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日報013:午後の計画変更と新たな礎

 昼食休憩の終わり、領主館の広間は静かな、しかし確かな熱気に満ちていた。俺の提案を受け、ガルフ、バルド、ジークの三人は、溢れる感情を抑えきれないといった様子で、ただ深々と頭を下げ続けている。彼らの目には、単なる安堵ではない、未来そのものを託すかのような強い光が宿っていた。セシリアとリリィも、この急展開に驚きつつも、俺の決定に静かに頷き、その様子を見守っている。


 総務部長として、この好機を逃す手はない。プロジェクトの成功は、機運を捉え、適切なリソースを即座に再配分できるかにかかっている。感傷に浸っている暇など、一秒たりともなかった。


「よし、全員顔を上げろ!」


 俺はパンの最後の一切れを口に放り込むと、ポンと手を叩き、皆の意識を現実に引き戻した。その声に、全員の視線が一斉に俺へと集まる。


「計画を前倒しで変更する! 本日午後からの作業内容は、すべて『新規移住者の受け入れ準備』に切り替える!」


 俺の宣言に、広間の空気がピリッと引き締まった。特にリリィは、農地開墾用の鍬を握りしめたまま、ぱちくりと目を瞬かせている。彼女の頭の中では、午後の開墾計画がまだ回っていたのだろう。


「ガルフ殿たちの仲間、そして何より村の再建に不可欠な大工を呼び寄せる以上、彼らが到着した時に『住める場所』の目処が立っていることが、彼らにとって最大の安心材料となる。本日午後からの目標は、彼らが住むことになる家屋の選定と、修繕に向けた初期作業だ!」


 その言葉に、ガルフたち三人の顔が、驚きと感謝、そして新たな決意に満ちて輝いた。自分たちの未来のために、これほど迅速に計画が動く。そのスピード感こそが、何よりの信頼の証となるはずだ。


「では、直ちに役割を再設定する。まず、俺とセシリア殿、そしてガルフ殿は、村の廃屋を再度、詳細に調査する。修繕の優先順位と、具体的な作業計画を立案するためだ」


 「承知いたしました」とセシリアが凛とした声で応じる。


 「バルド殿、ジーク殿。君たちには、俺たちが選定した家屋周辺の、徹底的な整地作業を頼む。生い茂った雑草を刈り払い、崩れた石壁などの瓦礫を安全な場所へ移動させてくれ。棟梁が来て、すぐに計測や基礎工事に取り掛かれるようにするためだ」


 「おう、任せとけ!」「腕が鳴らわい!」と二人は力強く応えた。


 「そしてリリィ殿。君には、領主館の物置にある、王都から支給された工具一式の点検と整理を頼みたい。錆を落とし、いつでも誰でも使えるように分類しておいてくれ。これも重要なインフラ整備の一環だ」


 「は、はいっ! お任せください!」


 リリィは、畑仕事とは違う新たな任務に、少し戸惑いながらも、その瞳を輝かせた。人材配置(A)が告げている。彼女は現場監督だけでなく、こうした兵站管理ともいうべき裏方の仕事にも高い適性を示していた。


 午後の作業が始まると、村の空気は一変した。

 俺はセシリアとガルフを伴い、改めて廃屋群へと足を踏み入れた。ただ見て回るのではない。「住居」という明確な目的を持った上で、一軒一軒、内部の損傷具合、基礎の状態、屋根の崩れ方を見て回る。精密な調査だ。


 「この家は南向きで日当たりが良いが、壁の亀裂が深いな。危機管理(EX)の分析では、補強に鉄製のかすがいが最低でも八本は必要だ。修繕の難易度は中程度」


 「こちらの家は、屋根に大きな穴が空いていますが、壁と柱はまだ生きています。屋根さえ塞げば、比較的早く住めるようになるかと」


 セシリアが、騎士ならではの鋭い観察眼で建物の状態を報告する。それと並行して、俺の危機管理(EX)スキルも、それぞれの建物の構造的な危険性を瞬時に分析し、頭の中で書類作成(B)スキルをフル稼働させる。脳内に、それぞれの家屋の修繕マニュアルが、画像付きの詳細な工程表として構築されていくのだ。


 「慎一様、この家なら、俺たちも見たことがある。前の村長が使ってた家で、造りは一番しっかりしてるはずだ」

 ガルフが指差したのは、少し離れた場所にある、他の家より一回り大きな石造りの家だった。


 「なるほど。では、まずはあの家と、セシリア殿が報告してくれた壁が残っている家、合わせて三軒を最優先で修繕する。よし、バルド殿、ジーク殿。二人には、あの三軒の周辺の瓦礫撤去と、雑草の刈り取りを頼む。棟梁たちが到着した時に、作業がしやすいようにしておくんだ」


「「あいよ!」」と二人は威勢よく応え、早速作業に取り掛かってくれた。


 バルドとジークは、先ほどまでの農地開墾とは違う、自分たちの「家」を作るための仕事に、一層の活力を得たようだった。彼らは早速、力強く瓦礫を運び出し、生い茂った雑草をなぎ払っていく。


 俺とセシリア、そしてガルフは、引き続き他の家屋も見て回りながら、必要な資材のリストアップを行った。書類作成(B)スキルで、頭の中に完璧な修繕計画書と、資材調達リスト、作業工程表を組み上げていく。


 「木材は、この裏の森から切り出せば十分な量が確保できるだろう。問題は釘や、窓ガラスのような細かい部品だが……」


 「慎一様、王都から支給された物資の中に、簡単な修理用の工具一式と、釘などの消耗品も含まれておりました。当面はそれで賄えるかと」


 セシリアの的確な報告に、俺は頷いた。まさに総務部長の右腕だ。彼女の管理能力は、日に日に向上している。


 一方、領主館の物置では、リリィが騎士服の袖をまくり、一心不乱に工具と向き合っていた。錆びた鋤や斧を砥石で磨き、大きさや用途別に分類して棚に並べていく。その真剣な横顔は、もはや単なる騎士ではなく、この村の未来を支える、頼もしい管理者のものだった。


 夕暮れが迫り、その日の作業が終わる頃には、村の風景は数時間前とは一変していた。修繕対象の家屋三軒の周りは、いつでも建築作業に取り掛かれるように綺麗に整地され、物置の工具は見違えるように輝きを取り戻していた。


 領主館に集まった全員の顔には、心地よい疲労と、それを遥かに上回る達成感が浮かんでいた。


「皆、素晴らしい働きだった。ご苦労様。今日の作業で、我々は新たな仲間を迎えるための、確かな礎を築くことができた」

 俺が労いの言葉をかけると、皆の顔に誇らしげな笑みが広がった。


「ガルフ殿。明日の朝一番で、君の村へ出発してくれ。説得、頼んだぞ」

「はい、慎一様! 必ずや、この村の素晴らしさと、慎一様の御心を伝え、腕利きの棟梁を連れて戻ります!」


 ガルフは、力強く胸を叩いた。


 辺境での六日目が終わろうとしている。俺の当初の計画を遥かに超える速度で、プロジェクトは進行し、人も、未来も、この村に集まり始めていた。四十路のおっさんの異世界スローライフは、もはや単なる夢想ではなく、着実に現実のものとなりつつあった。

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