約束いたします」


 玉座の間は、完全な静寂に包まれていた。

 俺の前代未聞の答弁を、そこにいる誰もが息を殺して聞き入っていた。


 長い長い沈黙の後、玉座の王が口を開いた。

 その声は静かだったが、確かな決意に満ちていた。

「……面白い」

 王はそう言うと、ゆっくりと、玉座から立ち上がった。

「……実に面白い。勇者よ。そなたは剣も魔法も使えぬと聞いた。だがそなたは、この王国にいる誰よりも強かな『武器』を持っておる。それは未来を見通し、人を動かし、富を生み出す、知恵という武器じゃ」


 王は宰相を一瞥した。

「宰相。そなたの懸念も分かる。この男のやり方は、我々の知る、王国の理とは、あまりにも違う。だが、同時に、この、停滞した王国に、新しい風を吹き込む、唯一の可能性かもしれん。わしは、この老いぼれの最後の人生で、これほど胸が躍る博打に乗ってみたくなったわ」


「陛下!?」


「決定じゃ」王は宰相の言葉を遮った。「勇者サトウ・シンイチ。そなたに辺境調査区画の全権を委任する。そしてそなたの事業の一切の自由を保証しよう。ルナリア、後で正式な『王室勅許状』を作成させよ」

「は、はい! 父上!」

 ルナリア王女が、歓喜の声を上げる。


 宰相デューク・バレッタスはその場で崩れ落ちんばかりに膝を折り、しかしその蛇のような瞳は俺を射殺さんばかりの憎悪の炎で燃え上がっていた。


 宰相(……おのれ、小僧……! 王女だけでなく、陛下までも誑かしおって……! だがこれで終わったと思うなよ……。貴様のその村ごと、必ず我が手に……!)


 こうして俺は、国王と宰相というこの国のツートップを相手にした最大のプレゼンテーションに、完全な勝利を収めた。

 それは剣でも魔法でもない。

 四十路の総務部長が、その人生の全てを賭けて培ってきたスキルと経験、そのすべてをぶつけた戦いだった。


 俺たちの王都での「事業」は、最大の障壁を乗り越え、今、本当の意味でそのスタートラインに立ったのだった。

ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。


国王と宰相を前にした、慎一の総務部長としてのプレゼンはいかがでしたでしょうか。


アクセス数を見て、皆様に見て頂けているなと頑張って書き上げていこうと励みになっていますが、ブックマーク登録や評価を頂けるともっと頑張れると思います。


物語が面白い、続きが気になる、と感じていただけましたら、ぜひページ下の【★★★★★】で評価をいただけますと、大変うれしく思います。


感想や、誤字報告なども、今後の執筆の大きなモチベーションとなりますので、お気軽にいただけますと幸いです。


これから王の勅許を得た慎一の、王都での本格的な『事業』が、いよいよ始まります。

まだしばらく王都に滞在して、ちょっとしたイベントが起きますが、なるべく早く村に帰らないといけない状況ですので、今回の出張は早めに切り上げて村に帰り、村の発展フェーズに移ります。


そこでは色々な種族が出てきたり、キャラクターも増える予定ですので、今後の展開も是非楽しみ美しててください。


物語の進行状況としては、たぶん20%くらいかなと思ってます。(途中で設定が膨らんでもっと長くなるかもしれませんけども・・・)


まだまだ、面白くなる展開を考えていますので、総務部長を今後ともよろしくお願いいたします。


それでは、次回も、お楽しみに!

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