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日報017:チームの発表、それぞれの初期目標

 辺境での八日目の朝。

 領主館の広間は、新たな生活の始まりを告げる、静かな熱気に満ちていた。エリナが率いることになる「生活支援チーム」の女性たちは、既に共同井戸と炊事場を往復し、配給制となった朝食の準備を手際よく進めている。その周りでは、昨日までの不安が嘘のように、子供たちの無邪気な声が響いていた。


 俺は、新たに「村」と呼ぶにふさわしい規模になった仲間たちを、広場の前に集めた。新体制での、最初の全体朝礼だ。


 「皆、おはよう。今日から、この村の本格的な復興作業を開始する。だが、その前に、皆に共有すべき、我々が直面している課題と、その対策について話しておきたい」


 俺がそう切り出すと、和やかだった広場の空気が、ピリッと引き締まった。


 「皆も知っている通り、我々には王宮から支給された、当面の食料がある 。だが、それは元々三人で三ヶ月暮らすための量だ 。人口が三十人近くに増えた今、このままでは、あと十日もたずに食料は底を突く」


 その事実に、村人たちの顔に、再び不安の色がよぎる。しかし、俺は彼らを安心させるように、穏やかに続けた。

 「だが、心配は無用だ。この問題は、昨夜、君たちの代表者たちとの会議で、既に対策を決定済みだ。今日から、我々は一丸となって、この課題を乗り越える!そのために、村をいくつかの専門チームに分け、全員がそれぞれの役割を担ってもらう!」


 俺は、まず棟梁のトランに向き直った。

 「まず、皆が住む家を建てる『建設チーム』! リーダーは、棟梁のトラン殿だ!」


 「おう! だが、俺一人じゃ家は建たねえ。腕利きを何人かつけさせて貰うぜ」

 「もちろんだ。あなたの目にかなう者を、自由に選んでほしい」

 「よし!」トランはニヤリと笑うと、集まった男たちの中から、体格が良く、手先が器用そうな男たちを、指で次々と指名していった。「てめえと、そこのお前。それから、そっちの若い衆もだ。俺のチームに入れ。文句は言わせねえ。その代わり、家づくりのイロハを、みっちり叩き込んでやる!」


 指名された男たちは、厳しい棟梁の言葉に身を震わせながらも、その目に光栄の色を浮かべていた。俺は、その新生チームに最初の目標を告げた。


 「棟梁。まずは、昨日見ていただいた三軒の家屋を、一週間で居住可能な状態にまで修復してほしい。資材の管理はエリナ殿と連携してくれ」


 「へっ、一週間だと? 無茶を言う。……だが、やりがいはあるな。任せとけ!」


 「次に、我々の未来の食料を育む『農業チーム』! リーダーは、ジーク殿に任せる!」


 昨夜の指名で、すでに覚悟を決めているジークは、驚くことなく一歩前に出た。

 「へへっ、慎一様に指名されちまったからには、やるしかねえ! 姐さん方、男衆、力を貸してくれ!」

 「ジーク殿。君のチームの当面の目標は三つだ。まず一つ、我々が最初に来た時にまいた麦の畑の管理。あれは、我々の長期的な主食となる大事な作物だ。しっかり育ててほしい。二つ目に、現在開墾中の第一区画を三日以内に完全に耕し終えること。そして三つ目、これが最も急ぎの仕事だ」


 俺はそこで、集団の中にいた一人の女性に視線を移した。

 「ミーラ殿」

 「は、はいっ!?」

 突然名を呼ばれ、ミーラという名の、そばかすが特徴の気弱そうな女性が、びくりと肩を震わせた。


 「エリナ殿から、あなたが植物にとても詳しいと聞いている」

 俺がそう言うと、ミーラは戸惑ったようにエリナの方を見た。エリナは、励ますように優しく頷いている。

 「そこで、君に専門家としてアドバイスを請いたい。ジーク殿が耕した新しい畑に、すぐに収穫が見込める作物を植えたいんだ。この土地の土や気候で、最も早く育つ芋や葉物は何だろうか?」


 専門家として意見を求められたことに、ミーラは驚きながらも、少しずつ口を開いた。

 「え……ええと、この辺りの土地なら、カブや、根の短いイモ類が……。日当たりが良い場所なら、葉物も一月もあれば、食べられるくらいには……」

 「素晴らしい情報だ。ありがとう」俺はミーラに礼を言うと、ジークに向き直った。「ジーク殿、今のミーラ殿のアドバイスを基に、すぐに収穫が見込める作物の種まきを開始してほしい。これが三つ目の目標だ」

 「おう、分かった! さすがミーラだ! 頼りにしてるぜ!」ジークが快活に言うと、ミーラは顔を真っ赤にして俯いた。


 そして、俺は再びミーラに向き直った。

 「そしてミーラ殿、君の知識は、畑の中だけに留まらない。『現地調達チーム』にも、専門家として参加してほしい。森に自生する野草やキノコを見分ける、君の知識が不可欠だ。農業チームへの助言と、調達チームでの実務。二つの重要な役目になるが、引き受けてくれるか?」

 ミーラは、自分にこれほど重要な役割が与えられたことに、信じられないといった表情を浮かべたが、やがて、小さな、しかし確かな声で「……はい。私で、お役に立てるなら……」と頷いた。


 「そして、この村の未来の富を生み出す『鉱山チーム』! リーダーは、ガルフ殿!」

 「おう!」ガルフが、待ってましたとばかりに前に出る。「鉱山のことは俺に任せな。こいつとこいつ、ついてこい!」

 「ガルフ殿。君のチームの当面の目標は、採掘ではない。あくまで『安全な採掘路の確保』だ。昨日運んだ木材を使い、三日で入り口から三十メートルの区間を、完璧に補強してくれ。安全が確認されるまで、一本たりとも鉱石を掘り出すことは許可しない」

 「……慎重なこった。だが、それが一番なのは分かってる。承知した!」


 俺は、最後に、この村の当面の生命線を託す男の名を呼んだ。

 「そして、我々が今日を、明日を、生き延びるための『現地調達チーム』! リーダーは、バルド殿だ!」


 バルドは、村人全員の視線を受け、固い表情で一歩前に出た。


(バルドは、口下手な自分にリーダーが務まるのか、その重圧に押しつぶされそうになっているのが分かる。肩は強張り、固く握られた拳は、わずかに震えている。だが、その目には、恐怖ではなく、仲間を飢えさせないという、静かで、しかし燃えるような決意が宿っている。彼なら、必ずやり遂げるだろう)


 俺は、リーダーとなったバルドに、具体的で、しかし最も重い目標を与えた。

 「バルド殿。君のチームの目標は、シンプルかつ最重要だ。我々全員が、毎日、温かい汁物を一杯多く飲めるだけの食料を、安定して確保すること。無理はするな。だが、この村の命運は君たちの双肩にかかっている。頼んだぞ」

 バルドは、その言葉の重みを噛み締めるように、深く、力強く頷いた。


 「そして、そのリーダーを支える専門家たちを紹介する!」

 俺は、集団の中にいた老人と、ミーラを真っ直ぐに見た。

 「罠作りの名人であるギンター殿! 野草に詳しいミーラ殿! 君たちの知識と経験が、このチームの成果を何倍にも引き上げてくれるはずだ。ぜひ、力を貸してほしい!」


ギンターと呼ばれた老人は、ニヤリと口の端を上げ静かに頷き、ミーラはおどおどしながらも、こくりと頷いた。


 「だが、森は危険も伴う。この最も危険な任務に赴く彼らの安全は、王国騎士であるセシリア殿とリリィ殿が、完璧に保証してくれる!」

その言葉に、村人たちから安堵の声が漏れる。屈強な騎士二人が護衛につく。これ以上の保証はない。

「「はっ!」」セシリアとリリィが、力強く応える。


 俺はさらに、人混みの中にいた、少し目つきの鋭い二人の男に声をかけた。

 「それから、ハンス殿、ゲオルグ殿」

 不意に名前を呼ばれた二人は、驚いたように、しかしどこか挑戦的な目でこちらを見た。


 「トラン殿から、二人が傭兵としての経験を持つと聞いている。その腕、この村のために振るってはくれないか?」

 俺がそう問いかけると、二人は意外そうな顔をした。自分たちの、荒事に関わってきた過去が、このような形で評価されるとは思っていなかったのだろう。


 「君たちには、騎士二人と共に、調達チームの護衛に加わってもらう。騎士が前衛と後衛を固め、君たちには側面からの奇襲や、罠の発見など、より専門的な警戒を頼みたい。君たちの経験が、このチームの生存率を大きく引き上げるはずだ」


 俺の言葉に、二人の顔が、驚きから、やがて獰猛な笑みへと変わっていった。それは、自分たちの能力が正当に評価され、存分に振るえる場所を与えられた、戦士の喜びの表情だった。

 「「応ッ!」」

 短く、しかし気合の入った返事が、二人のやる気を物語っていた。


 「さて、各作業チームは以上だ。そして、俺自身の仕事だが」俺は全員を見渡した。「俺の仕事は、この村全体の計画を立て、資源を管理し、君たちが路頭に迷わないよう、未来への道を切り開くことだ。蒸留器での特産品開発も、その一環だ 。だが、この仕事は一人ではできない。そこで、『生活支援チーム』のリーダーであるエリナ殿には、村の内務の責任者として、俺の補佐役も兼任してもらいたいと思う」


 「えっ……わ、私が、ですか?」


 「そうだ。エリナ殿。君の最初の仕事は、全物資の再棚卸しと、正確な配給計画の策定だ。特に、子供たちや、建設のような重労働に従事する者への、栄養を考慮した優先配分を頼む。君の采配が、村全体のパフォーマンスを左右する」


 エリナは、その役目の重さに、一瞬言葉を失ったが、やがて、強い決意を瞳に宿して、深々と頭を下げた。「……はい。未熟者ですが、慎一様のお力になれるよう、精一杯、務めさせていただきます」


 これで、全ての布陣が整った。そう思った時だった。

 子供たちの中から、一番年嵩の少年が、おずおずと一歩前に出てきた。

 「あの……勇者様! 俺たちも……俺たちも、何か手伝いたい!」


 その言葉に、他の子供たちも「うん!」「手伝う!」と声を上げる。

 俺は、その小さな勇気に応えるべく、膝をかがめて、少年の目線に合わせた。


 「ありがとう。君たちの気持ち、とても嬉しい。もちろん、君たちにも、やれることはたくさんある。君たちも、この村の大切な一員だからな」

 俺は【癒しの笑顔(C)】で、子供たちに語りかけた 。


 「年の大きい子たちは、トラン殿の手伝いで、安全な場所で木屑を集めたり、釘を運んだりしてくれないか。小さい子たちは、エリナ殿のチームで、豆の皮を剥いたり、布を畳んだりするのを手伝ってほしい。君たちの小さな働きが、大人たちを大きく助けることになるんだ」


 「「「はいっ!!」」」

 子供たちの、今日一番元気な返事が、広場に響き渡った。親たちは、涙ぐみながら、誇らしげに我が子を見つめている。


 俺は立ち上がり、それぞれの役割を得て、新たな顔つきになった仲間たちを見渡し、最後の言葉を告げた。

 「以上が、我々の新しい体制だ! それぞれが、それぞれの持ち場で、自分の役割を全うすること! 我々は、もはや難民ではない! この村を、自分たちの手で、世界一豊かな場所に作り変える、開拓者だ! 目標は明確だ! 全員、配置につけ!」


 「「「オオオオオオッ!!」」」


 地鳴りのような雄叫びが、辺境の空に響き渡った。

 大人も、子供も、男も、女も。共有された課題と、明確な目標の下に団結し、村は真の組織として、その産声を上げた瞬間だった。

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