日報012:新体制下の初日
「よし、皆、持ち場につけ。無理はせず、安全第一で頼むぞ」
俺が声をかけると、それぞれが力強く返事をして、広間から出ていった。リリィはバルドとジークに、ガルフは単独で、セシリアは俺と共に、それぞれの業務を開始する。
まずは、農場チームだ。バルドとジークは、領主館の物置から見つけた錆びた農具──鍬や鋤を手に、広大な農地へと向かった。彼らの力強い背中には、新たな仕事への希望が満ちている。リリィもその隣で、指揮を執るかのように、しかし自らも鍬を握りしめて歩いていく。
「リリィ殿、君の役割は『現場監督』だ。無理に全てを一人でこなそうとしないように。バルド殿とジーク殿に、効率的な作業方法を指導し、彼らの能力を最大限に引き出すのが君の仕事だ。休憩もこまめにとるように指示してやってくれ」
俺が念を押すと、リリィは「はい、承知いたしました!」と元気よく答えた。彼女はまだ農作業の経験は浅いが、騎士として培った規律と、学習能力の高さがあれば、すぐに順応するだろう。人材配置(A)が、彼女がこの役割で確実に成果を出すと告げている。
次に、ガルフだ。彼は、俺が書類作成(B)スキルで作成した、安全対策の図面と指示書を片手に、森の奥へと消えていった。ミスリル鉱脈の安全確保は、この村の将来的な財源を左右する重要な業務だ。彼の経験と、俺の危機管理(EX)スキルが導き出した安全な手順があれば、危険を最小限に抑えつつ作業を進められるはずだ。
そして、俺とセシリアは、作業小屋へと向かった。蒸留器の本格稼働だ。昨日試運転した異世界の果物はまだ少量しか確保できていないが、まずは、他の果物での精製も試す必要がある。
「セシリア殿、このマニュアルを頼む。今日は、まず数種類の果物を使い、それぞれからどれくらいのアルコールが取れるか、効率を測定したい。そして、村の周囲に自生している薬草なども採取してきてほしい。 それらから薬用抽出液が精製できないか、試してみる」
俺が指示を出すと、セシリアは手際よくマニュアルを手に取った。彼女は蒸留器の構造を素早く理解し、必要な準備に取り掛かる。
「承知いたしました、慎一様。薬草の種類については……そうですね、私どもの騎士団の薬草学の知識を応用してみましょう。この辺りの植生も、王都のそれとは異なりますから」
セシリアの返答に、俺は頷いた。騎士団が薬草学の知識を持つとは意外だったが、彼女の冷静な判断力と知識欲は、新たな発見に繋がるだろう。
俺は蒸留器のそばに座り、マニュアルを読み込みながら、頭の中で予算管理(S)をフル稼働させる。高純度アルコールだけでなく、薬用抽出液も開発できれば、村の収益源はさらに多様化する。王都の貴族や商人だけでなく、薬師や医者にも需要があるだろう。まさに、新たな市場の開拓だ。
蒸留器からポタポタと流れ落ちる透明な液体。それぞれの果物から抽出された液体は、香りが異なり、アルコール度数もわずかに違うようだった。書類作成(B)で、それぞれの試作結果を詳細に記録していく。最適な材料と、最適な精製方法を見つけることが、品質の高い特産品を生産する第一歩だ。セシリアは、俺の指示に従いながら、精密な作業をこなしている。彼女の器用さは、蒸留器の細かな調整にも役立っていた。
午前中、それぞれの持ち場で作業は順調に進んだ。領主館の広間は、蒸留器の熱と、様々な果物や薬草の香りで満たされていた。農地からは、男たちの力強い鍬の音が響き、森の奥からはガルフのツルハシの音が微かに聞こえる。
昼食時、皆が領主館の広間に集まった。泥だらけのバルドとジーク、額に汗を滲ませたガルフ、そして普段の騎士服を汚しながらも充実した表情のリリィとセシリア。簡素な保存食の昼食は、皆の胃袋に染み渡るように美味しかった。
「慎一様、農地は予定の半分ほど、粗くですが耕せました! リリィ殿の指示は的確で、俺たちも驚くほどです!」
バルドが興奮気味に報告する。リリィは少し照れたように俯いているが、その顔には確かな達成感が浮かんでいる。人材配置(A)の成果が、早くも目に見える形で現れている。
「ミスリル鉱脈の安全確認も、危険個所を全て特定いたしました。慎一様のご指示通りの支柱も設置済みです。明日からなら、安全に採掘に取り掛かれるかと!」
ガルフが、誇らしげな顔で報告した。彼の目には、プロとしての自信が漲っている。
「皆、ご苦労様。今日の働きは見事だった。この調子でいけば、村の復興は想像以上に早く進むだろう。本当にありがとう」
俺が労いの言葉をかけると、皆の顔に笑顔が広がった。特に男たちは、安定した仕事と、自分たちの努力が認められることに、深い喜びを感じているようだった。
昼食を終え、午後の作業に取り掛かろうとしたその時だった。ガルフが、おずおずと口を開いた。
「あの、慎一様……一つ、ご相談があるのですが……」
「何だ、ガルフ殿。遠慮なく言ってみてくれ」
「は、はい。俺たち、昨夜からこちらの村で働かせてもらう事になりましたが、俺たちの村からここまで毎日通うのが、正直なところ、かなり……大変でして。もし可能であれば、この村に、一時的にでも住まわせていただくことはできないでしょうか……?」
ガルフの言葉に、バルドとジークも、期待と不安が入り混じったような目で俺を見つめた。彼らの村はここから歩いて数十分かかる距離だ。毎日の往復は、肉体的に大きな負担だろう。そして、彼らの村も飢えに苦しんでいると聞く。
まさに、これは「潜在的な労働力」を「恒常的な村の住民」へと変換する、絶好の機会だ。
俺は内心でほくそ笑んだ。人材確保の次の段階だ。
「なるほど。それは、君たちにとって大きな負担だろうな。……いいだろう。この村に、君たちの住居を用意する。ただし、条件がある」
俺がそう告げると、三人の男たちは目を輝かせた。セシリアとリリィも、興味深そうに耳を傾けている。
「一つ。君たちの村の他の者たちにも、この村の復興への参加を募りたい。この村が安全で、そして豊かに暮らせる場所になることを、君たちが証人となって、説得してほしい。もちろん、この村で働いてくれる者には、安定した仕事と食料、そして居住地を提供する」
ガルフは、目を見開き、信じられないといった様子で俺を見つめた。
「そ、そんなことが……! 俺たちの村の者たちも、この村に来て良いと!? しかも、安全な住処と、仕事と、食料まで……!?」
「ああ。君たちの村の現状は、私も把握している。飢えに苦しんでいると聞いた。この村を再建し、豊かにすることは、王国全体の利益にもなる。だからこそ、人材はいくらでも欲しい」
俺は、癒しの笑顔(C)──今回は「安心と希望を与える笑顔」をガルフたちに向けてやった。彼らの目から、涙が溢れているのが見えた。
「は、はい! 謹んでお引き受けいたします! 俺の命に代えても、皆を連れてきてみせます!」
ガルフは深々と頭を下げた。バルドとジークも、震える手で目元を拭っている。
「ただし、直ちに全員を呼び寄せるのは難しい。まずは、君たちがここに住むための仮設住居が必要になる。それに、君たちの村から大工を呼んで、この村の家屋の修繕、そして必要であれば新しい家屋の建設も手伝ってほしい。もちろん、大工にも正当な対価は支払う」
俺がそう告げると、ガルフは驚いたように顔を上げた。
「大工を……ですか!? 俺の村にも、腕のいい大工がおります! しかし、この廃村の家屋を修繕するなど、資材も時間もかかるのでは……」
「問題ない。この領主館の修繕で、資材はどこで調達できるか、だいたいの見当はついている。それに、簡易的ながらも、短期間で住居を確保する方法もある」
俺は、王都から支給された物資の中にあった、いくつかの資料を思い出した。それには、簡易的な小屋の作り方や、効率的な資材調達の方法が記されていた。総務部長の雑務処理(A)が、そう告げている。
交渉成立だ。これで、村人の呼び戻しと、新たな住居の確保、そして建設技術者の確保という、大きなステップを踏み出せる。スローライフハーレムの実現へ向けて、着実に人脈が広がっていく。




