日報011:新体制と三つの柱
夜が明け、六日目の朝がスタートした。昨夜の一件でまだ眠気を感じるが、冷たい井戸水で顔を洗い、身支度を整える。新たな展開に胸が高鳴る。
領主館の広間へ出ると、セシリアとリリィはすでに起きており、領主館の周囲を警戒していた。
「慎一様、おはようございます! 昨夜の男たちが領主館の入り口にてお待ちしておりますが、いかがされますか?」
セシリアが、俺の顔を見るなり、少し心配そうな顔で尋ねてきた。リリィも、興味津々といった様子で隣に立っている。
「おはよう、二人とも。もう来ているのか! 早速だが、彼らにも今日の作業を割り振りたい。領主館の広間に呼んでくれるか?」
俺がそう告げると、二人の騎士は驚いたように目を見開いた。
「ええっ!? 早速、ですか!?」
リリィが素っ頓狂な声を上げた。セシリアも眉をひそめている。騎士としての彼女たちにとっては、不審者を取り締まるのが役目であり、雇い入れるというのは想像もしていなかったのだろう。
「ああ。彼らは今日から、この村の復興に協力してもらう事にする。」
俺は二人に、簡易的に昨夜の交渉内容を説明した。彼らがこの村の復興にどれだけ必要か、そして彼ら自身にもメリットがあることを丁寧に語った。最初こそ戸惑っていた二人だが、俺の言葉に、やがて納得したように頷いた。
「慎一様がそこまでお考えでしたら……承知いたしました。早速、彼らを広間にお連れします」
セシリアがそう言い、リリィと共に広間へと向かった。彼女たちの背中を見送りながら、俺は内心で安堵の息を吐いた。新たな人員の受け入れも、総務部長の重要な業務だ。
しばらくして、セシリアとリリィが、昨夜の男たち三人──リーダーらしき男は「ガルフ」、他の二人は「バルド」「ジーク」と名乗った──を連れて広間に戻ってきた。彼らは、騎士たちの鋭い視線に気圧され、どこか落ち着かない様子だ。
「よし、全員揃ったな。ガルフ殿たち、昨夜の交渉の通り、今日から君たちにはこの村の復興に協力してもらう。まずは、君たちの適性についてだが……」
俺は、彼らの目の前で復興計画書(初版)を広げ、指で農地開発計画の項目を指し示した。
「バルド殿、ジーク殿。君たちの土を掘る力は、昨夜、この目で確認させてもらった。その力と、これまでの経験を、この村の広大な農地の開墾に役立ててほしい」
二人の男たちは、顔を見合わせて驚き、そして喜色を浮かべた。彼らは、まさか自分たちの労働が、こんな形で「仕事」になるとは思っていなかったのだろう。
「──そして、リリィ殿。君には、バルド殿とジーク殿と共に、農地の開墾作業の『現場監督』を兼任してもらう」
俺がそう告げると、リリィは驚いたように目を瞬かせた。
「わ、私が、ですか!? 農作業の監督など、したことがありませんよ!」
「大丈夫だ。君のひたむきさと、指示への忠実さ、そして騎士としての身体能力は、農作業の効率化に貢献する。それに、君はこの村の復興計画の初期段階から関わっている。私がまとめた農場開発計画書を読めば、段取りはすぐに理解できるだろう。分からないことがあれば、私に聞けばいい」
俺は、リリィの知的好奇心と、新たな知識を吸収する喜びを刺激するように語りかけた。人材配置(A)が告げている。彼女は、単なる力仕事だけでなく、管理的な役割にも適性がある。将来は村の農業技術の指導役も任せたいので、今から慣れて欲しいという目論見もある。
リリィは、少し不安そうな顔をしつつも、やがて目を輝かせ、決意を固めたように頷いた。
「承知いたしました、慎一様! 私、全力で務めさせていただきます!」
「よろしい。バルド殿、ジーク殿、リリィ殿の指示に従ってくれ。彼女も、私と共にこの村を復興させるために来た、大切な協力者だ」
俺がそう言うと、バルドとジークは一斉に深々と頭を下げた。
「はっ! 慎一様! お任せください! 全力で務めさせていただきます!」
彼らの声には、昨夜の不安げな響きは消え、確かな決意と活力が満ちていた。これで、農地の開墾という最大の力仕事は、彼らに任せられる。人材不足という最大の課題が、一気に解決に近づいた。
「次に、ガルフ殿。君には、君にしかできない最も重要な任務がある。私の見たところ君には、鉱物を見つける嗅覚と、採掘に関する知識があるように見受けられる。しかし、あの場所は、君たちの掘り方ではいつ落盤してもおかしくない危険な状態だった。そこで、まず、採掘に取り掛かる前に、その鉱脈周辺の『安全確保』と『危険箇所の特定』を行ってもらいたい。具体的には、危機管理(EX)が算出した危険なポイントと、その対処方法を図で示す。君は、それを参考に、安全な採掘路の確保と、崩落防止の支柱設置など、採掘場の基礎的な安全対策を徹底してほしい。採掘作業は、安全が確認されてからだ」
「採掘作業の安全確認が出来次第、この村の貴重な資源であるミスリル鉱を、効率的かつ安全に採掘し、管理するのが君の仕事だ。もちろん、必要に応じてバルド殿やジーク殿にも手伝ってもらうこともあるだろう。」
そう言うと、ガルフは、他の二人とは違い、一瞬息をのんだ。自分の専門性を認められ、しかも危険性を指摘された上で「安全管理」という責任ある立場を提示されたことに、驚きと、同時に深い感銘を受けているようだった。
「は、はっ! 慎一様! 私に、そのような大役を……! 謹んでお引き受けいたします! 命に変えても、この鉱脈を守り、最大限の成果を出してみせます!」
ガルフは震える声でそう言い、深々と頭を下げた。彼の目には、単なる飢えを凌ぐためではない、プロとしての誇りと、新たな仕事への情熱が宿っていた。これもまた、人材配置(A)の成果だ。これで、鉱山事業にも本格的に着手できる。
「そして、セシリア殿。君には、私と共に蒸留器の本格稼働と、高純度アルコールの本格生産、それに村のインフラ整備、王都への販売準備といった、『管理業務』全般を担当してもらいたい。」
俺がセシリアに告げると、彼女は凛とした表情で頷いた。
「承知いたしました、慎一様! お役に立てるよう、尽力いたします」
セシリアは、その器用さと冷静な判断力で、蒸留器の精密な管理や、今後の王都とのやり取りを円滑に進める上で不可欠な存在となるだろう。まさに総務部長の「右腕」だ。
こうして、辺境の村には、新たな役割分担が敷かれた。バルドとジーク、そしてリリィが農地開墾を、俺とセシリアが蒸留器の運用と村全体の管理を担う。そして、ガルフにはミスリル鉱の採掘場の安全確保と監督という、新たな重要な任務が与えられた。
四十路のおっさん佐藤慎一の異世界スローライフハーレム計画。
辺境での六日目の朝を迎え、新たな仲間を得て、その計画は着実に、そして加速的に進行し始めたのだった。蒸留器から始まるビジネスも、いよいよ本格的な動きを見せるだろう。




